2024年8月にドクターメイトがリリースした、認知症ケアに対する精神科医師オンライン相談サービス『メモリーケア』。今回は宮崎県小林市の特別養護老人ホーム「ひなもり園」のみなさまに、導入8ヶ月後の効果や活用のエッセンスをお話を伺いました。
(取材協力:理事長・施設長:坂口様、課長・リハビリセンター長:井手平様、施設主任:今屋様)
- ひなもり園
- 社会福祉法人ときわ会は、「わたしらしい暮らしを、あたりまえに」を目指して、常時介護を必要としながらも、在宅では十分な介護を受けることが困難な要介護度認定者の方に、安心して生活していただけるように、24時間体制で身の回りのお世話をさせていただく老人福祉施設です。
ひなもり園様は『メモリーケア』正式リリース前の4月からご利用いただいています。
《メモリーケアとは》
認知症に強い精神科医に、オンラインで相談〜療養指導まで行うことができるサービス。
<導入前の課題>
薬だけではなく、日々のケアでできることを増やしたい
ーメモリーケアについて初めて聞いた時の印象はどうでしたか?
認知症ケアについては、課題を抱えていました。精神科に通っている方が4名いらっしゃったのですが、薬に頼る形となっていました。ただ副作用もあるので、薬ではなく、日々のケアでできることを医療的な視点からアドバイスしてほしいと思い、メモリーケアの導入を決めました。
<オンライン療養指導での相談内容>
療養指導では主にケアの内容について相談
ー精神科通院と療養指導では、それぞれどのように使い分けていますか
療養指導では、主にケアの内容の相談をしています。
冒頭でもお伝えした通り、精神科に行くとたくさんの薬をもらいます。しかし服用後は意欲が低下してしまう方がいて、現場の職員からするとそれがつらいところでした。なので「自分たちでできること何かしたいよね」ということで、日々のケアに関する相談を療養指導では行っています。
施設でできることをやって、最終的にどうしてもやむを得ない場合に精神科に通院というケースにしたいなと思っていているので、今この段階において、日々のケアでわたしたちができることはないかということを相談しています。
<導入後の効果>
新たな発見があるだけでなく、職員の自信に繋がっている
ー導入後、職員間ではどのような変化がありましたか
療養指導を通じて、新たな発見をもらっています。施設の中で視野が狭くなってしまっている部分に対し、外部の視点、医師の視点から「こうして工夫してみるのはどうですか?」と助言をもらえるので、新しい発見があり、日々のケアに繋がっています。
もちろん新しい発見だけではなく「やっぱり今までのやり方で合ってたんだね」という時もありますが、先生から「素晴らしい取り組みですね」「ぜひそれを継続してください」といっていただけると、「自分たちの日々のケアは間違っていなかった」ということを認識でき、職員の自信に繋がっています。
介護施設には、様々な経歴・職種のスタッフが集まっているため、ケアに対する考え方が違うことがあり、施設内での意見のすり合わせに難しさを感じることもありました。しかし、第三者である専門医から根拠に基づいたアドバイスをもらえることで、納得感を得やすく、職員間の意識統一を図りやすくなったように感じます。
最近では、以前より理解できることやできることが増え、職員からも「もっとできることを知りたい」といった、学びに対する意欲も高まっています。
以前は「どうしていいか分からないからそのケアを避ける、そのままにしてしまう」という対処になってしまう職員もいたのですが、いまでは職員の対応や姿勢は変わってきています。
職員の行動変容とモチベーションUPを促すきっかけの一つに
ー施設全体の雰囲気にも、何らか変化がありましたか
職員の意識や行動が明らかに変わっているのを感じます。
これまでは対症療法的にしか対応ができていなかったことが、療養指導を通じて、症状が起きている原因(ご利用者様の経歴や、過ごしている環境・身体的な要因など)にも目を向けられるようになりました。
暴れる、大声を出すという表出した行動の裏に、ご利用者様の要望や、パーソナルな部分が隠れていることに気づけるようになったことで、職員としても、楽に受け止められるようになりました。
