厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)は2024年2月14日の総会で、2024年度診療報酬改定案を了承し、武見敬三厚生労働相に答申しました。今改定で新設される点数は数多くありますが、その中で介護関係者も知っておくべきものがいくつかあります。その中の1つが入院料としては10年ぶりの新設となる「地域包括医療病棟入院料」(1日3050点)です。この新設により、新たに「地域包括医療病棟」という病棟が定義されます。今回はこの内容について解説します。
高齢者救急搬送の増加を背景に新設
そもそもこの病棟と入院料の新設は、高齢化の進展とともに在宅(施設在宅)からの高齢者救急搬送が増加し、その多くが軽症・中等症患者である点が現場を悩ませていることが背景にあります。
より具体的に説明すると、救急搬送された高齢者が入院する場合、多くは急性期病棟となります。これ自体は予期しない急変を考えれば、間違いとは言えません。ところが近年の研究から、要介護高齢者が急性期病棟に入院した場合、ADLが低下し、それが要介護度悪化の要因になっていることがわかりました。理由は極めてシンプルで、急性期病棟ではADL維持のためのリハビリや介護対応などの機能が弱く、要介護高齢者の多くが安静に寝ていることを強いられがちであるためです。
この解決策として中央社会保険医療協議会の場では、
(1)急性期病棟の介護力・リハビリ力の向上
(2)急性期病棟に比べて介護力・リハビリ力が手厚い地域包括ケア病棟で対応強化
(3)急性期病棟搬送患者で地域包括ケア病棟での対応が可能なケースは同病棟への下り搬送を推進
などが検討されてきました。しかし、これらの対策はどれも「帯に短し 襷に長し」です。まず、(1)はそもそも現状では介護施設ですら人手不足なのに、病院でも介護人材を確保するのは難しいからです。さらに言えば、もし病院が介護人材確保に奔走した場合、介護施設と比べ相対的に収益性の高い病院のほうが高い給与を提示し、介護施設の人手不足に拍車をかける恐れもあります。(2)は地域包括ケア病棟の看護職員の配置基準が13:1(患者13人当たり看護職員1人)であるため、より重篤な患者の場合、十分な対応ができないとの意見が医療側から指摘されていました。(3)については重要な一手ではあるものの、これ単体では効果的とは言えない側面があります。
そこで今回編み出されたのが高齢救急搬送患者に包括的に対応する地域包括医療病棟とそれを評価する地域包括医療入院料の新設というわけです。
地域包括医療病棟とはどのようなものか
では地域包括医療病棟とはどのようなものでしょうか?まず、今回定められた施設要件では、大学病院やナショナルセンター(国立がん研究センター、国立循環器病研究センター)、一部のがん専門といった特定機能病院を除く病院の一般病棟を単位とし、急性期充実体制加算や専門病院入院基本料を取得していない医療機関であるとしています。つまり国公立や民間で専門医療や高度な急性期医療を中心に診療を行っている医療機関は対象外です。そのうえで「地域で急性疾患等の患者に包括的な入院医療・救急医療を行う必要な体制を整備する」とも定めています。さらに診断群分類別包括評価支払い制度(DPC)を採用している病院(DPC病院)が国に提出しているデータと同様のデータをDPC病院以外が提出している場合、現在診療報酬でデータ提出加算が算定できますが、地域包括医療病棟入院料算定では同加算の算定も要件にしています。これらを端的にまとめて言えば、急性期医療にもしっかり対応できる中小病院を念頭に置いていることになります。
また、地域包括医療病棟の新設は、前述のように増加する高齢救急搬送患者のうち軽症・中等症を念頭に置いているため、当然退院後の在宅復帰が目標です。このためより細かな施設要件として、病棟に常勤の理学療法士、作業療法士または言語聴覚士を2名以上、専任・常勤の管理栄養士を1名以上配置し、入院早期からのリハビリ実施に必要な構造設備を有する、ADL等の維持、向上、および栄養管理等に資する必要な体制の整備、脳血管疾患等リハビリ料および運動器リハビリ料の取得医療機関であることが定められています。さらに病棟の入院患者の平均在院日数21日以内、病棟の在宅復帰率8割以上も要件に加わっています。いわば最近介護施設でも声高に叫ばれている、リハビリ、口腔衛生、栄養を一体的に提供し、なるべく早期に在宅復帰を目指す病棟となります。
一方、施設基準で最も肝となるのが看護職員の配置基準です。地域包括医療病棟では看護職員の配置基準を患者10人に対し、看護職員1人、いわば看護配置10:1とし、看護職員の最小必要人数うち7割以上は看護師であると定めています。これは前述の(2)のように地域包括ケア病棟の13:1では重篤な患者に対応しきれないという声を反映したものと言えます。
また、地域包括医療病棟では、これまで診療報酬の入院基本料の一部で用いられてきた「重症度、医療・看護必要度」の基準が設けられています。この「重症度、医療・看護必要度」は個々の患者の状態に応じて、適切に医療資源を投入し、より効果的・効率的に質の高い入院医療が提供することを目的に導入されたものです。最終的には適切な看護人員配置の指標と病床の機能分化を促進する役割を期待されています。
