すでに新年度の4月に入りましたが、前月の3月19日が老人福祉にかかわる人たちにとって忘れてはいけない日だったことをご存じでしょうか?この日は2009年に群馬県渋川市にあった有料老人ホーム「たまゆら」で起きた火災で入居者10人が亡くなって12年目にあたります。「たまゆら」はNPO法人による運営でしたが、老人福祉法で施設名称や管理者などの届出が義務付けられている有料老人ホームに該当しながら、届出は行われていませんでした。その結果、届出施設の防火基準を満たず、被害の拡大につながりました。実際、施設を運営していたNPO法人理事長は後に業務上過失致死罪で執行猶予付きの有罪判決を受けています。
これを契機に始まったのが未届の有料老人ホームの実態などを調査する厚生労働省老健局の「有料老人ホームを対象とした指導状況等のフォローアップ調査」です。奇しくもその第13回の調査結果が3月31日付で公表されましたので、その内容を紹介します。
調査で主眼が置かれているのが老人福祉法第29条第1項に基づく届出が義務付けられる有料老人ホームに該当しながら、届出が行われていない施設数の実態です。実際の調査は都道府県、指定都市および中核市に依頼されていますが、その実態は都道府県行政レベルでは手が及びにくい側面もあります。このため市区町村の地域包括支援センターや生活保護部局などの関係部局と連携し、報告時点で有料老人ホームに該当するか判断できる段階に至っていない施設も報告対象となっています。 結果ですが、2021年6月30日時点で全国で届出された有料老人ホームの数は1万5363件、未届の有料老人ホームの数は656件と判明しました。有料老人ホーム全体に占める未届有料老人ホームの割合は4.1%です。ちなみに本調査第1回の時は全有料老人ホーム数は4864件、未届有料老人ホーム数は386件、未届有料老人ホームの割合は7.4%でした。有料老人ホーム数がこの12年間で約4倍に激増していますが、未届有料老人ホームの割合はこの間増減の変化があり、最高は第5回と第8回の調査時がともに9.3%。最低は第3回の3.7%ですが、初期の頃の調査ほど調査手法や範囲などの面から実態を反映できていなかった可能性があります。ただ、全体としては近年、この割合は低下傾向です。
また、前回調査で未届有料老人ホームは641件ありましたが、このうち今回の調査日までに82件が届出され、52件が有料老人ホームに該当しなかったことが確認されたとのこと。該当しない52件を除くと、前回調査の実際の未届施設割合は3.8%に下方修正されます。その意味では今回調査の割合も最終的に同程度に落ち着く可能性があります。
ちなみに都道府県別でみると、未届施設割合は兵庫県が28.0%と突出して高く、その他は佐賀県の17.9%、北海道の10.2%、茨城県の10.1%などです。
また、調査では有料老人ホームの一部が家賃や入居一時金などの名目で徴収している前払金に義務付けられている保全措置の実施状況も調査しています。前払金の保全措置は2006年4月の老人福祉法改正により同法第29条6項で新たに定められました。改正当時は2006年3月31日以前に届出があった有料老人ホームは保全措置の義務対象外でしたが、その経過措置が2021年 3 月 31 日で終了。これまで保全措置の義務対象外だった有料老人ホームでも2021年 4 月 1 日以降の新規入居者からは義務対象となっています。つまりこの項目は経過措置終了後初めての調査となりました。
その結果は前払金の保全措置が義務付けられている有料老人ホーム1万5363件中、前払金を徴収している有料老人ホーム数は2217件。このうち保全措置を講じていない有料老人ホーム数は44件で、前払金を徴収している有料老人ホームに占める割合は2.0%でした。地域別では東京都が16件、神奈川県、福岡県が各6件、広島県が4件となっています。
なお、保全措置を講じている有料老人ホームでの保全方法としては「銀行等による連帯保証委託契約」が38.2%(847件)、「信託会社等による信託契約」が28.8%(639件)、「全国有料老人ホーム協会による入居者生活保証制度」が23.9%(529件)、「保険会社による保証保険契約」が2.6%(57件)、「その他」が4.6%(101件)でした。