
財務省の財政制度等審議会財政制度分科会は4月23日、今年度2回目となる分科会を開催し、「人口減少社会の中での総合的な国力の強化」と題した資料を公開し、少子高齢化時代に向けた介護業界の変革を促しました。さらに同分科会はこの5日後には「持続可能な社会保障制度の構築(財政各論Ⅱ)」とした資料を公表し、具体的な介護保険制度改革案の各論を提示しました。
公表された改革案の柱となるのが、サービス利用時の自己負担を2割とする対象者の範囲拡大です。背景にあるのが社会保障費の増大です。2026年度予算での介護保険費用は約14.6兆円に達しています。その財源構造は、半分弱に当たる約7.2兆円を税金(公費)が占め、残りの大半を40歳以上が支払う保険料(1号保険料と2号保険料の合計で約6.6兆円)となり、サービス利用者が窓口で支払う「利用者負担」の割合は全体のわずか7.4%(約1.1兆円)という内訳になっています。
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大企業の課長~部長級クラスの自己負担を2割に
介護保険の利用者負担は、2000年の制度創設時は一律1割でした。その後、2015年に所得上位20%の層が2割負担となり、2018年には特に所得の高い層が3割負担となる見直しが段階的に進められてきました。しかし、現在でも利用者全体(545万人)の91.8%に当たる約501万人が1割負担のまま据え置かれており、高齢化による介護費用の増加が見込まれる中で、給付と負担のバランスを確保し、保険料の伸びの抑制を図る観点から、財務省は「2割負担の対象者の拡大を図るべき」との主張を展開しています。
現在の介護保険の負担割合別の収入基準は、年金収入のみの単身高齢者の場合、年金収入が280万円未満で1割負担、年金収入が280万円以上340万円未満で2割負担、年金収入が340万円以上で3割負担となっています。
分科会で示された改革案で、新たに2割負担の対象として想定されているのは、年金収入のみの単身高齢者では収入が「230~260万円」の層です。財務省によると、この層を大企業に40年勤務し、厚生年金・基礎年金を受給した会社員と仮定した場合、現役時代の平均年収が約730~870万円(大企業の課長~部長級)に相当すると分析しています。
そして総務省の「全国家計構造調査(2019年)」によると、単身・要介護の後期高齢者でのこの年金収入層に当たる人たちの預貯金などの純金融資産の中央値は1,001~1,501万円に達しており、現役世代(40~50代)の中央値205万円と比べても、一定の負担能力がある層と財務省では位置づけています。
所得だけでなく資産も含めて負担能力を判断へ
具体的な範囲拡大に向けては、社会保障審議会介護保険部会で2つの配慮措置案を提示しています。
案1が「負担増に上限を設ける案」です。具体的には、年金収入の基準を引き下げて対象を広げる一方、急激な負担増を抑えるため、新たに2割負担となる人の月当たりの負担増加額を当分の間、予想される最大値2.2万円の約3分の1に当たる最大0.7万円に抑制するものです。この案で年金収入230万円まで基準を下げた場合、利用者の6.5%(約35万人)が新たに2割負担の対象者となります。
案2は「預貯金などの資産を勘案する案」です。所得だけでなく資産も含めて負担能力を判断する仕組みです。新基準に該当しても、預貯金が一定額以下(単身500万円、夫婦1,500万円以下など)の場合は、申請によって1割負担に据え置きます。この場合、2割負担となる人の増加は利用者の3.4%(約19万人)に抑えられる見通しです。
ちなみにこの2割負担の対象範囲の見直しについては、岸田文雄内閣時の2023年12月22日に閣議決定された「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」や2025年12月24日に行われた上野賢一郎・厚生労働大臣と片山さつき・財務大臣による大臣折衝のいずれでも、第10期介護保険事業計画が始まる2027年度の前までに結論を得る方針を謳っています。
一方、次期介護報酬改定に向けて、財務省が今回示した最大の論点とも言えるのが、「サービス類型に応じた報酬の適正化(引き下げを含む見直し)」です。
財務省の資料では、近年の物価高騰の影響を受けつつも、介護サービス全体の利益率は、過去や他の中小企業と比較して「高い水準にある」と指摘しています。実際の数値では、2019~2024年度の中小企業の売上高経常利益率が2.6~3.8%の間で推移しているのに対し、同時期の介護サービス事業所の税引き前収支差率は3.9~7.0%であることを紹介しています。
さらに大きな問題として挙げられているのが、サービス類型ごとの極端な収支差です。2025年度調査での税引き前収支差率は、特養(2.0%)や老健(0.8%)などの施設サービスが厳しい状況にある一方で、訪問介護(12.4%)、通所介護(8.7%)、居宅介護支援(8.4%)といった在宅系サービスやケアマネジメントの収支差率は高い水準となっています。財務省は、2027年度介護報酬改定では、サービス類型やサービス提供の実態に応じて介護報酬を適正化する必要があると強調しています。
