folder_open 介護施設経営・運営調査・レポート calendar_month update

【ニュース解説】特別養護老人ホーム55.8%が赤字経営に~令和7年度収支状況等調査

2025年度決算で特別養護老人ホームの半数以上が赤字に陥ったことが、全国老人福祉施設協議会(老施協)の「令和7年度収支状況等調査」の速報値から明らかになりました。同会の大山知子会長は、この結果について「事業の休止、廃止、廃業が急増している。介護崩壊と言うべき危険水域に達している」と危機感を露わにしています。

▶︎▶︎【無料ダウンロード】財務諸表から読み解く 黒字の特養 赤字の特養 
▶︎▶︎【無料ダウンロード】最低賃金上昇の波をどう乗り越えるか 〜介護施設が直面する課題への対策〜

老施協「事業経営が成り立たない危険水域」

「令和7年度収支状況等調査」は1,582施設から回答を得ました。この結果、赤字施設の割合が55.8%と半数を超えていることが分かりました。年度ごとに回答施設数が異なるため単純比較はできませんが、老施協が社団法人として設立された(現在は公益法人)平成17年以降の同調査で赤字施設割合が過去最高だったのは、コロナ禍による稼働率低下や急激な物価高騰が直撃した令和4年度調査の62.0%です。コロナ禍のような特殊事情がない状況でのこの数字は、実質的に過去最悪と言っても差し支えないでしょう。

このことは速報値の収支差率にも表れています。特養での収支差率は、民間企業で言う営業利益率に相当しますが、令和7年度調査の収支差率(補助金を除く)の平均値はマイナス0.8%となり、過去最低だった令和4年度調査のマイナス2.6%に次ぐ状況です。くどいようですが、令和4年度はコロナ禍という異常事態があった年度です。この令和4年度調査を除けば、これまで過去最低だった令和6年度の0.0%を下回っています。この結果を受けて老施協は「事業経営が成り立たない危険水域に陥っている」と評しています。

収入上向きも人件費拡大が経営を圧迫

さて今回の調査結果を現場の職員配置やサービス提供の状況から見ていきます。令和7年度調査では、利用者1人1日当たりのサービス活動収益は1万3,432円です。令和6年度調査と比べ、162円減少しました。ただ、これは直近比較の結果であり、長期的なトレンドでは上昇傾向です。

また、職員の配置状況を見ると、最低基準である利用者3人に対して介護等職員1人という基準に対し、令和7年度調査では平均で利用者数1.96人に対して介護等職員1人となっています。平成24年度調査以降、この数字はほぼ変動していません。約15年間、サービスの質を維持するために必要な実行配置は維持されていることが分かります。そして利用者1人当たりの収入も上昇しています。しかも、原則3年ごとに行われる介護報酬改定では、ここ約15年間で平成27年度を除いてプラス改定が続いてきました。

しかし、赤字施設の割合は平成24年度の調査との比較では33.5ポイントも悪化し、その後も悪化傾向が続き、令和6年度調査比でも5.8ポイントの悪化となっており、経営環境の悪化に歯止めがかかっていない状況です。

利用者単位で見れば、収入が上向きなはずなのにこうも赤字施設が増加してしまう理由は、費用を見ると浮かび上がってきます。令和7年度調査の人件費比率は66.1%、業務委託比率は5.8%でともに前年度比で0.2ポイント悪化しました。また、令和7年度調査では、事業費比率が17.2%、事務費比率が11.1%、水道光熱費比率が4.6%で、これらは令和6年度調査に比べ、それぞれ同等、0.4ポイント悪化、0.1ポイント改善となっています。もっとも平成24年度比較ではこれらはいずれもかなり悪化しています。

もう1つが利用率です。速報値の発表時には詳しく触れられていませんが、特養(入所)としての利用率は令和7年度調査では、93.2%で前年度調査から0.3ポイント低下しています。一方、短期利用の利用率は77.1%で前年度調査よりも2.3ポイント改善しています。

