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【ニュース解説】介護士の93%「暑さが原因の体調不良を経験」61%「熱中症になったことがある」

今年の夏は記録的猛暑が日本列島を襲っています。7月の平均気温は2年連続過去最高を更新。福岡県太宰府市では8月27日時点で最高気温が35℃以上の猛暑日が40日連続となり、国内の猛暑日最長記録を更新し続けています。

総務省消防庁の集計では、7月に熱中症で病院に搬送された人は全国で4万3195人。同集計が始まった2008年以降では、2018年の5万4220人に次ぐ多さとなりました。このうち死者は62人。入院が必要な「中等症」「重症」の合計は全体の3分の1以上にあたる1万5326人でした。また、搬送者の59%が65歳以上の高齢者です。

従来から外気温の上昇やのどの渇きに対する感度が加齢により低下した高齢者では、熱中症への罹患とそれによる死亡のリスクが高いことが知られています。加えて現在の国内高齢者層は家庭にエアコンが常備されていない時代を経験している世代のためか、エアコン使用そのものを避けたがる傾向があることなども熱中症リスクの高さに影響していると言われています。

訪問系サービスやユニット型の施設系サービスの場合、住環境上、熱中症リスクのある居宅・居室にいる利用者を介護職員が訪問し、そこで介護を行うため、高齢者とともに介護職員も熱中症のリスクにさらされます。

こうした中で人材マッチング事業を行う株式会社SOKKIN(本社:東京都新宿区)が2024年8月中旬に現役介護士を対象に介護士の熱中症対策に関するアンケートを実施。その結果を公表しました。同調査は回収サンプル数が59票と小規模ですが、同種の調査結果はほとんどないため非常に貴重なものと言えます。今回はこの内容について解説します。

訪問系だけでなく、入居系でも熱中症のリスクは高い

まず、「勤務中に暑さが原因での体調不良を経験したことはありますか? 」という問いに対しては「経験がある」との回答が93%にも上りました。具体的な症状(複数回答)の最多は、「疲れやすい」が54%、「倦怠感」が53%、「頭痛」が36%、「食欲不振」が31%、「めまい」が20%などとなりました。暑さが原因の体調不良だけならば酷暑ではありがちですが、「勤務中に」という前提が付く中ではかなり高いと言えます。

症状と発生状況に関する主な自由記述回答を以下に列挙します。

・入浴介助後に強い頭痛と吐き気に襲われた(40代男性)

・入浴介助が続き、飲水や休憩が取れなくて、頭痛や倦怠感が出現した(30代女性)

・施設内でもしっかり冷房が効いている場所とそうでない場所があり、洗濯物を干す時や倉庫に近い備品の補充などそうでない場所での作業が続いて、疲れやすさなどの体調不良が起きた(40代女性)

・利用者宅での身体介護中、特に入浴介助の際は浴室内の蒸し暑さと身体的負担で、めまいや吐き気を感じることがよくある。マスク着用も熱中症リスクを高めていると感じています。冷房の効いていないご自宅も多く、訪問中は常に熱中症の危険と隣り合わせ(30代女性)

・入浴介助の際、浴室内の温度と湿度が高くなり、汗が止まらなくなった。その時は、めまいと吐き気に襲われ、しばらく休憩を取らざるを得なかった

・食事介助や排泄介助の際に、大量に汗をかいて脱水気味になり、フラつくこともしばしば」(50代女性)

・クーラーが嫌いな介護者さんがいるので、そこの部屋はムシムシしていて暑さが強烈。扇風機だけ回して過ごしており、お風呂の手伝いや着替えなどさせている時に汗がダラダラ出てきて、終わった頃には全身びしょびしょになっている。汗をかきすぎてめまいや吐き気がすることがあり、その時は車に戻ってエンジンをかけて休ましてもらっている(40代男性)

・施設内でもしっかり冷房が効いている場所とそうでない場所があり、洗濯物を干す時や倉庫に近い備品の補充などそうでない場所での作業が続いて、疲れやすさなどの体調不良が起きた(40代女性)

このようにしてみると、入浴介助のようにかなり体力を要する介護を行っている時、利用者宅で冷房を使用していない時などが暑さによる体調不良を起こしやすい状況に陥りやすいことがわかります。

