“褥瘡対策”と“褥瘡マネジメント加算”について
改定された褥瘡マネジメント加算では、褥瘡対策を行い、発生しなかった場合に単位がつく「褥瘡マネジメント加算(Ⅱ)」が新設。褥瘡対策が施設評価に直接リンクするようになりました。この褥瘡対策について、ドクターメイト代表取締役社長で医師の青柳直樹が解説します。(2022年9月14日実施 三重県老施協 研修会内容をもとに作成)
改訂で褥瘡マネジメント加算はどう変わったか
LIFEの導入にともなって、褥瘡マネジメント加算も改定されました。改定のポイントは
・毎月算定が取れるようになった
・評価の体制のみでは3単位/月、褥瘡が発生しなければ13単位/月
・LIFEと連動して評価を行う必要がある
・褥瘡の評価基準が統一された
ことが挙がります。
改定前の褥瘡マネジメント加算は10単位/月で3か月に1回が限度したが、改定で毎月算定になったことに加え(Ⅰ)(Ⅱ)に分かれたことに加え、アウトカム評価を反映し褥瘡が発生しなければ単位がつくような制度設計になりました。つまり、今まで以上に褥瘡対策を行うことがそのまま施設の評価に紐づいていく、ということになります。
褥瘡対策の対象者については、「褥瘡対策に関するスクリーニング・ケア計画書」では、危険因子の評価で「自分で行っていない」もしくは「あり」に1つ以上該当すれば、褥瘡ケア計画を立案し実施する、とされていますが、これらの項目はご入居されている方ほぼ全員に当てはまる内容です。
日本褥瘡学会などでは、評価基準として「DESIGN-R」という指標が使われています。“DESIGN”は重要な項目のイニシャルで“R”は評価のイニシャルです。評価項目は
・深さ
・滲出液
・大きさ
・炎症/感染
・肉芽組織
・壊死組織
の6点。評価項目は細かく分かれていますが、適切に褥瘡予防をしておけば、評価はスムーズにできるので、そういった意味でも日々のケアが重要です。
今回の改訂では、評価しているだけではあまり加算はつけません。その代わり、しっかりと予防できている場合には今まで以上の評価をしますよ、というメッセージがあります。(DESIGN-R)で評価して、LIFEでデータを蓄積するなどのちゃんとした予防対策をすることが施設にとってもメリットになりますよ、ということを伝えています。
褥瘡対策とその予防~そもそも皮膚とはなにか~
そもそも皮膚とは何でしょうか。よくある勘違いですが、皮膚は1枚の薄い構造ではありません。皮膚の構造については、チーズケーキをイメージしてください。そのココロは皮膚が3層構造から成り立っていることがあります。この3層構造を理解することは褥瘡の重症度を測るうえでも非常に大事な概念になっていきます。具体的には、一番表面のところにあるのが「表皮」で0.2~0.4ミリという薄い組織です。次にあるのが「真皮」で2~4ミリの組織です。この中に血管や神経など大事なものが全部入っています。そして3層目が「皮下脂肪」で、これら3層すべてがいわゆる「皮膚」の領域となります。
褥瘡とは、一言で言うと「皮膚の酸欠と餓死」といえます。人間は生きるためには酸素と栄養が必要です。これを細胞レベルで見ると、細胞は酸素と栄養の両方を血液から得ています。つまり、血液が皮膚に行かなくなると、皮膚の細胞はどんどん死んでいくわけです。その結果起きるのが褥瘡です。寝ているときなどで体重がかかっているとき、皮膚は体重とベッドに挟まれて血管がつぶれてしまうことがあります。皮膚の欠陥は細いので、骨が出ている部分などは血管がつぶれて血液が通らなくなります。
褥瘡がおこりやすい場所は骨が出ている場所ですが、これは体勢によって変わりますので、入居者さんが普段どういった体勢をとっていることが多いのか、を把握することが重要です。
褥瘡対策とその予防~なぜ高齢者に褥瘡が多いのか~
高齢者に褥瘡が多くみられるのは、3つの理由があります。
1つ目は行動量が少ない、動かないことです。動けないこと自体が褥瘡発生のリスクとなり、3~6倍褥瘡の発生率が高まります。