前者は年々漸減していますし、後者は前年度比では改善したとはいえ、かつては80%台後半だったことを考えればかなり落ち込んでいます。

一般の目から見ると「高齢者が増えているはずなのになぜ?」と言われそうですが、介護現場で働く人たちからすると理由は分かりますよね。

高齢化で入居・利用を希望する人が増えている一方で、介護現場では慢性的な人手不足が続いています。職員が不足している状態で、入所者を増やせば人員基準を維持できなくなります。このため新規の入所を制限せざるを得ない「見えない空床」が全国で頻発しています。さらにこの調査の経時的変化からも分かる通り、特養入所者の平均要介護度も年々上昇しています。人手が足りないという構造的な問題を抱えているのに、さらに年々増加する要介護度の高い入所希望者を受け入れることは困難です。

短期利用でも今説明した事情は同じです。ただ、短期利用に関しては、また特有の事情があります。短期利用ではここ数十年で事業所数が急増し、市場が過当競争になっているからです。利用者側にとって選択肢が増えたことで、地域内の人気施設に利用者が集中する一方、特徴を出しきれない小規模・中小の事業所では稼働率が低迷しやすくなっています。また、利用者の身体状況や家族の介護方針の変化によって、短期利用ではなく訪問介護や小規模多機能型居宅介護など、他のサービスへ流れるケースもあります。

さらにいえば日本全体で高齢化が進んでいるとはいえ、地域によって事情は大きく異なります。地方や中山間地域では、高齢化が急速に進んでいるものの、人口そのものが急減しており、地域全体の特養の需要が先細りしているケースがあります。一方で都市部では施設や高齢者は多いものの、土地代や賃金の高騰、あるいは競合施設の乱立により、特定の施設に利用者が集まらず稼働率が下がるケースが見られます。

まとめると「人手不足による受入制限」や「サービスの多様化・競合」、そして「地域の実態とのミスマッチ」が重なっていることが、利用率低下の主な原因となっているということです。

▶︎▶︎認知症ケアのお困りごとを精神科医がサポート!オンライン精神科医療養指導
▶︎▶︎「診療・処方箋発行」をオンラインで完結。皮膚科の診察を手軽に!

自施設のより積極的な広報、業務効率化を通じたコスト削減を

現在の特養の経営環境の悪化は、ボクシングで例えると、稼働率低下という体力を奪うボディーブローが続いている中で、人件費と物価高騰というストレートやアッパーカットのようなキメ技が大きな打撃を与えている状況と表現できるかもしれません。

さらに悩ましいのは、今さら言うことでもありませんが、介護報酬は公定価格であるため、高騰する経費の増加分を利用者向けのサービス価格に転嫁することができません。現場の努力だけでは、経営を維持することが極めて難しい構造になっているというのは、決して大げさな表現ではないでしょう。

現場で日々利用者のケアに真摯に向き合う介護職員や施設にとって、この経営難は決して他人事ではありません。日々の業務を続ける中で、物価高や人手不足、そして施設経営の悪化という三重のプレッシャーは確実に現場の負担を重くしています。

今後の介護現場が安定した運営を続け、利用者が安心して質の高いサービスを受けられる環境を守るためには、介護報酬の引き上げをはじめとする実効性のある支援策が急務となっています。幸いにして高市早苗首相は国会答弁などで、本来3年に1度である次期(2027年度)の介護報酬・障害福祉サービス等報酬の定期改定に向けて、「物価や賃金の上昇を適切に反映させること」、および「他職種と遜色のない処遇改善の実現を図ること」に強い意欲を示しています。

ただ、介護報酬の引き上げだけに頼るには考えモノです。業界関係者の皆さんはすでにご承知のように政治側が介護報酬の引き上げに意欲を示しても引き上げ幅には限界があるからです。

その意味でも既存の自施設の広報、業務効率化を通じたコスト削減などの努力は地味であっても継続していく必要があることは肝に銘じておくべきでしょう。

公益社団法人 全国老人福祉施設協議会「特別養護老人ホーム、令和7年度決算で55.8%が赤字 ~令和7年度収支状況等調査結果(速報)~」