folder_open 介護施設経営・運営 calendar_month update

【ニュース解説】管理者・経営者が知っておくべき高齢者施設の浸水害対策(1)復旧作業時の健康・安全管理 

2026年は各地で水害が発生し、介護施設もその被害を受けています。とくに豪雨と台風25号の上陸により相次いで水害に襲われた千葉県では、8月豪雨で74施設、台風25号では7施設の高齢者施設が浸水被害を受けました。こうした被害を受けた場合、職員の皆さんは利用者の安全確保と早期の業務復旧に向けて、極めて過酷な環境下で迅速な対応を迫られます。高齢者は、加齢に伴う生理的変化や慢性疾患により環境変化に非常に脆弱であり、皮膚トラブルや体温調節障害、精神的ストレスやせん妄を引き起こしやすい状態にあります。このような混乱期において利用者の生命と健康を守るためには、まず支援にあたる介護職員自身が自らの安全と健康をしっかり確保することが不可欠です。

今回は自施設が水害により浸水した場合に介護職員が把握しておくべき注意点について複数回に分けて解説します。第1回は復旧作業時の健康・安全管理です。

▶︎▶︎【無料ダウンロード】財務諸表から読み解く 黒字の特養 赤字の特養 
▶︎▶︎【無料ダウンロード】最低賃金上昇の波をどう乗り越えるか 〜介護施設が直面する課題への対策〜

発災時以上に二次被害や健康障害が発生しやすい復旧期

水害直後から復旧期にかけては、発災時以上に行動中の二次被害や健康障害が発生しやすいことが知られています。復旧作業にあたる際の留意点はいくつかあります。

もっとも重要なものの1つが感染対策です。水害で流入した汚泥や浸水した水には、下水だけでなく油分・有害化学物質・細菌類が大量に含まれている可能性があります。

このため汚泥を除去するなどの復旧作業時は感染防止対策を念頭に置いた適切な防護が必要です。作業時はゴム長靴、厚手の手袋、ゴーグル、マスクを必ず着用し、汚泥や粉塵が直接皮膚や目・口に入らないように保護してください。まだ浸水中に作業を行う場合は最低でも腰のあたりまで丈がある胴付長靴が適しています。作業終了後は手洗いとうがいを徹底しましょう。

また、汚泥中にはガラス片や釘などの鋭利な危険物が隠れていることがあります。特に全体重がかかる足の裏は、こうした危険物を踏んだ際にケガをしやすい部位です。こうしたケガは、破傷風菌が原因の感染症・破傷風のリスクがあります。破傷風については、一部で過去の感染症という誤認もあるようですが、日本では今でも年間100人前後の破傷風患者が発生し、このうち数%が命を落としています。

こうしたリスクを減らす対策は主に2つあります。1つは薄いステンレス板が入った「踏み抜き防止インソール」をあらかじめ靴底に装着することです。ホームセンターや通販では、2000円前後で購入できますが、購入時の注意点は使用する靴の足サイズから0.5cmほど小さいものを選ぶことです。踏み抜き防止インソールは表示されている足サイズから0.5cmほど大きめに作られている製品も少なくないため、足サイズと同じサイズのインソールでは、靴底に密着して装着できないこともあるからです。

2つ目の対策は平時に破傷風トキソイド(破傷風菌が作る毒素を無毒化したもの)が含まれたワクチンの接種です。日本では1968年から破傷風トキソイドを含む3種混合ワクチンの定期接種が始まり(現在は5種混合ワクチンを使用)、これ以前に生まれた人は破傷風トキソイドを接種していない人がほとんどです。

とくに1度も接種歴がない人は平時に接種を済ませておくことが肝要です。というのも、成人が破傷風に対する基礎免疫を獲得するための破傷風トキソイドを含むワクチンの接種は、3回接種、最短で7ヵ月かかるからです。ちなみに破傷風トキソイドのワクチンを接種した人では、ほぼ100%抗体が獲得できることが知られており、全額自己負担で接種しても1回あたりの費用(破傷風トキソイド単体ワクチン)は5000円前後で、コストパフォーマンスに優れています。