2つ目は、感覚が鈍くなっていることがあります。血流が滞ると痛みを感じるようになりますが、高齢になるにつれ、痛みや違和感を感じることが弱くなり、自ら体勢を変換するようなことが少なくなってきます。
3つ目は、皮膚自体が弱くなっていることがあります。
これらのことから「高齢者は簡単に褥瘡になってしまう」という意識が必要です。基本的には2時間ごとの体位交換もしくは適切な環境のもと4時間を超えない時間で体位交換が必要、とガイドラインでは示しています。しかし実際にはそれでも褥瘡ができる方はいるので、こまめにチェックすることが重要です。
褥瘡は予防が命
褥瘡の予防を考えるうえで褥瘡が発生した深さを指す「深達度分類」という視点から解説します。表皮で褥瘡がおこるのがステージⅠです。見分け方としては、指で赤くなった皮膚を押すと、白くならず、戻しても赤いままになります。真皮で褥瘡が起きているのがステージⅡで、白みがかった皮膚や毛穴が見えることが多いです。皮下脂肪までいくステージⅢでは、黄色いゼリー状のものが見えていることがポイントになります。全層で障害がおこるステージⅣは黄色の中に筋肉の赤い部分が見えてきたりします。これらのステージによって、平均の治療期間は異なり、ステージⅠは13日、ステージⅡは24日、ステージⅢでは136日、ステージⅣでは233日となります。ステージⅡとⅢでは約6倍の開きがあることから、ステージⅡまでに発見し、処置を行うことが重要になってきます。
褥瘡予防の第一原則は「除圧」です。褥瘡の除圧は「面」で行うことが重要です。たとえば、かかとの圧力を弱めるために、かかとの下だけにクッションを入れてしまった場合、逆に足全体の圧力がかかとに集中しかねません。かかとの除圧を考える場合、かかと以外のところにい圧力を分散させる、ということが重要です。
「褥瘡に円座はいいのか」とよく聞かれますが、結論から言うと「×」です。円座は仙骨部の圧力は弱められるのですが、周囲の皮膚に圧力がかかり、褥瘡のリスクが増してしまいます。また、薄いクッションも床に接してしまうので効果はありません。
次に重要なのは「ズレ力(りょく)の排除」です。ズレ力というのは、皮膚が引っ張られる力のことです。圧力がタテの力とすれば、ズレ力は横に力になります。タテにプラスしてヨコの力が加わると、血管は6倍つぶれやすくなってしまいます。ズレ力を排除するために重要なのが、いわゆる「背抜き」です。これを行うことで、皮膚にかかるヨコの力を排除することができます。また、フィルムを貼って、摩擦を少なくすることでズレ力を排除することができます。
褥瘡の治療のポイント
褥瘡治療の第一原則は「創面環境調整」で、褥瘡が治癒し始めるための準備を行うことが重要です。具体的には壊死組織の取り除き、感染・炎症の取り除き、滲出液の管理、ポケットをなくす、などがありますが、施設で重要なのは壊死組織、感染・炎症の取り除きになります。この見分け方に褥瘡のイロで状態を分類するものがあり、黒→黄→赤→白に分けられます。黒・黄は悪化段階、赤・白は治癒段階にあり、壊死組織が残る黒・黄の状態は細菌の素になる危険性があります。加えて、壊死組織は蓋の役割を担ってしまい、新しい組織ができるのを阻害することがあります。取り除きには、切除などによる物理的方法や組織を溶かす薬をつかう化学的方法があります。加えて大事なのは「洗浄する」ことです。とにかく毎日洗うだけでも、細菌量は劇的に減ります。
第二原則として「湿潤環境下療法」があります。昔は乾燥させた方が良いと言われていましたが、近年、傷を治すには湿った状況の方が良いと言われています。というのも人間の体液には組織を修復する物質が含まれていることが分かってきているからです。ただし、潤いすぎは浸軟という状態になってしまうので、よくありませんので注意が必要です。
これらの原則は第一→第二の順番が必須で、逆にすると感染が悪化してしまうのでこちらも注意が必要です。
褥瘡を理解し、その予防・ケアを理解することが、入居者はもちろん、施設の評価にもつながります。