「重症度、医療・看護必要度」は、A項目「モニタリング及び処置等」、B項目「患者の状況等」、C項目「手術等の医学的状況」の3項目で評価が行われます。この3項目内にはさらに細目があり、それに応じて点数が付けられます。ここでは細目の詳細は省きます。
そのうえで地域包括医療病棟では、▽既存の入院患者ではA項目2点以上かつB項目3点以上、A項目3点以上、C項目1点以上のいずれかに該当する患者が15%以上(看護必要度I)に加えて新規入院患者で入棟時B項目3点以上の患者割合が50%▽既存患者で上記と同じ項目点数を満たす患者が16%以上(看護必要度II)に加えて新規入院患者で入棟時B得点3点以上50%以上、のどちらかに該当することが求められています。
ちなみにここで「看護必要度I」と「看護必要度II」という用語の意味が分からない人もいるかもしれないので、念のために解説します。これは前述のA、B、C各項目の評価をどのように行うかで異なっています。看護必要度評価が診療報酬に導入された当初は、定められた院内研修を受けた看護師がすべての項目を目視で評価をしていました。しかし、後に診療報酬のレセプト電算処理システム用コードが導入されたことで、かなりの項目が同システムを使って評価することが可能になりました。
そこで現在の看護必要度評価は、A項目の専門的な治療・処置のうち、薬剤を使用するものとC項目を同システムで評価し、他は従来通り看護師が目視で評価する方式、A、C項目すべてを同システムで評価してB項目だけを看護師が目視評価する方式の2つが採用されています。このうち前者を看護必要度I、後者を看護必要度IIと定めています。
そうすると前述の2つの該当基準のうち、「なぜ看護必要度Iのほうが基準が甘いの?」という疑問が出てくる人もいるでしょう?ここは明確な説明はありませんが、看護必要度Iのほうが当然現場での評価の手間暇が多くなるので、その分だけ“甘くした”とやや踏み込んだ解釈を示しておきます。
さて実は地域包括医療病棟の入院料算定に当たってはまだ施設要件があります。まず、自分の病院内の一般病棟からの転棟割合は5%未満で、他の医療機関で救急患者連携搬送料を算定して搬送された患者あるいは救急車などで直接緊急搬送された患者の割合が15%以上としています。この要件はまさに冒頭で示したこの病棟の入院料新設の背景にある高齢救急搬送患者の増加を踏まえた要件と言えます。要は地域包括医療病棟では、「軽症・中等症の高齢救急搬送患者を積極的に受け入れてください」という国からのメッセージです。
また、この問題の解決策として一長一短の(1)~(3)までが示されてきたことは冒頭で述べました。その中で(3)は単体では効果が限定的とも書きました。これを踏まえ、今回の診療報酬改定では、(3)に関して下り搬送を評価する「救急患者連携搬送料」も新設されています。このことが早速、地域包括医療病棟の施設基準に組み込まれています。つまり2つの新設された診療報酬を両輪として、高齢救急搬送患者問題を解決したいという国の意図が示されています。
ちなみに「自分の病院内の一般病棟からの転棟割合は5%未満」という要件が気になった人もいるでしょう。これも国側の巧妙な仕掛けの1つと言えます。今回の地域包括医療病棟入院料1日3050点の算定要件のうち、看護配置10:1、看護師割合7割以上、平均在院日数21日以内は、急性期病院が算定できる6段階の急性期一般入院基本料2~6と同じです。ただ、これらの診療報酬は最も高い急性期一般入院基本料2でも1日1644点です。要はこの5%未満条項は「安直に院内で転棟させて稼ぐことは許しません」というメッセージです。
また、地域包括医療病棟でのこの入院料の算定は、入院日から最大90日間認められます。もっとも前述したように施設基準が平均在院日数21日以内なので、全ての患者でダラダラと90日間算定できるわけではありません。ちなみに同病棟で入院が90日を超えた場合、地域一般入院料3(1日1003点)に切り替えて算定しなければなりません。一挙に算定点数が3分の1未満に激減するわけです。
地域包括医療病棟の新設が介護経営に与える影響とは?
このようにしてみると、あれこれうるさい要件があるので、「どのような病院がこの入院料を算定するのだろう?」と思われるかもしれませんが、おそらく急性期病院では最も高い入院基本料である急性期一般入院基本料1(看護配置7:1)の要件を満たすことが難しくなった病院、現状の看護配置基準が同一の急性期一般入院基本料2~6の病院からの横滑り、あるいは看護配置基準が緩い地域包括ケア病棟からの移行などが考えられます。
では、この新設は介護施設にどのような影響があるでしょうか?1つ考えられることは、病院側がいわばリハビリ、口腔衛生・栄養管理の機能を強化するので、介護施設側は今までよりもLIFE関連加算などで求められるアウトカムが得にくくなることが想定されます。そして当然ながら、その中でもアウトカムを出していくならば、病院からの入所(再入所)者受け入れの際は、病院側との連携を密にしなければならなくなるでしょう。
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