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WAM短観 9割の特養が資金繰り悪化傾向

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先月は新型コロナウイルス感染症の流行もようやく収まりそうな気配でしたが、ここにきて感染者が急増しています。この過去2年間のコロナ禍で医療法人、社会福祉法人は経営的にも打撃を受けたと言われています。最近の状況はどのようになっているのでしょうか。ちょうど先週、独立行政法人福祉医療機構(略称:WAM)が四半期ごと(6月・9月・12月・3月)に実施している「社会福祉法人経営動向調査(WAM短観)」の2022年6月調査分の結果を公表しました。結論から言うと、状況は好転しつつあるものの最近の物価高が今後の不安要素となりそうな予感です。そこで今回はその調査結果を解説していきます。

各設問は3段階の回答方式になっていて、業況判断に使われるDIという指標は、最もポジティブな回答の1の割合から最もネガティブな回答の3を割合を引いた%ポイントを使用しています。これは日本銀行が行う「短観」調査、正式名称「全国企業短期経済観測調査」と似ています。

調査(Web調査)はWAMにモニター登録している特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人519法人を対象にしていて、今回の有効回答数は418法人、有効回答率は80.5%で、調査の信頼性はかなり高いものと言えます。ちなみに回答法人の地域別で最も多いのは近畿ブロックの84法人、次いで南関東(東京を含む)ブロックが79法人、北関東ブロックが49法人などとなっています。、また、運営する特別養護老人ホーム規模別では定員30人以上99人以下が255法人と約6割で、立地の級地はその他の198法人を除く220法人中、5~7級地が161法人と8割弱を占めています。

経営状態やや改善も人手不足は深刻な状況に

まずDIを見ていきます。社会福祉法人単位でみると、業況判断は-4%(前回調査比7%上昇)、サービス活動収益―15%(同15%上昇)、サービス活動増減差額は-18%(同18%上昇)、サービス活動収支(黒字・赤字)は6%(同2%上昇)、資金繰りは―12%(同2%低下)、従業員数は―56%(同9%上昇)となりました。

これを特別養護老人ホーム単位でみると、業況判断は-13%(同10%上昇)、サービス活動増減差額は-17%(同10%上昇)、サービス活動収支(黒字・赤字)は7%(同1%上昇)、施設全体の従業員数は―50%(同11%上昇)、介護職員の確保は―82%(同2%上昇)でした。

端的に言ってしまえば、全体的に経営状態は改善しているものの、人手不足は相変わらず深刻で、なおかつ資金繰りはやや悪化気味ということです。

ここで気になるのが経営状況としてはいまだ厳しいとはいえ、前回調査に比べて経営状態は改善傾向にもかかわらず、資金繰りが悪化しているという点です。

ちなみに調査では先行き感についても同じ項目で聴取していますが、実は資金繰りと従業員数に関しては、社会福祉法人全体で見ても、法人の地域別、規模別でみても程度の差はあれ、今後さらに悪化するとの見通しが出ています。また、特別養護老人ホーム単位でみた場合、先行きとしては人手確保と他施設との競合で悲観的な見通しが増加しています。

原油・物価高が資金繰りにも影響か

さて気になるのが資金繰りという点です。今回の調査で今後の経営課題(複数回答、最大3つ)を挙げてもらった結果では、「収益の低下」「需要の低下」「人件費の増加」「人件費以外の経費の増加」「資金調達難」「職員確保難」の中で、やはり地域別、施設規模別にかかわらず、前回調査と比べて悪化し、かつ今回の調査による先行き見通しでも悪化しているのが「人件費以外の増加」です。

こうした結果を見越していたのでしょうが、今回の調査では「原油価格や物価高騰による影響」についても聴取しています。それによると、影響を受けていると回答した施設は回答施設の実に88.5%にものぼりました。影響を受けていると回答した施設のうち、2022年度上半期のサービス活動費用が前年度比5%以上増加する見込みと回答した施設は約半数の48.9%となりました(残る50.1%は影響はあるものの5%未満で「横ばい」との回答項目に分類)。影響が大きい勘定科目についてたずねた結果(複数回答、最大3つ)では、多い順に水道光熱費が95.6%、車輌費(ガソリン代等)、給食費が各が52.5%でした。

ご存じのように今回の原油価格や物価高騰に少なからぬ影響を及ぼしているのが、ロシアによるウクライナ侵攻です。産油国というと、日本ではアラビア海沿岸の中東各国のことばかりが思い浮かべがちですが、実はロシアは世界第2位の産油国です。

今回の戦争の影響で西側各国を中心にロシアへの制裁措置として、ロシア産原油の輸入制限を始めています。制裁措置を行った各国は原油調達先の変更を迫られていますが、その最も有力な調達先になる中東の各国が現時点であまり増産に積極的ではないため(原油高の方が彼らの実入りが多いため)、原油価格は高騰しています。

また、この戦争はもう一つの物価高を招いています。それは小麦です。小麦の輸出量世界トップはロシアです。現在ロシアは今回の戦争による制裁もあり、国内の食糧自給を安定化させるため小麦の輸出制限を行っています。加えて、世界第5位の小麦輸出国がウクライナです。ウクライナでは小麦の生産地域の多くが戦闘地域になり、かつ黒海沿岸の港湾都市(代表が一時報道で有名になったマリウポリ)の多くが現在ロシアに占領され、黒海の制海権もほぼロシアに握られているため、小麦の輸出がほぼ不可能です。

日本では小麦はほどんどが輸入に頼っており、現在でも小麦輸入は国が一括して行い、政府が定めた売渡価格で各民間企業が購入しています。この政府売り渡し価格(5銘柄加重平均)は、2021年10月から2022年4月の半年間で17%超も上昇しています。

「日本は米が主食だから、影響は限定的だろう」と思うのはやや早計です。まず、国内でもそうめんなどの麺類や菓子類は小麦製品が多いですし、小麦不足が米の需要と供給に影響を与える可能性もあるからです。というのも、世界的に見ると、中東地域、中東欧地域、アフリカ地域などでは原則主食は小麦を使ったパンなのですが、これらの地域では米もかなり消費します。小麦の調達不安は米の代替調達を招く可能性があり、世界的に米の供給不安が起こる可能性はゼロではないからです。

その意味で対岸の火事(ウクライナ侵攻)は、日本での各方面の「台所事情(これは財政事情という意味です)」を悪化させる可能性があるのです。そしてこうした経費増は特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人にとっては資金繰りの悪化、引いては今回の調査でも明らかになった人手不足を解消するための賃金にも暗い影を落としかねません。

こうした事情に配慮し、例えば神戸市では「コロナ禍における物価高騰対策福祉施設等緊急支援事業」と称して介護施設や障害児施設に対し、申請に基づく給付金支給も開始しています。事業名称を聞くと、「コロナ禍の影響が中心」と思うかもしれませんが、コロナ禍で経営状態が悪化し、そこに今回の物価高騰が直撃した介護施設や障害児施設が対象となっています。地域ごとにこうした支援策がないかを調べてみましょう。と同時にこれまでの各施設の業務内容に無駄がないか、サービスの質を落とさず外注化することで経費を節減できるものがないかなどの再検討も今のうちにしておくことが必要でしょう。

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