
厚生労働省は2026年3月31日、2006年3月31日付で当時の老健局計画課が発出した通知「認知症介護実践者等養成事業の円滑な運営について」(老計発第 0331007 号)の一部内容を改正して発出しました。新たな通知は老健局認知症施策・地域介護推進課長名で、今年4月1日から適用されます。
これは認知症介護に関する主要な研修体系である「認知症介護実践者等養成事業」の内容を見直し、新たな運用を開始するものです。具体的には単なるカリキュラムの修正にとどまらず、認知症ケアの思考基盤として「認知症本人と家族の尊厳重視」「認知症の人との共生社会実現」を置き、実践重視へと大きく転換するものです。介護現場にとっては、研修の受け方だけでなく、日々のケアのあり方にも影響を及ぼす可能性が高いといえます。今回はこの内容を解説します。
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改正内容を「認知症介護基礎研修(以下、基礎研修)」「認知症介護実践研修(以下、実践研修)」「認知症介護指導者養成研修(以下、指導者養成研修)」の区分ごとに整理します。
認知症介護基礎研修_大幅な変更は無く、運用上の位置付けが明確に
介護職の入口にあたる基礎研修では、大幅な内容変更はありません。ただし、運用上の位置づけが明確になった点は重要です。
従来通知では研修カリキュラムについて「迅速に適用されることが望ましい」との表現がありましたが、今回の改正ではこの記述が削除されました。基礎研修は介護サービス事業者で働く介護に直接携わる職員のうち医療・福祉関係の資格を有さない人を対象としていましたが、現在ではすでに受講が事実上義務化され、全国的に標準教育として定着したことを前提にした変更と考えられます。
一方、研修実施では対面の集合研修とオンライン研修のいずれでも対応可能という柔軟な運用は引き続き認められており、受講者の負担軽減や事業所の事情への配慮は今後も継続される見込みです。
認知症介護実践研修_理念・内容ともに大きく見直し
今回の改正の中核は実践研修です。実践研修には「認知症介護実践者研修(以下、実践者研修)」と「認知症介護実践リーダー研修(以下、実践リーダー研修)」の2つがあり、現場の中堅職員のスキルアップに直結する研修ですが、理念・内容ともに大きく見直されています。
最大の変化は、研修の目的そのものの転換です。従来は「生活の質の向上」「BPSD(行動・心理症状)の予防」が中心に据えられていましたが、改正後は「本人・家族の尊厳」「希望をもって暮らすこと」「共生社会の実現」といった価値が前面に打ち出されています。つまり、「問題行動への対応」から、「その人の人生をどう支えるか」へと視点が移行しています。
認知症介護実践者研修
現在、実際の実践者研修のカリキュラムは(1)認知症ケアの基本(2)認知症の人への具体的支援のためのアセスメントとケアの実践(3)実習、3つに分けられ、これらの各項目別に科目が設定されています。
改定では、まず(1)で新たに「認知症介護実践者研修の理解」(60分)という研修概要、自己の課題と学習目標を明確にする科目が加わります。また、従来の「認知症ケアの理念・倫理と意思決定支援」の科目が「認知症ケアの理念」に改編され、認知症の中核症状と行動・心理症状(BPSD)、原因疾患などへの理解に関する学習を充実させます。これに伴い同科目は180分から150分に短縮されます。一方で同科目に含まれていた認知症の人の意思決定支援関連の内容が切り離され、「権利擁護の視点に基づく支援」の科目に組み込まれ、こちらの科目の学習時間は従来の90分から120分へと拡大されます。
また、従来の「生活支援のためのケアの演習1」(300分)は、「生活支援の方法」(210分)へと改編され、より日常生活動作や社会活動に関わる支援に集中した科目となります。特徴的なことは、「行動・心理症状(BPSD)の理解と支援」(150分)という科目を新設し、BPSD対応をより充実させている点です。これは今回(1)で廃止された「QOLを高める活動と評価の観点」(60分)を再編し、かつ充実したと考えられます。
(2)では「学習成果の実践展開と共有」と「アセスメントとケアの実践の基本」の科目が、それぞれ60分から90分、300分から330分に拡大され、さらに従来は(1)にあった科目「地域資源の理解とケアへの活用」が、「共生社会を推進する地域資源の理解と展開」と名称変更のうえでこちらに移管され、120分から150分に拡大します。(3)では「職場実習の課題設定」が240分から300分に変更されました。
この結果、新たな実践者研修の標準カリキュラムは、講義・演習23時間(1,380分)、実習:課題設定300分、職場実習4週間、実習のまとめ180分となります(改定前は講義・演習24時間、実習:課題設定240分、職場実習4週間、実習のまとめ180分)。講義時間はやや縮小される一方、演習や実習の比重が高まり、学びを現場に還元することが求められます。
認知症介護実践リーダー研修
実践リーダー研修は、とりわけ大幅な標準カリキュラムの見直しが行われます。実践リーダー研修の内容は、(1)認知症介護実践リーダー研修総論(2)認知症の専門的知識(3)認知症ケアにおけるチームマネジメント(4)認知症ケアの指導方法(5)認知症ケア指導実習、に分かれています。
