
認知症の行動·心理症状(BPSD)は、認知症の人が不安や混乱を 行動や気持ちの変化として表している状態です。
特別養護老人ホームでの認知症ケアで起こりがちな、もの盗られ妄想、易怒性、繰り返し行動、夕暮れ症候群について、その早期発見のポイントや施設での対応例について解説します。
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易怒性
易怒性の症状・メカニズム
易怒性は突然怒ったり、悪態をついたりする。叩いたり · つねったりする症状です。易怒性は、脳や神経伝達物質が変化することで起こりやすくなります。
前頭葉のはたらきの低下により、感情や衝動をコントロールして我慢することが苦手になります。
また、扁桃体 · 辺縁系が活発化することで、不安や恐れ、怒り等の感情が過敏になり、被害的で疑い深くなります。
さらに、セロトニンの低下やアセチルコリンの低下、ドパミンの異常などの神経伝達物質の変化により感情のゆれが大きくなります。
これらの脳や神経伝達物質の変化とは別に、睡眠不足、からだの痛み、空腹感、尿意、便意などの体の不快感が原因で怒りっぽくなる場合もあります。
易怒性の早期発見のポイント
易怒性は、表情→声→動作→拒否と進行し悪化していきます。以下の5つのポイントで早期発見に努めましょう。
眉間にしわが寄る、口を一文字に結ぶ、視線が鋭くなる、無表情になる
声が低くなる、言葉が短くなる、語尾が強くなる、返事が「うん」「はあ?」だけになる
物を乱暴に置く、ドアを強く閉める、頻回に立つ
「いい」「いらない」「あとで」などの発言が増える
「なんで私だけ」「あの人ばっかり」「ちゃんとやってくれない」などの発言が見られる
易怒性の対応のコツ
怒りをすぐに止めようとするのではなく、まずは本人の気持ちに理解を示します。
「びっくりされましたね」
発言の内容をすぐに否定したり、正そうとしたりせず、まずは受け止める姿勢を示します。
「教えてくださってありがとうございます」
一方的に指示するのではなく、本人が選びやすく、受け入れやすい伝え方を意識します。
「今はここまでで大丈夫ですよ」
刺激の少ない場所への移動など、気持ちを切り替えられるよう自然に働きかけます。
「席を替えてみましょうか」
夕暮れ症候群
夕暮れ症候群の症状・メカニズム
夕暮れ症候群は夕方になると「家に帰らないといけない」「迎えが来る」と言ってそわそわと歩き回るなどが現れます。
時間帯としては、15~17時頃に多く出現するほか、日没が早まる秋 · 冬に多く症状が現れます。夕方になると覚醒レベルの調整がうまくいかなくなる、体内時計(概日リズム)の障害によって起こります。
また、あたりが刻々と暗くなってくる変化や影が増えること、職員の交代や家族の帰宅などでザワザワし始めることなどの環境変化や、今がいつで、どこにいるかの感覚が不透明になり不安感が増強する見当識の悪化も原因となります。
夕暮れ症候群の早期発見のポイント
同じ質問を何度もする、時計や窓を気にし始める、「そろそろ帰らないと」などの発言が見られる
そわそわして何度も立ち上がる、キョロキョロと周囲を見る、表情が硬くなる
今日の日付や予定を何度も確認する、夕食や入浴など、その後の流れが分からなくなる
薄暗くなって影が増える、職員の交代や家族の帰宅などで周囲がざわつく、音に敏感になり「うるさい!」などの発言が見られる
夕暮れ症候群の対応のコツ
繰り返し行動
繰り返し行動の症状・メカニズム
繰り返し行動は、同じことを何度も聞く、同じ行動を繰り返すことです。
繰り返し行動は、自分の発言や行動したことの記憶が保てない短期記憶障害により、同じ質問を繰り返すことになるほか、目的なく同じ行動や言葉を何度も繰り返してしまう状態を指します。
繰り返し行動の早期発見のポイント
同じ質問をする間隔が「10分→5分→数分」と短くなり、行動の合間に考えたり落ち着いたりする時間が少なくなる
「今日は何日?」「今から何するの?」といった事実の確認から、「大丈夫?」「帰れるよね?」など、安心を求める質問が増える
眉間にしわが寄る、声が強くなる、相手の返事を待てずに次々と話しかける
同じ場所を何度も行ったり来たりする、扉や引き出しなどの開け閉めを繰り返し、なかなか止められなくなる
状況を説明したり訂正したりしても、すぐに同じ質問や行動が再開する
繰り返し行動の対応のコツ
「さっきも聞いた」「何回言えばわかるの」などと否定すると、不安が強まり、かえって再確認が増えることがあります。まずは落ち着いて受け止めます。
毎回言い方や声のトーンを変えず、職員・家族の間でもできるだけ対応を統一します。
「今はここで大丈夫ですよ」
メモやホワイトボード、カレンダー、時計などを活用し、本人が目で確認できるようにします。
「一緒に確認してみましょうか」
行動を無理に止めるのではなく、その動きを活かしながら安全な行動へ置き換えます。
「開け閉めを繰り返す」 → 確認係として役割をお願いする
「同じ質問をする」 → 一緒に予定やメモを確認する
介護者の焦りや疲れが本人に伝わることもあります。対応が難しいと感じたときは、無理をせず別の職員や家族に交代し、一度距離をとることも大切です。
もの盗られ妄想
もの盗られ妄想の症状・メカニズム
もの盗られ妄想は、お金 · 財布を盗られた、ご飯や薬に毒が入っている、配偶者が不倫をしているなどの妄想です。
もの盗られ妄想は記憶障害と不安と自尊心の防衛の3つが重なり合って起こります。記憶の欠落や誤認のために、自分で置いた場所を忘れて「物がなくなった」と不安に感じることが起点で、失われた能力を補おうとしても、柔軟に考えることができません。
被害感情や猜疑心に歪められ、思い込みを修正することができないため、妄想となって表れます。
もの盗られ妄想の早期発見のポイント
「どこに置いたかな?」と繰り返したり、同じ場所を何度も確認したりする
「無くなると困る」「誰か触った?」など、持ち物に対する不安や疑いを口にする
財布や通帳などを普段とは違う場所に隠す、手放さずに持ち歩くなどの行動が見られる
「あの人、さっき何してた?」など、特定の職員や家族の行動を気にするようになる
状況を説明したり事実を伝えたりすると、不機嫌になったり反発したりする
「確かにここにあった」「自分は覚えている」など、自分の記憶や認識への確信が強くなる
「盗られた」という認識だけでなく、誰が・いつ・どのように持っていったのかなど、話の内容が具体的に広がっていく
「自分が忘れるはずはない」など、自分の記憶や行動に問題がないことを説明しようとする発言を繰り返す
もの盗られ妄想の対応のコツ
「盗られていない」と事実を説明することを優先するのではなく、まずは物が見つからないことへの不安や心配を受け止めます。
「大切な物だから不安ですよね」
「一緒に確認しましょう」
本人だけに探してもらうのではなく、一緒に探す姿勢を見せることで、対立ではなく「一緒に解決する」関係をつくります。
見つかったら「良かったですね」と声をかけ、安心につなげる
大切な物の置き場所を本人と一緒に決め、いつでも確認できるようにしておきます。本人が分かりやすい方法で可視化することもポイントです。
ラベル:「財布」「通帳」など、中に何があるか分かるようにする
参考文献:
公益社団法人 日本精神科病院協会「ご家族と介護スタッフのための認知症の人の退院後のくらしを守る手引き」
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