
今後の労働基準法改正に盛り込まれるテーマで、介護業界にとって「勤務間インターバル制度」と並んで、大きな影響がありそうなのが勤務時間外や休日の業務連絡への対応を拒否できる「つながらない権利」です。
これはIT技術の進展やテレワークの普及により、労働時間と私生活の境界が曖昧化し、労働者の休息確保や健康への影響が課題となっているためです。
改正案では、業務時間外の連絡に応じなかったことを理由とする不利益取扱いの禁止が検討されていました。医療·介護業界関係者からすると、おそらく「自分たちはどうせ対象外」との声も聞こえてきそうですが、海外ではそうでもありません。そこで今回はこの「つながらない権利」について解説します。
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フランスでは医療従事者も「つながらない権利」を行使できる
そもそも「つながらない権利」は2017年1月に施行されたフランスの改正労働法(通称:エル·コムリ法)で初めて定められたものです。発端は医薬品·医療機器メーカー世界大手のジョンソン&ジョンソン(以下、J&J)のフランス法人での取り組みです。当時、J&Jフランス法人では、デジタル技術普及で帰宅後や休日も上司·顧客からメールが届くことを強いられる社員のストレス増大と燃え尽き症候群が経営上のリスクと認識されていました。
この結果、2015年7月から「22時~8時のメール禁止」「緊急時の定義の明確化」「マネジメント層の意識改革の研修」という独自の社内規定を導入しました。これを好事例ととらえたフランスのミリアム·エル·コムリ労働相(当時)が旗振り役となって法令で明記されることになりました。
実際のエル·コムリ法では、(1)従業員50人以上の事業者でデジタル機器使用ルールの労使間協議の実施、(2)連絡を控えるケースなどのガイドライン作成、を義務付けています。勤務間インターバル制度と違って、とりまく環境が異なる各事業者の判断をゆだねています。労働組合がない事業者の場合、従業員の意見を聞きながら雇用主が独自の憲章などを定めます。義務化ではないため、雇用者側に罰則はありません。
ただ、フランスの場合は、労使間協議で決められたつながらない権利を守るためのルールや憲章はなんと官報に掲載され、各事業者のホームページなどにも掲載されます。該当する従業員50人以上の事業所でガイドライン作成をしていない場合は行政指導が行われます。また、フランスでは公立·私立を問わず医療従事者も同権利の対象者となります。もちろん宿直やオンコール体制、あるいはやむを得ない緊急事態発生などの場合の連絡は禁止されていません。
ちなみにフランスはもともとヨーロッパの中でも集団よりも個々人などのプライベートを重視する傾向が強いことが知られています。その影響もあってか、エル·コムリ法成立以前ですら、日本の最高裁判所に当たる破棄院(破毀院)がオンコール担当外の医師や勤務時間外の救急車運転手が電話を受けずに処分されたことを法的に無効と判断しています。

制度導入を待たずに「緊急時」の定義を明確にすべき
近い将来、国会に提出される見込みの改正労働基準法で、つながらない権利に関してどこまで明文化されるかは現時点ではわかりませんが、おそらくはフランスと同じようなルールが採用されるでしょう。また、これまでの働き方改革の流れを見る限り、医療·介護従事者が対象外になるとは思えません。
ただでさえ慢性的な人手不足に悩む介護業界にとっては、あまり歓迎できない流れかもしれません。しかし、今後の法改正に備えてせめて勤務時間外に連絡を取らねばならない「緊急時」の定義は一旦明確にしておくのが賢明です。これを人材採用時に公表するなどしておけば、人材獲得での優位性を確保できる可能性は少なくないでしょう。
厚生労働省「労働時間法制の具体的課題について」



