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義務化された「職場での熱中症対策」介護事業者が気をつけるべきことは

毎年猛暑が繰り返される中、職場での熱中症対策が、かつてないほど重要視されています。

総務省の発表によると、2025年5~9月の間に熱中症によって救急搬送された人の数は10万510人にのぼり、調査が開始された2008年以降で最多となりました。そして同年の職場での熱中症による死傷者数(死亡および休業4日以上の人数)は1,681人に達し、こちらも調査開始の2005年以降最多を記録し、このうち死亡者数は15人にのぼります。

こうした深刻な事態を受け、熱中症の早期発見と重篤化防止を目的として労働安全衛生規則(略称・安衛則)が改正され、昨年6月1日より事業者による熱中症対策の実施が義務付けられました。ただ、このことをまだ十分に知らない事業者も多いようです。

そこで職場の熱中症対策が法令上強化された背景を紐解きながら、介護事業者が具体的にどのような対策を講じるべきかを解説します。

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職場の熱中症による死亡事故 原因は「初期症状の放置・対応の遅れ」

まず、安衛則は厚生労働省の省令ですが、1972年に労働安全衛生法(略称・安衛法)と同時に制定されたものです。安衛法、安衛則ともに労働者の安全と健康を守ることを目的とした重要な法令です。

安衛法が職場での安全衛生管理の基本的枠組みと事業者の包括的な責任を定めた、いわば概念的な内容に対し、安衛則は安衛法に基づく具体的な安全衛生管理方法などの基準を細かく規定したものです。そして安衛則も法的拘束力を持っています。

熱中症の被害に関しては、地球温暖化の影響により深刻化の一途をたどり、前述のようにこの猛威は職場にも及んでいます。そして過去の熱中症による死亡災害を分析した結果、非常に憂慮すべき事実が判明しました。厚生労働省が集計した2020~2025年の職場での熱中症による死亡例103件のうち100件、すなわちほぼすべての死亡原因は「初期症状の放置・対応の遅れ」に起因していたことがわかったのです。

「初期症状の放置・対応の遅れ」の詳細な分析では、発見の遅れが78件、異常時の対応の不備(医療機関に搬送しないなど)が41件でした。数字の合計が100件と合わないのは、両方とも原因で死亡に至った事例が含まれるためです。

厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について」より

そして昨年の安衛則改正では、高温、高湿度の環境での労働では、暑さ指数(WBGT)の値を把握し、一定基準を超える場合に具体的な予防措置を講じることが必要となりました。その基準とは具体的には「暑さ指数(WBGT)28℃以上、または気温31℃以上の環境下で、連続1時間以上または1日4時間を超えて実施する見込みのある作業」を行う職場となります。

送迎や屋外清掃だけでなく、入浴介助も該当する可能性

この条件だけを読むと、介護事業所の場合は無関係と思う人もいるかもしれません。しかし、実はこの条件を満たす可能性のある環境はいくつかあります。たとえば通所系介護事業者やショートステイやデイサービスを併設する施設系介護事業者ならば、送迎担当者が車外に出て乗降介助を繰り返す場合が該当します。送迎担当者の場合は、これに加え直射日光を浴びた車内の急激な温度上昇への警戒が必要です。これ以外にも屋外での清掃・施設管理業務、屋内ながらも冷房設備がない倉庫などでの業務も該当するでしょう。

また、実は施設系介護事業所特有の環境もあります。代表的なものが「入浴介助」です。高温多湿な浴室での作業は、職員の身体への負荷が大きく発汗量も著しく増加します。入浴介助のために冷房の効いた涼しいスタッフルームや居室から、熱のこもった場所へと移動を繰り返す際の急激な温度差も体温調節機能を狂わせる要因となります。

さらに介護業務は「担当の持ち場から離れられない」「決まった時間に休憩をとるのが難しい」といった事態が生じやすく、水分摂取を後回しにしたり、無理をして働き続けたりする傾向がある点にも注意が必要です。

