「介護老人保健施設や介護医療院の多床室でも室料の自己負担を」
12月4日の第234回社会保障審議会介護給付費分科会の大きなテーマになったのがこの問題です。すでに今年度の内閣の重要課題と次年度予算編成方針を示す「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2023」でも、この問題は「年末までに結論を得る」と明記されています。今回はこの行方について解説します。
20年間で約3倍に膨らんだ介護保険給付総額を背景に
まず、この多床室の室料自己負担問題が出てきた背景には、介護保険が置かれた現状があります。介護保険制度に基づく給付総額は2000年の制度発足年度は3.6兆円でしたが、2019年度には11.4兆円(地域支援事業も含む)と約3倍まで拡大しています。この間に65 歳以上が支払う全国平均の月額保険料も第1期介護保険事業計画(2000~2002年)の2911円から第8期(2021~2023年)の6014円まで倍増しています。
この2つの現実を考え併せれば、今後も進展していく高齢化の中で、今のままの給付を続ければ、保険料はさらに上がることになります。もっと言えば、それでも介護保険の持続性が担保できるとは言い難い状況です。このため出てきたのが、対応策の1つが今回の老健と介護医療院の多床室の室料負担です。
特養に関しては、生活の場で事実上終の棲家となっている観点から、2015年度から多床室入所者の室料負担がスタートしました。老健と介護医療院は、特養とはそもそも位置づけは別ですが、近年ではこれら施設でも在所・在院日数が長期化し、事実上の生活の場となりつつあるのではないかとの指摘があり、今回の多床室の室料負担が俎上に上ってきました。
老健でも6割以上が「死亡退所」となっている現状
厚労省側がこの議論に合わせて提出した、令和3年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査(令和4年度調査)によると、事実上の生活の場となっているかどうかを判別する指標になる死亡退所は、老健のうち「その他型」が60.3%、「療養型」が69.2%、介護医療院が54.8%。ちなみに2015年度から特養の多床室の室料負担開始について当時の介護給付費分科会で議論された際に示された特養の死亡退所率は63.7%(平成22年介護サービス施設・事業所調査結果)です。
今回厚労省が示した対応案は、介護医療院と老健の「その他型」と「療養型」の多床室入所者で、一定の所得を有する人に室料負担を求めるというものです。ただし、低所得者に配慮して利用者負担第1~3段階の人は補足給付で自己負担を増加させないこと、老健では状態変化で毎月負担が変わる事態を避けるため、前期介護保険事業計画期間の最後1年間で最も利用が多かった類型が療養型またはその他型だった場合に、その後の3年間室料負担を求めることとする、としています。
また、現時点で厚労省からは具体的な自己負担室料額の提示はありませんが、特養の多床室の室料が月額1.5万円程度であり、介護老人保健施設・介護医療院の多床室の面積が特養と比べて狭いことなどを踏まえて検討するとの提案が示されています。実際の施設基準では特養の多床室の場合、1人当たりの床面積は10.65㎡以上に対し、介護老人保健施設と介護医療院は1人当たり8.0㎡以上となっています。シンプルに考えるならば、特養の0.8掛けくらいが目安になると思われます。
分科会では反対意見も多数 見通しは不透明
もっとも今回の分科会では、この提案に「老健や介護医療院の多床室では特養と違って面積も狭く、プライバシーの保護も不十分」「老健、介護医療院の入所者は自宅を維持している場合も多く、2重負担になる恐れがある」など、反対意見も多数出ました。ただ、自己負担を認めるか否かは年末の予算編成にも関わるため、あと半月程度で結論を出さねばなりません。その意味ではかなり難しい決断を迫られることになります。
また、今回の室料負担が実際に発生した場合に起こり得ることは、医療必要度の高い人の一部が病院にとどまり続ける、すなわち介護保険創設の目的でもある社会的入院の解消に逆行する動きが再度顕在化してくる可能性です。いずれにせよ月末までこの点は目が離せない展開となりそうです。
厚生労働省 社会保障審議会介護給付費分科会(第234回)「多床室の室料負担(改定の方向性)」
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