今回の一件では小林製薬が製造している紅麹原料が前述の3製品だけでなく、多数の食品会社などに着色料などとして販売されていたこともわかりました。厚生労働省(以下、厚労省)の調べでは、小林製薬から紅麹原料を直接仕入れた企業は52社、これら直接仕入れた企業からさらに紅麹原料の供給を受けた企業が173社にものぼることが判明しています。
ただ、信用調査会社・帝国データバンクの独自調査では、厚労省が公表しているこれら225社からさらに紅麹原料を購入している企業まで含めると、最大約3万3000社に影響が及ぶとの推計を明らかにしています。このため「紅麹コレステヘルプ」などの摂取者以外にも不安が広がり、一部の食品会社では消費者からの問い合わせが殺到しています。このため実際に食品などに着色料などとして使われている紅麹に問題はないのか気になる人も少なくないでしょう。
厚労省によると、これまでのところ前述の合計225社から健康被害の報告はないことを明らかにしています。また、小林製薬が3月29日の記者会見で明らかにした事実関係が正しいという前提に立てば、この点からも食品会社などに販売された紅麹原料から健康被害が出る可能性は現時点では低いと考えられます。
青カビから生成されるプベルル酸が原因の可能性
問題になった紅麹原料の製造過程は、米に水を加えて加熱をしてから、そこに紅麹菌を加えて培養と言われる紅麹菌の増殖を行います。一定程度紅麹菌が増殖したら、この米、水、紅麹菌の混合物を再び加熱をして殺菌したうえで粉々にしてから一旦保管。この保管したものは、培養状態によって含まれる有効成分量のバラツキがあるため、保管されたものを複数混合して濃度の均一化を図り、再度加熱殺菌し最終段階の紅麹原料が完成します。この紅麹原料からさらに紅麹コレステヘルプのようなサプリメントに加工されたり、食品会社での染色などのために出荷されます。使う紅麹菌に関しては、元々の親株と言われる菌株からその都度取り分けて培養し、米に水を加えて加熱したものに加えています。
小林製薬によると、問題となっている2023年の製造分に関しては、紅麹菌の親株から2度取り分けて別々に培養してから紅麹原料の製造に使用しています。このうち一方をA株、もう一方をB株と仮定します。小林製薬の発表ではA株からは33ロット、B株からは54ロットの紅麹原料が製造され、全ロットのサンプルが残っているため、その検査をすでに終了しています。
この結果、食品会社などへの販売されたB株の54ロット全量のサンプルからは異常な物質は確認されていません。一方、A株の34ロットは、紅麹コレステヘルプなどのサプリメント製造のために使用されたのが13ロット、食品会社などへの販売のために31ロットという内訳になっています。A株由来の紅麹原料のサンプル調査結果では、サプリメント製造用のうち4ロット、食品会社などへの販売用の6ロットから異常な物質が検出されたとのことです。
これらから、A株で製造された紅麹原料で問題が発生したことは一目瞭然です。ちなみに小林製薬の記者会見では当初この異常な物質が何かは公表されませんでしたが、同社の会見開始から2時間後に厚労省や国立医薬品食品衛生研究所などが行った会見で、青カビから生成されるプベルル酸の可能性が高いと発表されました。このプベルル酸に関しては、世界的に見ても研究論文が少なく、人体への影響、とりわけ腎臓に障害を起こす可能性などは現時点で解明されていません。
さてここで「A株から作られた食品会社などへの販売用の31ロットのうち6ロットからプベルル酸と思しき物質が検出されたのに、なぜ『食品会社などに原料としてわたった紅麹から健康被害が出る可能性は現時点では低いと考えられます』と言うのか?」と思う人もいるかもしれません。それは以下のような理由です。
(1)食品会社などへ販売された紅麹原料の中核はプベルル酸らしき化合物が検出されていないB株のロットが主体
(2)A株から作られた紅麹原料のうちプベルル酸らしき化合物が検出されたのは、サプリメント用が全ロットの約3分の1に対し、食品会社などへの販売用は5分の1未満
(3)製品の性格上、サプリメントは原料を濃縮するため、有害物質が含まれていた場合はそちらも濃縮される恐れがあるのに対し、食品用はごく一部添加するため、含まれる紅麹原料は相対的にサプリメントよりも微量
(4)サプリメントの場合は健康状態の改善を期待して毎日摂取される可能性が高いが、一般食品の場合は毎日変わらず食べ続ける食品はごく一部
「紅麹」を一括りにして過度に警戒しすぎないことも必要
現在、小林製薬から紅麹原料を購入して製品に使っていた食品会社などは、製品の自主回収を進めています。こうした企業とその製品は厚労省のHPに一覧が掲載されています。これを見るとわかりますが、味噌など一部を除けば、毎日必ず摂取する可能性のあるものが少ないことがわかるでしょう。
「では味噌とかはどうなる?」という意見に対しては、(3)が答えになります。実際、前述の一覧には「CLASS分類」という健康への危険性の程度の評価が付記されていますが、一般食品に関しては、すべてが「CLASSⅡ(喫食により重篤な健康被害又は死亡の原因となり得る可能性が低い場合)」あるいは「CLASSⅢ(喫食により健康被害の可能性が、ほとんど無い場合)」と評価されています。これはまさに(3)が理由と考えられます。ただし、少なくともこれらの食品が手元にある場合はそのまま食べ続けることはせずに自主回収に協力するようにして下さい。
また、紅麹は小林製薬以外でも製造されていますが、それらについて現時点で何も問題は指摘されていません。「紅麹」という言葉を一括りにして過度に警戒しすぎるのも考え物です。
繰り返しになりますが、入居者、利用者で該当する製品を摂取していることがわかった場合はただちに摂取を中止することが基本中の基本です。そのうえで摂取者は、体調に異変がない場合でも不安を感じる際はかかりつけ医の受診や最寄りの保健所に相談して下さい。
国民生活センター「紅麹関連製品による健康被害について」
厚生労働省「小林製薬社製の紅麹を含む食品に係る確認結果について」
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