職場の熱中症を防ぐための3つのアクション

安衛則改正による熱中症対策については、職員・社員の熱中症の発症に備えるために3つの具体的なアクションを取ることを事業者に義務付けました。

第1は「体制整備」です。これは熱中症の兆候がある職員・社員を早期に発見し、迅速に対処するための体制づくりです。「熱中症の自覚症状がある職員本人」や「周囲の職員」が、いつ、誰に、どのように報告するのかを明確にします。緊急連絡網の整備や、救急搬送に備えた医療機関のリストアップ、さらには1人作業をなるべく避ける体制を導入するなど、早期発見の網の目を張り巡らせることが求められます。

第2は熱中症が疑われる職員が出た際に、いかにして重篤化を防ぐかという「手順の作成」です。ふらつきや大量の発汗など、普段と様子が違うと感じたら直ちに作業から離脱させ、涼しい場所へ移動して水分・塩分補給と身体冷却を行います。その後、意識に異常があれば即座に救急搬送し、意識がはっきりしていれば経過観察を行う、といった職場の環境に即した具体的な手順を定めます。

第3は「関係者への周知」です。整備した体制や手順を、関係者全体に共有し周知徹底することです。たとえ立派なマニュアルを策定しても、現場の職員が知らなければ意味がありません。朝礼での定期的な声がけ、休憩室へのポスター掲示、チャットツールを使ったリマインドなどを通じて、各事業者で働く人全員がいざという時に迷わず行動できるようにします。

もっとも安衛則改正で義務化された早期発見・重篤化防止の措置に対応することはもちろん、それ以上に熱中症にならないための予防を徹底することが何よりも重要です。

まずは、屋内ではエアコンを適切に使用して高温多湿を避けるとともに、風通しの良い環境を整えることが最重要です。また、休憩室や事務室などには、すぐに冷水が飲めるウォーターサーバーや経口補水液・保冷剤をストックできる冷蔵庫やショーケースを設置すると、自然と水分補給が促されます。また、万が一熱中症が発生した際には、救急車が到着するまでに身体を急速に冷やす「アクティブクーリング」が命を救います。そのためにも、製氷機などを導入し、普段から大量の氷を準備しておくことが心強い備えとなります。

また、入浴介助など負担の大きい作業の前には、「プレクーリング(前冷却)」が効果的です。作業前に冷えた部屋で手を氷水で冷やす、あるいはシャーベット状のアイススラリーを飲むなどして、あらかじめ深部体温を下げておくことで、作業中の急激な体温上昇を和らげることができます。

同時に暑さが本格化する前から、数日~2週間ほどかけて少しずつ身体を暑さに慣らしていく暑熱順化も意識的に行いましょう。方法としてはざっくり言うと「無理のない範囲で汗をかく」ことです。日常生活の中での実践としては、屋外が過度に暑くない時のウォーキング、サイクリング、軽いジョギング、室内での軽い筋トレやストレッチなどです。普段の入浴をシャワーで済ませている人は、ゆっくり湯船につかることも適度な汗をかくことができる行動に該当します。

また、高齢者に対する注意事項と同様に自覚症状がなくても、作業の前後や合間に定期的に水分と塩分を摂取してください。持ち場を離れにくい場合は、マイボトルを手の届く場所に置いておくなどの工夫も必要です。 また、脱水症状になっていないか、自分で簡単にできるチェック方法があります。手の甲の皮膚をつまんで引っ張り、元に戻るのに2秒以上かかる場合や、親指の爪をギュッと押して白くなった状態からピンク色に戻るのに3秒以上かかる場合は「隠れ脱水症」の疑いがあります。尿の色が濃くなっている場合も水分不足のサインです。

一方、熱中症の発症は、当日の体調にも大きく左右されます。睡眠不足、朝食を抜く、前日の過度な飲酒は発症リスクを上げます。出勤前には十分に睡眠をとり、朝食をしっかりとる習慣をつけましょう。 また、糖尿病や高血圧症などがある人では、体温調節機能が低下している場合があり、熱中症の重症化リスクが高くなります。いずれにせよ自分の健康状態を正しく把握し、不安な場合は主治医や職場の管理者に相談して適切な配慮を受けるよう心掛けましょう。

もっともどれだけ予防策を講じても、熱中症のリスクをゼロにすることはできません。自分は大丈夫という過信を捨て、職場内でお互いの顔色や汗のかき方を確認し合うなどの意識を持つことも大切です。

厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について」

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