2022年、介護事業所が経営難に陥り倒産する件数が過去最多を記録しました。新型コロナの影響や物価高の煽りを受け、2023年の倒産件数も最多ペースで推移しています。
そこでこの記事では、介護事業所の経営難・倒産急増の背景や原因、経営難に陥らないための対策、倒産した時の具体的な流れなど、介護事業所が経営難になったときに知っておきたい情報をわかりやすく解説します。
経営難・倒産する介護事業所が急増
2022年、介護事業所の倒産が歴史的な増加を記録しました。
東京商工リサーチが2023年1月11日に発表した情報によれば、2022年は143件の倒産が報告され、前年比76.5%の急増となりました。その中でも「通所・短期入所介護事業」が69件で最多でした。
特に機能訓練型サービスを運営していた「株式会社ステップぱーとなー」は、M&Aでエリア拡大戦略を進めていましたが、新型コロナの影響を受けて経営難に陥りグループ全体で31社もの倒産が発生しました。
倒産した介護事業所の多くが小規模で、特に従業員が10人未満の事業所が8割を占めているほか、大手企業も若干増加しており、業界全体で経営難が増えている傾向にあります。
参考:東京商工リサーチ「コロナ禍と物価高で急増 「介護事業者」倒産は過去最多の143件、前年比1.7倍増~ 2022年「老人福祉・介護事業」の倒産状況 ~」
さらに2023年においても、介護事業所の倒産状況は厳しい状態が続いています。
2023年1-8月の訪問介護事業所の倒産数は44件で、前年同期比で約1.5倍となりました。同期間の倒産数では、2000年以降で最も多い件数です。
倒産の主な理由は「販売不振(売上不振)」が33件で全体の75%と最も多く、利用者数の減少による収益減に苦しんでいる事業所が多いことがわかります。
参考:東京商工リサーチ「訪問介護事業者」の倒産 過去最多の44件 コロナ禍後のヘルパー不足、物価高が追い打ち」
介護事業所が経営難・倒産に陥る原因とは
介護事業所の経営難・倒産が急増した背景として、新型コロナウイルスの影響、人手不足、物価高、介護報酬の改定が間に合っていない、などの原因が考えられます。
それぞれを詳しく解説します。
新型コロナウイルスの影響によるコスト増
経営難の介護事業所が急増した主な要因は、新型コロナウイルスによる感染対策コストの増加、感染リスクを恐れた利用者の利用控え、原油価格の高騰による経営コストの上昇などが挙げられます。
これにより事業所は収入の減少と経費の増加のダブルパンチを受け、特に小規模事業者は経営が厳しさを増しました。
深刻な人手不足
また近年の深刻な介護職員不足も背景にあります。
利用者を増やして収益を増やそうにも、現場で対応するヘルパーの有効求人倍率は15.5倍、さらに65歳以上のヘルパーが4人に1人と高齢化していて、人手不足が解消しないことから利用者を増やせず、経営不振から脱却できないという悪循環に陥る事業所が多くあります。
人員を定着させるためにも、人間関係のトラブルが起こりづらい風通しの良い職場環境の形成や、モチベーションを保てるキャリアプランの用意など、戦略的な取り組みが必要です。
介護報酬の改定が間に合っていない
さらに介護サービス事業者は介護報酬が法定価格として定められているため、収益を上げて物価高に対応することが難しい一面があります。
行政には介護報酬改定と、事業者側にはコスト減や業務効率の改善、人員定着のための環境整備など包括的な改善が求められています。
原油高・物価高による経営コストの上昇
高騰する光熱費や物品調達コストが施設の経営負担を増しています。
特に新型コロナ対策によって増大した光熱費や物品コストに介護報酬が対応できない状況が生まれ、施設の運営を圧迫しています。
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経営難の介護事業所が取れる経営改善策
経営難に苦しむ介護事業所はどこも経営改善策を模索しているものですが、実際にどのような対策があるのか解説します。
コストの洗い出しと削減
運営コストを抑えるためには、まず現状でどこにどのくらいのコストがかかっているのか把握することが大切です。
運営コストを詳細に洗い出し、必要なコストと削減できるコストを明確にします。
その上で削減できるコストはすべて早急にカットしていきます。
人員確保のための環境整備
収益を増やすためにも、採用コストを増やさいためにも、人員確保は重要です。
人間関係のトラブルから来る離職がないよう働きやすい職場環境の整備や、意欲のある職員が流出しないようにキャリアパスの構築に力を入れるなどで離職率を抑えられるでしょう。
また急な人員不足に対応できるように、ICT化や外部サービスの活用などで生産性の向上を図ることも大切です。
M&Aを検討する
自社内だけの経営改善が難しい場合、M&A(合併・買収)も重要な選択肢です。
介護事業に参入したい既存の法人に事業を引き継ぐことで、従業員の雇用や利用者へのサービス提供が継続できます。買収額によっては負債が軽減できるメリットも生まれます。
M&Aは民間の仲介会社や日本政策金融公庫のサポートを受けることで、円滑に進行できます。
介護事業所の倒産が決まった後の対応
介護事業所が経営不振(経営難)となり倒産した場合、具体的にどのような対応が必要になるのでしょうか。ここでは倒産が決定した際の一般的な流れについて解説します。
介護事業所が倒産する際には、一般的に以下の手続きが必要です。
- 自治体に報告する
地方自治体など関係機関に、閉業の届出を提出します。届出は実際に閉業する1ヵ月前までに行う必要があります。
届出は地方自治体ごとに異なる場合があり、また利用者の移動先などを明記する場合もあるため、管轄の自治体に問い合わせましょう。 - ご利用者・ご家族への報告と次の受け入れ先の調整
利用者やその家族には倒産を事前に告知し、期限や次の受け入れ先について説明することが求められます。本人や家族、ケアマネージャーと相談しながら新たな受け入れ先を探します。 - 所轄官庁への書類提出
所轄官庁への書類提出や破産手続きなど、法的な手続きがある場合は、必要な書類を用意し提出する必要があります。 - 従業員の対応
従業員に雇用関係や労働条件に関する説明を行います。 - 事業所閉鎖
施設・サービスを終了し、設備など資産の整理を行います。
これらの手続きは、地域や法令によって異なる場合があります。専門家や関係機関に相談しながら進めるようにしましょう。
まとめ
この記事では介護事業所の経営難が急増している背景と原因、実際に経営難になったときの対応策や手続きについてを解説しました。
持続可能な介護事業の運営には、人員不足に陥らないための環境整備や業務の効率化、コストの見直しなど、効果的な施策の実施が求められます。
経営難の厳しい状況下であっても冷静に、可能な改善策を模索していきましょう。