2024年の診療報酬改定のポイントとして挙げられた(1)現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進(2)ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進(3)安心・安全で質の高い医療の推進(4)効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上の4点を解説していきます。
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医療機関、薬局でのマイナンバーカード利用の保険証の利用促進
「ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進」のうち医療DXに関しては、まず「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」の取り扱いが焦点となっています。これはオンライン資格確認体制を有する医療機関、薬局でのマイナンバーカード利用の保険証(マイナ保険証)の利用を促進するために新設されたものです。マイナ保険証を利用しない人の保険点数が利用する人より高く設定されています。この理由はシンプルでマイナ保険証を利用しない人は自己負担が増えるため、自己負担の少ないマイナ保険証利用へと誘導する狙いがあります。ただ、医療機関、薬局にとってはマイナ保険証利用が進むほど、この加算から得られる報酬は減るということにもなります。マイナ保険証利用を促進させるため、2023年12月末までは同加算点数にさらに特例上乗せが行われています。
ただ、まだまだマイナ保険証の利用率が低調なため、特例上乗せの継続も含め、利用促進のためにこの加算の扱いをどうするかが焦点です。
電子処方箋の利用推進
マイナ保険証とやや関連しますが、今年から始まった電子処方箋の利用推進に対する評価も医療DXの論点です。紙の処方箋がデジタルデータに置き換わり、クラウドの「電子処方箋管理システム」を介して医療機関と薬局とでやり取りがされます。
オンライン資格確認で医療機関や薬局が得られる薬剤情報はレセプトデータであるため、得られる情報にタイムラグがありますが、電子処方箋利用者の場合、本人が同意すれば管理システムに蓄積された過去100日間のデータが閲覧でき、リアルタイムでより確実な重複・禁忌投与チェックなどが可能になります。
ただ、こちらも現在利用がまだ進んでいません。医療機関、薬局とも導入に際し電子カルテシステムの大幅改修が必要で、さらに薬局での効率的運用を考えると、電子処方箋の閲覧が可能なタブレットを各薬剤師1台の保有が望ましいなど、ハードコストが高くつくからです。このため、導入済みの薬局では、電子処方箋をわざわざ紙に出力をして業務を行っている事例も報告されています。このようなことから導入コストの公的補助や運用コストに相当する診療報酬の新設を望む声があり、この点が検討されています。
サイバーセキュリティ対策
もう1つ触れておかねばならないのがサイバーセキュリティ対策に対する評価です。ご存じのように国内でも複数の医療機関がランサムウェア攻撃にあったことは記憶に新しいかと思います。このためサイバーセキュリティに関してはにわかに注目が集まっています。診療報酬で見ると、病院の診療録の管理体制を評価する「診療録管理体制加算」の算定要件として400床以上病院では、情報セキュリティの方針の策定情報や対策を推進する役目を担う医療情報システム安全管理責任者の配置を義務付けています。また、同加算ではデータバックアップについてオフライン形式をすい称しています・
ただ、中小医療機関では医療情報システム安全管理責任者が配置されていない場合も多く、国内全体で見てもサイバーセキュリティを念頭に置いたBCP策定やオフラインバックアップなどを実施しているのはまだ少数派です。これらについて対策を行っている医療機関を診療報酬で評価しようというのが厚労省の考え方ですが、義務化は必要なものの診療報酬を当てるべきではない」という意見や「義務化は非現実的」とする意見が対立しています。
リハビリテーションの医療・介護連携
地域包括ケアに関連する改定議論としては、リハビリテーション、栄養面での医療・介護連携などが改定テーマとして浮上しています。