ただ、破傷風トキソイドワクチンは小児期に定期接種を完了した人でも10年ほど経過すると抗体価が低下することがわかっています。この場合は1回追加接種をしておきましょう。なお、破傷風感染のリスクが高い農業・土木作業従事者では10年ごとに1回の追加接種が推奨されています。

万が一ケガをした場合は、速やかに大量の水で傷口を洗い流して消毒し、医療機関を受診してください。作業場所に傷口洗浄用の清潔な水と消毒液を常備しておくことが重要です。なお、破傷風トキソイドワクチンを過去に接種した人の場合、受傷後すぐに接種することで発症や重症化を予防する効果も期待できます。

また、下水が混入している場合は大腸菌が原因の感染症も起こり得ますし、さらに粉塵の吸入や環境の変化により、インフルエンザなどの感染症や発熱が生じやすくなります。咳や発熱などの症状が見られた場合はマスクを着用し、無理をせず早めに受診・休養しましょう。

感電・火災リスクもある太陽光発電設備

一方、比較的軽く見られているのが感電対策です。電気機器などがある湿度の高い場所や冠水箇所での作業は、深刻な感電事故を引き起こすリスクがあります。たとえ浸水被害で停電中だとしても、いつ通電が再開するかはわからないため、建物内で復旧作業を行う場合は作業開始前に、必ず分電盤のアンペアブレーカー・漏電ブレーカー・安全ブレーカーをすべてオフにする必要があります。分電盤そのものがすでに浸水していたり濡れている場合は、素手で分電盤に触れただけで感電する危険があります。国土交通省および経済産業省の「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」によると、一度浸水した分電盤やキュービクル式高圧受変電設備、電気機器がある場合は、電力会社などに連絡し電気主任技術者などの専門家が安全を確認するまで絶対に近づいたり通電・再起動したりしてはいけません。

また、水に濡れた皮膚は通電しやすいことは多くの人が常識的に知っていると思われます。知らず知らずのうちに漏電した電気が水中に流れていることもあるため、水回りや湿った場所で作業する場合は、必ずゴム手袋やゴム長靴を着用し、浸水した電化製品は使用しないでください。

さらにこの電気関係で近年注意が必要になっているものが太陽光発電です。太陽光発電は、屋外に設置したパネルで発電し、それが接続箱→パワーコンディショナー→受変電設備へと流れています。太陽光パネルが浸水していない場合は、日照があれば発電は継続し、それが接続箱以降に流れ込んでいることがあり、それに伴う漏電による感電、さらには周囲の可燃物への引火による火災の危険もあります。浸水したこれらの設備付近には決して近づかないで下さい。

そして前出のように浸水により流入した汚泥にはガソリン、家庭用漂白剤、有機溶剤などの化学物質が含まれていることがあります。気象条件などによってこれらが揮発し、屋内に充満することがあります。屋内作業時は窓やドアを開けて常に換気を行い、頭痛や目の痛みなどを感じた場合は直ちに作業を中断して外へ移動してください。

水を抜き出したり屋内を乾燥させたりする際、発電機や排水ポンプなどのガソリン・ディーゼルエンジン機器を屋内で稼働させると、一酸化炭素中毒を引き起こし大変危険であることも覚えておきましょう。

さらに最近では被災地での被災者および被災者を支援する人たちでのメンタルケアの重要性は定着しつつあります。被災した施設の片付けや過酷な作業は、視覚的・嗅覚的にも大きな精神的負担を与えます。復旧作業時は漫然と続けず、時間を決めて睡眠と休憩を取り、職員同士でこまめに声を掛け合って孤立を防ぐことが大切です。

▶︎▶︎認知症ケアのお困りごとを精神科医がサポート!オンライン精神科医療養指導
▶︎▶︎「診療・処方箋発行」をオンラインで完結。皮膚科の診察を手軽に!