まず、(1)の科目「認知症介護実践リーダー研修の理解」は90分から60分に、(2)の「施策の動向と地域」は210分から120分に短縮されます。後者の大幅な短縮に関しては、従来の研修内容から認知症政策の変遷に関する講義を外したことが影響していると考えられます。その一方で(2)では認知症そのものやそのケアについて専門的知識を深める「認知症の専門的理解」の科目90分が新設されました。
(3)では「チームケアを構築するリーダーの役割」(180分)の科目が廃止された一方で、「ストレスマネジメントの理論と方法」「カンファレンス(会議)の技法と実践」の科目はともに120分からそれぞれ150分、180分に拡大します。さらに従来の「認知症ケアにおけるチームアプローチ」の科目が「認知症ケアにおけるチームマネジメントの理論と方法」と名称変更され、180分から240分に拡大し、よりマネジメントを意識した内容になります。端的に言えば、認知症の医学的理解や社会的課題に関する内容が追加され、リーダーには説明できる力が求められるようになっています。
(4)は従来、「職場内教育の基本視点(240分)」「職場内教育(OJT)の方法の理解(240分)」「職場内教育(OJT)の実践(360分)」の3科目で構成されていましたが、改定により「職場内教育(OJT)の理論と方法(420分)」「認知症ケア指導の実践方法(420分)」の2科目へと再編されます。内容としては理論だけでなく具体的な指導技術が重視されるようになりました。食事や排泄といった日常ケアや、BPSDへの対応場面を題材に、どのように職員を育成するかが問われます。さらに科目で習得すべき内容を見ると、実践リーダーの役割は「優れたケアを行う人」から「チームを動かし、人を育てる人」へと明確にシフトしています。加えて、地域施策への関与も求められ、事業所内にとどまらない役割が期待されています。
そのうえで(5)の中にある座学的な科目「職場実習の課題設定(240分)」「結果報告・職場実習評価(420分)」はともに180分への大幅に短縮されました。
全体では従来の講義・演習31時間(1,860分)、実習:課題設定240分、職場実習4週間、実習のまとめ420分が、講義・演習28 時間(1,680分)、実習:課題設定180分、職場実習4週間、実習のまとめ180分、へと改定されます。
認知症介護指導者養成研修_内容は効率化され、教育実践に重点
最上位に位置づけられる指導者養成研修も、方向性が整理されています。研修時間はやや短縮されていますが、内容は効率化され、教育実践に重点が置かれています。従来は研究的な要素も一定程度含まれていましたが、今回の改正では、教育技法や授業設計、模擬授業といった「教える力」の強化に軸足が移されています。
具体的な標準カリキュラムは、(1)認知症介護研修総論(2)認知症ケアにおける教育の理論と実践(3)認知症ケア対応力向上のための人材育成(4)地域における認知症対応力向上の推進、で構成されています。
改定により(1)では「研修の目標設定と研修総括」が従来の9時間から7時間に短縮されました。一方、(2)では「教育方法論」「授業設計法」「授業の実施と評価(旧称・模擬授業)」が、それぞれ14時間から16時間、28時間から35時間、14時間から16時間へと拡大します。
また、(3)では「職場研修企画」が14時間から12時間に短縮されましたが、(4)では「共生のために地域で支え合う体制づくり」の科目が1時間から2時間に拡大し、「他施設・事業所実習」の21時間が廃止され、新科目「相談援助の理論と方法」の7時間が新設されました。つまり行政との連携や地域における支援体制づくりも明確に位置づけられ、指導者には単なる研修講師にとどまらず、地域内の認知症施策を推進と相談の中核を担う役割が期待されています。
全体では従来の講義・演習112 時間、職場実習5週間(25 日)、他施設・事業所実習21 時間から、講義・演習128 時間、職場実習5週間(25 日)となります。
改定内容への変更期限は2027年4月1日 それまでは従来のカリキュラムでの研修も許容
冒頭で今回の見直しから見える「認知症本人と家族の尊厳重視」「認知症の人との共生社会実現」というキーワードを紹介しましたが、ここまでを概観すれば、これら各種研修を単に「知識を学ぶ場」から「時代に合わせて変革する仕組み」へと進化させたものだと言えます。つまり重要なのは、研修を受けること自体が目的ではなく、その成果を現場でどのように生かすかが強く問われる点です。とりわけ中堅職員やリーダー層には、ケアの質を高めるだけでなく、チーム全体を変えていく役割が求められます。
なお、今回の改定内容への変更期限は2027年4月1日付で、それまでは従来のカリキュラムでの研修も許容されています。とはいえ、各事業所は、研修受講の計画だけでなく、その成果を組織運営にどう組み込むかも含め、今から準備が必要です。
介護保険最新情報vol.1487「認知症介護実践者等養成事業の円滑な運営について」の一部改正について
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