現在では疾患別リハビリテーションなどで早期のリハビリテーション開始、医療保険での急性期・回復期リハビリテーションと介護保険での通所・訪問リハビリテーションのシームレスな実施が効果的なことが明らかになっています。しかし、これまでの調査からリハビリについては「医療・介護間で情報共有が上手く進んでいない」という課題が浮上しています。
介護保険でのリハビリテーション利用者のうち、医療保険での疾患別リハビリテーション計画書が入手できているケースは4割強、介護保険側のリハビリテーション提供者が利用者の医療機関での疾患別リハビリテーションの分類すら把握していないケースが約3割にものぼる状況が浮き彫りになっています。
このため介護報酬の改定議論では通所・訪問リハビリテーションの基本報酬算定要件に、▽医療機関のリハビリテーション計画書を入手したうえでのリハビリテーション計画作成の義務化▽通所・訪問リハビリテーション事業所の理学療法士などによる退院前カンファレンス参加・退院時共同指導を新たな加算で評価、の検討が進んでいます。
こうしたことを鑑み、診療報酬でも▽疾患別リハビリ料の通則に医療機関から介護保険事業所などへのリハビリテーション実施計画書の提供を位置づける▽退院時共同指導料算定に当たっての共同指導参加職種に「老人保健施設、介護医療院などの訪問リハビリ事業所の医師・理学療法士等が参加することが望ましい」旨を明記、などの案が厚労省から提示されています。
栄養・口腔管理の医療・介護連携
栄養管理でも医療・介護の連携状況が十分とは言えない現状があります。ただ、診療報酬には、患者の入院中の栄養管理などに関する情報を入院医療機関から介護保険施設の医師または管理栄養士に提供した場合の評価に「栄養情報提供加算」があります。これに対して介護報酬での栄養に関する情報連携に関わる報酬としては、入所者が入院を迫られ、同じ施設に再入所する際に経管栄養または嚥下調整食を新規導入した場合に限り、介護保険施設の管理栄養士が病院での栄養に関する指導またはカンファレンスに同席し、医療機関の管理栄養士と連携して再入所後の栄養ケア計画を作成した場合に認められる「再入所時連携加算」という報酬しか存在しません。
そこで今後の方向性として、▽介護保険施設の管理栄養士が介護保険施設の入所者の栄養管理に関する情報を文書で他の介護保険施設や医療機関などの医師または管理栄養士、介護支援専門員に文書などで提供することの評価新設▽再入所時連携加算を療養食の提供まで拡大、とする検討が行われ始めています。
さらに口腔管理に関しては、現在のリハビリ実施計画書に「口腔状態」の記載項目ないためこれを追加することや回復期リハビリ病棟と歯科医療機関との連携を診療報酬で評価する方向性の検討が進んでいます。
また、介護領域と同様に医療側でもこのリハビリテーション、栄養管理、口腔管理の三位一体提供の重要性が認識され始めており、回復期リハビリテーション入院患者に対する口腔の管理を推進するために、現在はリハビリテーション実施計画書に項目のない口腔管理を追加することや、歯科医療機関との連携方について評価することが考えられているほか、急性期ではADL悪化を防ぐ取組としてADL維持向上等体制加算があるものの算定施設数が少ないことからリハビリテーション、栄養管理、口腔管理の三位一体運用が可能な報酬の構築が検討され始めています。
高齢の救急搬送患者の対応
地域包括ケア関連では高齢の救急搬送患者にどのように対応するかも検討されています。
これは高齢化の進展とともに救急搬送される高齢患者が増加し、その中でもとりわけ軽症・中等症患者の割合が増加していることが問題視されています。
こうした軽症、中等症の高齢者を急性期病棟で受け入れた場合、急性期医療がマヒする可能性があることに加え、急性期病棟は高齢者の介護やリハビリテーションを念頭に置いた機能が弱いため、結局ADLの低下や寝たきりを招き、最終的に高齢者の要介護度の悪化を招く恐れもあるからです。
この対応については、▽急性期病棟での介護・リハビリテーションに関する能力強化を向上させる▽介護・リハビリテーション機能を一定程度有している地域包括ケア病棟で救急搬送の高齢患者受け入れを強化▽急性期病棟に搬送された患者で地域包括ケア病棟などでの対応が可能な患者の急性期病棟からの転送推進、などを評価する案が検討されています。
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