それだけでなく、「何とかしなくちゃ」「このままじゃよくないよね」という意識も高まっています。職員が積極的に利用者様に話しかけるなど、明らかに意識や行動が変わってきていると感じています。
また、自立支援介護などの取り組みとの相乗効果により、職員たちの対応力が向上しており、できることが増えることでモチベーションUPに繋がっています。
施設内の共通言語が増えてくる
ーはじめは感じなかったが、長期的な利用で感じた変化はありますか
最初は無駄なやり取りに感じることもありました。ですが長くやればやるほど、学びや気づきが増えてきて、施設内の会話が変わってくるんです。
例えば、療養指導で出てきたキーワードが誰かから出てくると、色々なタイミングで耳にすることが増え、いつの間にか自分もそのキーワードを言うようになる。このように、いつの間にか施設内の共通言語が増えていっています。
知識が増えると、疑問や主体性が生まれる
今までは、先生の言う通り、看護師の言う通りというのが当たり前でした。その指示に疑問を持つこともなかったのですが、知識が増えていくと介護職員からも質問が出たりして、明らかに職員に変化が生まれています。
転倒回数が減少。転倒リスク軽減で救急搬送も4件→1件/月に
ーご利用者様に変化はありましたか
薬を変えてから体調が落ち着いたり、療養指導で相談した方の転倒回数自体が減るなどの変化が出ています。
また、療養指導で相談した方で、週1-2回転倒がみられた方の転倒が、一時期完全になくなりました。また最近増えてきてはいるのですが、先生からのアドバイスで環境を見直す機会にもなっています。やはり介護職員で検討する対策は、抽象的になってしまうこともあったので、先生がいることでより具体的な対策に変化していると思います。
救急搬送も昨年は3-4件/月でしたが、今年は0-1件/月と減少しており、転倒リスクも軽減できているのかもしれません。
離職率やADL・認知症自立度ランクなど、わずかに間接的な効果も
ーその他、数値的な変化や大きな変化が見られたものはありますか
離職率は5年前と比較して半分以下程度に下がりました。これは特定技能スタッフを含め人員が充足したことや、自立支援介護を進めたことが最も大きな要因ですが、メモリーケアの影響も少なからずあるのではないかと考えています。
また、残業時間やストレスチェックの数値にも変化がありました。昨年はコロナの影響もありまして、月によってばらつきはあるものの、残業時間も三分の一から半分程度に減少しています。職員のストレスチェック「やりがい」スコアが3→4に上昇しました。背景にあるのは人員充足したことが大きな要因だとは思いますが、療養指導との因果関係も、間接的には影響があるのかもしれません。
くわえて、職員の意識も変わっています。以前は1日の業務が終わればOK、むしろそれが精一杯という感じでしたが、今は「この人のために何かできることはないか?」と職員の意識が変わってきています。
ADL・認知症自立度ランクについては導入前と変わりなく、身体的な悪化が見られるご利用者様はいますが、精神的な悪化は見られません。「全く変わっていない」というと、低く評価しがちな部分ではあるのですが、むしろ維持できてるのはすごい!と感じています。本当に僅かな変化ですが、評価しています。
また、自立支援では初めて先生に褒められました!メモリーケアも平行してやっていたことによって、職員の理解度が高まっています。自立支援介護では、薬、排泄排便、水分ケア、歩行のことなどを勉強しますが、メモリーケアでも言われている内容が出てきたので、理解できるようになっている職員が出てきています。
最後に
ー最後に、メモリーケアの導入を検討されている施設様にコメントをいただきたいです
介護現場では、医療・生理学的な知識が医療機関に比べ不足していることが多い為、医師の診断や指示に依存してしまうケースが多々あります。家族ではない為、疑問に思ってもセカンドオピニオンの行使ができないのが現状です。
しかし、メモリーケアを使う事で専門医からのアドバイスを受けることができ、ご家族にもお伝えすることでケアの選択肢が広がると思います。何よりスタッフ自身の知識も増え、自信やキャリアアップにもつながると感じます。
介護現場の人材不足が深刻化する中で、人材の育成・定着につながるサービスになっていくのではないかと期待しています。