ただ、抜粋した自由記述でもわかるように施設内でも暑さによる体調不良が起きています。今回の調査での回答者の勤務サービス種別では7割超が施設勤務者です。にもかかわらず、ほぼ全員が暑さによる体調不良を経験している事実は、施設内勤務でもそれなりに熱中症リスクがあると考えなければ説明がつきません。この辺は利用者本人による室温設定ができるユニット型の施設が増加していることなども影響しているでしょうが、施設そのものの対策も欠如している可能性がうかがえます。

「勤務中に熱中症にかかったことはありますか?」との問いに対しては「頻繁にある」が7%、「ある」が54%。ざっくり言えば介護職の過半数が業務中に熱中症を経験していることになりますので、驚くべき現実です。

熱中症対策は個人の取り組みがほとんどで職場単位の取り組みは不十分

「日常的にどのような熱中症対策を行っていますか?」(複数回答)という問いに対して最多は「こまめな水分補給」が81%、次いで「十分な睡眠」が51%、「適度に塩分をとる」が37%などという結果です。また、「熱中症対策で使用しているグッズはありますか?」という問いでは、最多は「汗拭きシート」が37%、次いで「ネッククーラー」が36%、「携帯用扇風機」が34%などでした。

一方で職場での対策も気になるところです。この調査では「職場で行っている熱中症対策はありますか?」という問いがあり、それに対する回答は「対策はあるが不十分」が最多の59%、次いで「十分な対策はある」が22%、「対策がない」が19%。あくまで回答した介護職自身の評価によるものなのでバイアスは否定できませんが、実に81%が職場の熱中症対策が十分でないと評価していることがわかりました。この設問で対策が不十分、あるいはないと回答した人の自由記述は以下のようなものです。

・サービス上で外出するのを午前中の特定の時間のみにしている。(20代男性)

・携帯用扇風機の貸し出しと経口補水液の常備。(40代男性)

・施設内では、エアコンによる温度管理や冷水機の設置などの対策が取られているが、スタッフの人数が少ない時は、休憩を取ることが難しく、熱中症のリスクを感じる。また、冷感グッズの支給もないため、自己防衛が必要な状況。(50代女性)

・あくまで、利用者様優先なので、利用者様が暑いと言わないとクーラーを使わないから。(40代女性)

・個室含め利用者が使う場所の空調は問題ないが、倉庫内は不十分。(40代女性)

・まだまだ熱い場所があり地獄。(20代女性)

・扇風機などが増やされただけで、特別な対策は無い。(30代女性)
・訪問介護では、利用者宅の設備環境に左右されるため、会社としての対策は難しいのが現状。介護職員一人一人が自己防衛するしかないというのが正直なところ。せめて、冷感グッズの支給や車両へのエアコン設置など、最低限のサポートは欲しい。(30代女性)
・正直、会社の熱中症対策はほとんどない。休憩室にクーラーがあるくらい。人手不足だから思うように休憩も取れないし、熱中症対策グッズの支給もないので、自分で何とかするしかないのが現状。(10代男性) 

これら評価に関して、管理者・経営者目線では「厳しすぎる」という声もあるかもしれません。しかし、前述の日常的な熱中症対策やグッズの回答を見る限り、個人レベルの自衛策に近いものがほとんどです。従来から言われている介護職の賃金水準を考えれば、業務上の熱中症対策に個人が支出するのはかなり負担が大きいと言えます、その意味で対策グッズなどを施設側が提供していないのならば、職員から対策が十分でないと評価されるのはやむを得ないでしょう。

ちなみに「十分な対策はある」との回答者の自由記述は以下のようなものです。

・時間で水分管理をしている。その日のリーダーがこまめに体調を聞くなどをしてみんなで気を付けている。(40代女性)
・水分、塩分をたくさん用意してある。(40代女性)

・従業員が出勤する前に、冷房を付けておく。(30代女性)

概観する限り、好評価を受けている職場の熱中症対策はそれほど難しいものではなさそうです。もっとも「現在の物価高騰環境ではそれすらも難しい」という管理者・経営者側の意見もあるでしょう。しかしながら、職員はこうした細かなところをよく見ていますし、採用に関して「売り手市場」である介護業界では、こうしたこと1つをとっても離職を招くファクターになり得ます。しかも、熱中症対策コストがかかるのは1年間のうち限られた期間のみですから、この辺は管理者・経営者も割り切って支出する覚悟が必要でしょう。さもなくば、介護業界の慢性疾患とも言える「人手不足」は永遠に解決できなくなります。

株式会社SOKKIN プレスリリース

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