
介護現場では、職員同士や多職種、利用者・ご家族とのコミュニケーションが欠かせません。
一方で、「言いたいことをうまく伝えられない」「相手に配慮しすぎて疲れてしまう」と悩むこともあります。
本記事では、自分も相手も尊重する「アサーティブコミュニケーション」について、基本的な考え方や3つのタイプ、介護現場で使える具体例、DESC法をわかりやすく解説します。
目次
アサーティブコミュニケーションとは
介護現場では、多職種との連携や利用者・ご家族との対話、後輩への指導など、日々多くのコミュニケーションが発生します。
多忙な業務の中で「自分の意見をうまく伝えられない」「相手に配慮しすぎて疲れてしまう」「つい強い口調で言い過ぎて後悔する」といった悩みを抱える職員も少なくありません。
そこでおすすめしたいのが、相手も自分も尊重しながら適切な主張を行う「アサーティブコミュニケーション(アサーション)」という会話の技術です。
基本概念と3つのコミュニケーションタイプ
アサーティブコミュニケーションとは、「自分と相手の双方の権利や立場を尊重し、誠実に・対等に・率直に自分の意見や気持ちを伝えるコミュニケーション技法」です。
自分の主張だけを無理に通そうとするのではなく、かといって相手の意見に流されて自分を犠牲にするのでもなく、互いにとって納得のいく「対等な関係構築」を目指します。
一般的に、人のコミュニケーションスタイルは以下の3つのタイプに分類されます。日頃の自分の関わり方がどれに当てはまるか振り返ってみましょう。
1. アグレッシブ(攻撃型)
自分の意見や都合を最優先し、相手の立場や気持ちを無視して主張するタイプです。
現場での例
後輩や他のスタッフに対し、 「なんで指示通りにやらないの!」「早くして!」 と強い口調や圧迫感を与える指示出しをしてしまう。
影響
周囲に威圧感を与え、チームの人間関係を冷え込ませたり、連絡・報告が滞る原因になります。
2. ノン・アサーティブ(非主張型)
自分の意見や希望を抑え込み、相手に合わせすぎてしまうタイプです。
現場での例
業務が手一杯なのに頼み事を断れず引き受けてしまう、 あるいは間違ったケア手順を見かけても注意できずに抱え込んでしまう。
影響
精神的なストレスが溜まり、 バーンアウト(燃え尽き症候群)や業務過誤のリスク が高まります。
3. アサーティブ(黄金律)
自分も相手も大切にするタイプです。自分の状況や気持ちを率直に伝えつつ、相手の事情にも耳を傾けます。
現場での例
「今〇〇さんの対応中で手が離せません。10分後でしたら手伝えるのですが、いかがでしょうか?」 と、現状と代替案をセットで伝える。
影響
自分の状況や意見を適切に伝えながら相手の立場にも配慮できるため、 職員同士の信頼関係が築きやすくなります。 結果として、報告・相談がしやすい職場づくりや業務の円滑化、ストレスの軽減にもつながります。
介護現場でアサーティブコミュニケーションが必要とされる理由
介護の現場において、アサーティブな関わり方はチームワークの向上と利用者へのケアの質に直結します。
多職種連携と業務の円滑化
介護現場は、介護職員だけでなく、看護師、理学療法士、医師、ケアマネジャーなど多職種がチームで動いています。
お互いの専門性や立場を尊重しながら「伝えるべきこと(利用者の状態変化やケアルール)」を正しく主張し合える環境がなければ、手違いや事故につながってしまいます。
多職種でスムーズに連携するためには、伝え方だけでなく、職種間の相互理解や「共通語」を持つことも大切です。
詳しくは医療・介護における「相互理解」と「共通語」の必要性でも解説しています。
職員自身のストレス軽減と離職防止
「断れない」「言いたいことが言えない」状態が続くと、特定の職員に業務負担が集中し、人間関係の悪化や早期離職の原因となります。
自分の状況を適切に発信できるようになることで、健全で風通しの良い職場環境を築くことができます。
アサーティブに伝える「DESC法」の実践ステップ
アサーティブなコミュニケーションを実践するための最も代表的なフレームワークが「DESC(デスク)法」です。
4つのステップに沿って言葉を選ぶことで、感情的にならず筋道の通った伝え方ができるようになります。
Describe:描写・事実
客観的な事実や相手の状況だけを淡々と伝えます。感情や主観を混ぜず、まず「何が起きているのか」を整理して伝えることがポイントです。
Express / Explain:表現・説明
その事実に対して、自分がどう感じているか、どう考えているかを伝えます。「私は〜と感じます」のように、「私」を主語にするアイ・メッセージを意識します。
Suggest:提案
状況を改善するために、具体的で現実的な解決策やお願い、代替案を提案します。相手が「何をすればよいのか」が分かる伝え方を意識しましょう。
Choose:選択
相手の反応に応じて、次に取る選択肢をあらかじめ用意しておきます。Yesの場合だけでなく、Noの場合にどう対応するかまで考えておくことがポイントです。
業務を頼まれた際の「断り・代替案の提案」の具体例
状況
自分の記録作業中に、同僚から 「〇〇さんの移乗介助を手伝ってほしい」 と頼まれた場合。
事実
「今、〇〇さんの申し送り記録を記入しているところです。」
気持ち
「すぐにお手伝いしたいのですが、今中断すると提出に間に合わなくなってしまいます。」
提案
「もしあと5分待っていただけるなら、記録が終わるので一緒にお手伝いできます。」
選択
「もし今すぐ移乗が必要でしたら、ホールにいる△△さんに声をかけてみてもらえますか?」
このように「ただ断る(アグレッシブ)」でも「無理をして引き受ける(ノン・アサーティブ)」でもなく、状況を説明して代替案を提示することで、相手の依頼を尊重しながら自分の業務も守ることができます。
まとめ
アサーティブコミュニケーションは、生まれ持った性格ではなく練習によって習得できるトレーニング技術です。
自分の意見を伝えることは、相手を攻撃することではありません。
自分を大切にし、同時に共に働く仲間や利用者を大切にするために、まずは日々の挨拶や簡単な業務連絡から「アサーティブな一言」を意識して取り入れていきましょう。