このことから改定の大きな方向性としては、施設系では引き上げ、在宅系では引き下げという形が予想されます。
サービス類型の適正化で、今回特にやり玉に挙げられているのが、「住宅型有料老人ホーム」に併設された事業所によるサービス提供です。こうしたケースでは、スタッフは同一敷地内を移動するだけでサービスを提供できるため、点在する一般の利用者宅へ個別訪問する場合と比べて、労働時間や移動コストが大幅に少なく済むことは、言わずと知れたことです。
厚労省の関連調査事業のデータによると、自宅に住む利用者を担当する場合と比べ、住宅型有料老人ホーム等の入居者を担当する場合の利用者1人当たりの月間ケアマネジメント投入時間は約22.8%(自宅:154分、有料老人ホーム:119分)短くなっています。また、訪問介護の1回あたり移動時間も同一建物減算なし事業所と比べ、同減算ありの事業所では61.1%(26.5分から10.3分)も短いことがわかっています。
この結果、ケアマネジメント事業所の平均収支差率は、同一建物減算なしの場合で6.1%、同一建物減算ありの場合で6.9%であり、収支差率5%以上の事業所割合も前者が約2割に対し、後者では約3割と併設事業所のほうが良好です。
加えて財務省は同一建物減算率がケアマネジメントで-5%、訪問介護で-10~15%であり、その効果は限定的なものとの認識を示しています。これらのことから2027年度改定では、この違いを考慮した住宅型有料老人ホームでのケアマネジメントや訪問介護の報酬の適正化をすべきだと強く主張しています。
自己負担増が実現した場合、介護サービス利用控えは起こるのか
この2割負担の対象範囲拡大については、介護現場からは「自己負担が増えることで利用者がサービスを解約し、状態が悪化するのではないか」という利用控えへの懸念が根強いことは明らかです。
しかし、財務省は過去の2017年度老人保健健康増進等事業、2018年度老人保健健康増進等事業で行った2割・3割負担導入時の影響調査の結果を挙げています。それによると、2割負担導入後の2割負担者の95.5%、3割負担導入後の3割負担者の93.6%が負担引き上げ後もサービス計画上の合計利用単位数が「変更なし、または増加」と回答していることから、「一定以上の所得・資産のある利用者に対して、2割負担の範囲を一定程度拡大したとしても、介護サービスの利用控えに与える影響は限定的」との見方を示しています。
ちなみに同調査では「合計利用単位数が減った/サービス利用を中止した」と回答したのは、2割負担導入後の2割負担者で3.8%、3割負担導入後の3割負担者で5.2%であり、これらの人のうち「介護に係る支出が重い」ことを理由に挙げた人は、それぞれ1.3%と1.9%でした。
さらに財務省では、介護保険での月当たりの自己負担額が4.4万円を超えた場合に超過分を払い戻しする「高額介護サービス費」、医療保険と合わせた負担では医療・介護の利用者負担額が年間上限の56万円(月換算で4.7万円)を超えた場合の超過分を払い戻しする「高額医療介護合算サービス費」の制度があるため、過度な負担増を防ぐことができるとも主張しています。
「高額介護サービス費」を例にとると、特に利用者負担の平均が月3.2万円と比較的高額な施設介護の場合、2割負担になっても上限額の4.4万円で頭打ちとなるため、実際の負担増は平均して月1.2万円程度に抑えられることになります。一方、利用者負担の平均が月1.0万円程度である「在宅介護」では、もともとの利用額が低いため、2割負担への移行による影響は月数千円程度の増加にとどまるケースが多いとみられています。
財務省の提案 その実現性は?
いずれにせよ今回の改革案は、すぐに実行に移されるというものではなく、あくまで財務省の試案という位置づけです。また、紆余曲折を経た結果が、この通りに決着する保証はありません。ただ、確実視される少子高齢化の将来を俯瞰すると、現在の介護保険制度の土台を維持するために、経済的な余裕がある高齢層に相応の協力を求める方向性を避けて通れないことだけはほぼ間違いと言えます。
そして制度改正が実施されれば、ケアマネジャーを含む介護職員が、利用者やその家族から不安の声や問い合わせに対応する最前線に立たされることになります。その意味では、現状のような構想の段階からであっても、その方向性を理解しておくことは、利用者やその家族への対応の備えとなります。
現在の財務省の考えでも、負担増が一律ではないことは明らかであり、月額上限を抑える配慮措置・高額介護サービス費などの負担軽減策も用意されていることを今から正しく理解しておくことが重要です。
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