
財務省の財政制度等審議会財政制度分科会は、4月28日に「持続可能な社会保障制度の構築(財政各論Ⅱ)」とした資料で今後の介護保険改革に向けた新たな提言を公表しています。今回は同資料内で言及されている2027年度の次期介護報酬改定を見据えた提言を紹介します。
端的に解説すると、介護現場の「生産性向上」を強力に推し進める方針や、サービス類型間における「収支差の是正」など、現場の経営や働き方に直結する具体的な論点が示されています。国が目指す「生産性向上と賃上げの好循環」の全貌や今後の報酬適正化がもたらす影響についてのポイントが明示された格好です。
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財務省「さらなる生産性向上による収益向上で賃上げを」
まず、同資料では2027年度介護報酬改定の主眼として「賃金・物価動向の変化に的確に対応する必要性」を強調しています。
現在の介護現場は深刻な人材不足に直面していることは関係者の中で周知のことですが、この改善のために賃金や物価動向を踏まえた処遇改善が急務である点は財務省も認識しています。ただし、あくまで現役世代の保険料負担の上昇抑制との両立を前提としています。現在、政治の世界では思想の左右を問わず、各政党が現役世代の保険料負担の軽減を訴えており、財務省側もこの点を意識しているとみられます。
この両立が前提ならば、単に介護報酬を引き上げるだけでは、賃上げに限界があります。このため財務省では、「介護現場が生産性向上に取り組み、対応可能な利用者が増え、収益が増加することで、職員の賃上げと、さらなる生産性向上投資につながる、という好循環を実現することが重要」と提言しています。
この生産性向上を起点にした好循環について財務省は、概念として以下のような考えを示しています。
〇生産性向上
・見守り・移乗・介護記録を支援する機器等を活用
・経営の協働化・大規模化
・職員1人当たりの対応可能な利用者が増加
⇓
〇収益増加
・利用者が増加し、事業所の収益が増加
⇓
〇賃上げ
・収益を活用した職員の賃上げ
・介護人材の確保
・職員増による対応可能な利用者数の増加
この一連の流れに加え、増加した収益を賃上げだけでなく、さらなる生産性向上に活用するというのが「好循環」の概念です。とくに生産性向上では、個々の事業所がインカムや見守りセンサーといった介護テクノロジーを導入するだけでなく、「事業所間のデータ連携」や「経営の協働化・大規模化」へと一歩踏み込んだ改革を進めるべきと財務省は主張しています。
「介護職員等処遇改善加算」で生産性向上→賃上げの好循環を目指す
実は財務省が考える好循環の第一歩は、すでに実施に移されています。2025年度補正予算や2026年度の介護報酬の期中改定として行われた「介護職員等処遇改善加算」の改定です。同加算の改定ポイントは、(1)対象を介護職員のみから介護従事者に拡大(2)生産性向上や協働化に取り組む事業者に対する上乗せの加算区分の新設、の2つです。
具体的には、介護従事者(244万人)を対象に幅広く月額1.0万円(3.3%)の処遇改善を実施し、生産性向上などの先進的な取り組みを行っている事業所で働く介護職員にはさらに月額0.7万円(2.4%)を上乗せしました。定期昇給分(月額0.2万円・0.6%)を含め、最大で月額1.9万円(6.3%)の賃上げが実現することを目指した措置が講じられています。
この中で(2)については同加算ⅠとⅡについて上乗せの4区分(Ⅰイ/Ⅰロ、Ⅱイ/Ⅱロ)を設け、うちのⅠロとⅡロの算定に関して、訪問・通所系サービスではケアプランデータ連携システムの利用か社会福祉連携推進法人への所属を2026年度特例要件としました。
生産性向上の鍵「LIFE」と「社会福祉連携推進法人」
また、今回の資料でも生産性向上の具体的な手法として「ケアプランデータ連携システム」と「社会福祉連携推進法人」の2つがクローズアップされています。
ケアプランデータ連携システムは、居宅介護支援事業所と各サービス事業所との間で、ケアプランのやり取りをオンライン上で完結させる仕組みです。印刷や郵送の手間がなくなり、介護ソフト間の連携でデータ転記も不要になります。
厚生労働省の「介護分野の生産性向上に向けたICTの更なる活用に関する調査研究」(2021年3月)によると、このシステムを導入することで、ケアプランに関する事務作業時間が事業所単位で1ヵ月あたり52.4時間から18.1時間へと、およそ3分の1に削減されることが実証されています。
