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【ニュース解説】医師の働き方改革 医療機関連携など介護現場に影響与える可能性

厚生労働省

2024年度の診療報酬改定に関して、昨年12月8日に開催された社会保障審議会(社保審)の医療保険部会・医療部会の合同会議で最重要課題とされたのが「医師の働き方改革」です。今回はこの制度の概略を改めて紹介するとともに、介護現場に与える影響について解説したいと思います。

勤務医の時間外労働の上限を規制

「医師の働き方改革」は、単純に言えば、勤務医の時間外労働(以下、残業)時間の上限規制です。そもそも一般的な職業では、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える残業時間上限は、労働者と使用者(経営者や会社代表)間で交わす労使協定の1つである「時間外労働・休日労働に関する協定」、通称36(サブロク)協定を定めたうえで、月45時間かつ年360時間が原則です。ちなみに36協定という名称の由来は、時間外労働・休日労働に関する協定を規定しているのが労働基準法第36条であるためです。この上限は2015年から始まった国による一連の働き方改革により、2019年4月から大企業、翌2020年4月からは中小企業に対して既に適用が開始されています。

ただし、例外として臨時的な特別の事情があれば、▽1ヵ月では法定休日労働を含み100時間未満▽2~6ヵ月の平均で法定休日労働を含み80時間以内▽年間6ヵ月まで、の条件をすべて満せば、年間720時間までの残業時間上限が認められます。

さらにここで念のため解説しておくと、厚生労働省が死亡と業務の関連性が強くなる残業時間基準としている「労災認定基準(通称・過労死ライン)」は、1ヶ月100時間以上あるいは2~6ヵ月の平均が80時間超です。

2019~2020年に行われた一連の働き方改革では、建設業、トラック・バス・タクシーのドライバー、医師の3業種は2024年4月まで適用猶予とされました。今回の「医師の働き方改革」は、この適用猶予の解除に伴うものです。

厚労省資料より

新たな医師の残業上限は5つの分類に従って行われます。まず、原則すべての医療機関に対して適用される「A水準」は、休日労働も含め年間960時間以下かつ月間100時間未満となります。ただし、特例水準として以下に記述する4分類が設けられています。救急医療など地域医療に欠かせない医療機関「B水準」、医師の派遣を通じて、地域の医療提供体制を確保するために必要な役割を担う医療機関(主に大学病院など。派遣を受ける医療機関はA水準)「連携B水準」、長時間、集中的に経験を積む必要のある研修医を受け入れる医療機関「C-1水準」、特定の高度な技能の修得のため集中的に長時間修練する必要のある医師(認定専門医などを目指す医師)を受け入れる医療機関「C-2水準」の4つです。これらでの残業時間上限は休日労働も含め年1860時間以下かつ月100時間未満となります。「A水準」以外の医療機関は予め都道府県に申請して指定を受ける必要があります。

ただし、いずれでも月100時間未満の規定は、予め月100時間以上となることが見込まれる特定の医師に対し、面接指導の実施と労働時間の短縮、宿直回数の減少などの適切な就業上の措置を行う場合は適用されず、年間上限のみが適用されます。

また、そのうえで追加的健康確保措置として▽28時間までの連続勤務時間制限▽9時間以上の勤務間インターバル▽代償休息▽面接指導と必要に応じた就業上の措置(勤務停止など)を講じる義務が医療機関の管理者に課されます。追加的健康確保措置はA水準の医療機関では努力義務止まりですが、その他では義務となります。

追加的健康確保措置の中でやや分かりにくいのが「代償休息」かと思われます。これはその前の2つ、連続勤務時間制限と勤務間インターバルが緊急事態などで取れなかった場合の措置で、不足した休息時間を所定の労働時間中に時間休として取得、あるいは勤務間インターバルの時間延長で対応するものです。取得期限は代償休息が必要となる事態が生じた勤務の発生月の翌月末までと定められています。また、代償休息を前提とした勤務シフト作成は認められません。

この制度は2035年度末を目標にA水準とC-1、C-2水準に集約し、C-1、C-2の残業上限も現在より縮減する方向を目指しています。なお、入院病床を有する医療機関では付き物とも言える「宿日直」については、一定の条件を満たし、所轄の労働基準監督署に「宿日直許可」申請を行って認められれば、前述の労働時間規制を適用除外となります。

これらを概観するとわかりますが、新たな制度でも医師の残業時間上限は、一般的な過労死ラインすれすれです。医師になる人だけが先天的に頑強な体の持ち主であるはずがありませんから、働き方改革後も医師にはかなり無理を強いていることが分かります。

半数の医療機関が「働き方改革」実施による影響を懸念

この結果、どのような影響が医療現場に生じてくるのでしょうか?日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会の4団体で構成される四病院団体協議会が加盟病院と全国医学部長病院長会議傘下病院を対象に1月29日 ~ 2月9日にかけて緊急実施した「医師の働き方改革に関する状況調査」(回答施設1306 施設)の結果が3月25日に発表されました。

調査結果によると、現時点で医師の働き方改革により、「影響は生じない」との回答は、51.3%で半数強を占めたものの、「影響が生じている」が7.0%、「現時点では影響は生じていないが、今後生じる可能性がある」が35.0%、「自院では影響が生じていないが、地域で影響が生じる可能性がある」が6.7%で、何らかの影響があると回答も半数弱となっています。

四病院団体協議会 病院医師の働き方検討委員会 「医師の働き方改革に関する状況調査」より

具体的に生じている影響について自由記述から拾うと、「大学病院派遣の中止・縮小」「日当直業務を行う医師不足による確保困難および診療体制の縮小」「常勤医不足により今後の日当直体制の維持が難しいため、診療所化を予定」「(医師の)人件費」などが挙げられています。

調査時点での実際の派遣医師の派遣中止や削減などについては、「中止等の連絡なし」が84.7%で大多数ですが、「派遣を中止すると連絡があった」が3.6%、「派遣数を削減すると連絡があった」が5.7%で、約10%で影響が出ています。これはあくまで新制度開始前の数字で、制度スタート後に派遣元が派遣医師の労働時間が想定よりも長くなるとわかった場合などには派遣中止・削減などの判断が増えると予想されます。

四病院団体協議会 病院医師の働き方検討委員会 「医師の働き方改革に関する状況調査」より

医師の働き方改革により、このような派遣中止・削減、独自の採用活動により医師の確保に難を来すのはどのような医療機関でしょうか?おそらく最初に影響を受けるのは一定の急性期医療の機能を有する中規模以下の医療機関だと思われます。

介護施設は協力医療機関の連携の再構築の必要に迫られる場合も

介護業界に関して言えば、このことは特養など入所系施設にも大きな影響を及ぼします。というのも特養などの配置医師や協力医療機関は、この規模の医療機関が少なくないからです。とりわけこうした協力医療機関が夜間・救急のみならず日中の診療体制を縮小すると、入所者の急変時に今まで通りの対応を望めなくなります。その意味では今後、介護施設関係者は、既存の協力医療機関はもちろん地域内の他の医療機関のリソース変化に関する情報収集を強化し、場合によっては協力医療機関との連携体制の再構築も迫られる可能性があることを念頭に置く必要があります。

四病院団体協議会 病院医師の働き方検討委員会 「医師の働き方改革に関する状況調査」

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