この結果、2025年度補正予算の閣議決定が行われた同年11月時点で9.3%に過ぎなかったケアプランデータ連携システム導入事業所割合は、2026年3月時点のわずか4ヵ月間で28.2%へと急上昇しました。このため財務省は、賃上げ部分で生産性向上の取組をインセンティブ付けすることが効果的なことが示唆されるとし、2027年度介護報酬改定では、訪問・通所系で「介護記録ソフトなどのテクノロジー導入」も新たに要件に追加することを検討すべきだと提言しています。
また、複数の社会福祉法人が参画し、自主性を保ちながらバックオフィス業務などを共通化する「社会福祉連携推進法人」制度(2026年4月現在で全国38法人が認定)についても、請求代行や物資の一括購入によるコスト削減、合同での採用活動や研修など人材の確保・育成業務でのスケールメリット、小規模な社会福祉法人での人材・ノウハウ獲得などのメリットがあることを積極的に評価しています。
いずれにせよ財務省は、2027年度の通常改定でもこの仕組みを維持、さらには発展させる構えであることが、今回の資料からは伺えます。
サービス類型に応じた報酬の適正化(引き下げを含む見直し)検討へ
一方、次期介護報酬改定に向けて、財務省が今回示した最大の論点とも言えるのが、「サービス類型に応じた報酬の適正化(引き下げを含む見直し)」です。
財務省の資料では、近年の物価高騰の影響を受けつつも、介護サービス全体の利益率は、過去や他の中小企業と比較して「高い水準にある」と指摘しています。実際の数値では、2019~2024年度の中小企業の売上高経常利益率が2.6~3.8%の間で推移しているのに対し、同時期の介護サービス事業所の税引き前収支差率は3.9~7.0%であることを紹介しています。
さらに大きな問題として挙げられているのが、サービス類型ごとの極端な収支差です。2025年度調査での税引き前収支差率は、特養(2.0%)や老健(0.8%)などの施設サービスが厳しい状況にある一方で、訪問介護(12.4%)、通所介護(8.7%)、居宅介護支援(8.4%)といった在宅系サービスやケアマネジメントの収支差率は高い水準となっています。財務省は、2027年度介護報酬改定では、サービス類型やサービス提供の実態に応じて介護報酬を適正化する必要があると強調しています。
このことから改定の大きな方向性としては、施設系では引き上げ、在宅系では引き下げという形が予想されます。
サービス類型の適正化で、今回特にやり玉に挙げられているのが、「住宅型有料老人ホーム」に併設された事業所によるサービス提供です。こうしたケースでは、スタッフは同一敷地内を移動するだけでサービスを提供できるため、点在する一般の利用者宅へ個別訪問する場合と比べて、労働時間や移動コストが大幅に少なく済むことは、言わずと知れたことです。
厚労省の関連調査事業のデータによると、自宅に住む利用者を担当する場合と比べ、住宅型有料老人ホーム等の入居者を担当する場合の利用者1人当たりの月間ケアマネジメント投入時間は約22.8%(自宅:154分、有料老人ホーム:119分)短くなっています。また、訪問介護の1回あたり移動時間も同一建物減算なし事業所と比べ、同減算ありの事業所では61.1%(26.5分から10.3分)も短いことがわかっています。
この結果、ケアマネジメント事業所の平均収支差率は、同一建物減算なしの場合で6.1%、同一建物減算ありの場合で6.9%であり、収支差率5%以上の事業所割合も前者が約2割に対し、後者では約3割と併設事業所のほうが良好です。
加えて財務省は同一建物減算率がケアマネジメントで-5%、訪問介護で-10~15%であり、その効果は限定的なものとの認識を示しています。これらのことから2027年度改定では、この違いを考慮した住宅型有料老人ホームでのケアマネジメントや訪問介護の報酬の適正化をすべきだと強く主張しています。
2027年度介護報酬改定「効率化への取り組み」と「実態に即したシビアな評価」となる可能性
今回の財務省の提案から見えてくるのは、2027年度の介護報酬改定が、これまで以上に「効率化への取り組み」と「実態に即したシビアな評価」を伴うものになる可能性があるということです。
ケアプランデータ連携システムのように、業務効率化の取り組みがダイレクトに職員の処遇改善(給与上乗せ)の条件になっていく流れは、今後さらに強まります。 激変する社会情勢のなかで、介護保険制度というインフラを守りながら、現場の負担を減らし、給与を上げていくための「生産性向上と賃上げの好循環」の行方を、今後も的確に見守る姿勢が求められています。
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