
「地域に根ざした特養となるために、建物を指す”テラス”とこの街を明るく”照らす”という願いを込めて」(施設長 山下氏)、2020年9月に東京都練馬区に開設された特別養護老人ホーム あおぞら縁小竹テラス。閑静な住宅街にある、定員30床(ユニット型)の小規模な特養です。これまで自宅で使用していた愛着ある家具や備品などを部屋に持ち込むことができるなど、入居者1人ひとりの「これまでどう過ごしていたか」「これからどう過ごしていくか」を大切にしたケアを提供しています。
運営法人である、社会福祉法人 宝満福祉会は九州を中心に多様な医療・介護・看護サービスを展開。首都圏への最初の展開がこのあおぞら縁小竹テラス。開設前の準備段階から先頭に立ってきた施設長の山下氏にお話を伺いました。
都市部の介護施設の意外な弱点「夜間・早朝などでの機動性確保」
本部のある福岡を離れ、東京で施設運営に携わる山下氏。大きな病院やクリニックが施設近辺にも多数あり、医療介護連携は万全のように思えましたが「意外な弱点があった」と語ります。
「車社会で、夜中や早朝に何かあっても、すぐに車で駆けつけられる福岡とは異なり、東京の移動は公共交通機関が中心。夜間や日中に駆けつけが必要なことがあると、施設に着くまでにかなりの時間を要してしまいます。加えて、あおぞら縁小竹テラスは当法人で唯一の東京の高齢者施設なので、人員の融通などもつきづらく、どうしても”自分たちでなんとかする”ということになってしまいがちでした」(山下氏)

質の高いケアを提供できる職場環境を整備した一方、施設長業務の”属人化”が深刻に
あおぞら縁小竹テラスでは、「楽」という言葉をキーワードに、入居者が我慢や妥協をしていただくことなく「楽しく楽」な生活を実現することを目指し、きめ細やかなケアを提供する一方で、職員も”楽しいカイゴ”ができるよう、職場環境を整備しています。具体的には、開設当初から「オンコール待機無し」で看護職員の採用を進めていたり、夜勤において、多くの特養で採用されている「2ユニットごと1名」ではなく「1ユニット1名」を実現、週休3日制の導入など、入居者も職員も「楽に楽しい」場となることを進めています。
そうした”仕組みによる介護される場、働く環境の整備”が進む一方で、その”仕組みの隙間”を施設長が埋める形になり、施設長業務の属人化が進んだことが大きな課題の1つでした。
「緊急性の高いものについては、開設当初から嘱託医の先生が夜間・休日であっても対応していただいているのですが、緊急性の判断がつきづらいものについては、まずは施設長である私に連絡が行くフローとしていました」(山下氏)
いつ電話がかかってくるかもしれない状況に、退勤後の夜間・早朝はもちろん、休みの日も常に身近な場所に携帯電話を置いていた山下氏。このような属人的業務に加え、施設運営上の判断軸でも課題があったと言います。
「研修などで特養や高齢者医療についてある程度の知識は身につけていますが、医療従事者ではない私が、”朝まで様子を見よう”などの判断するのはさまざまな面でリスクを伴いますので、そうした場合に”とりあえず救急搬送”という判断が多くなりがちでした」(山下氏)
夜間・早朝に救急搬送を行うと、多くの施設で夜勤職員や看護職員が救急車に同乗することとなり、その間の施設でのケアの提供が厳しくなるということに加え、近年、全国的に高齢者の救急搬送が増加しており、地域の救急医療リソースを圧迫。「本当に必要な時になかなか救急車が来ない」などの問題が発生しています。さらに、「救急で来院したものの、軽症だった場合」に請求される選定療養費が多くの病院で採用されており経済的な負担が増加するリスクもあります。
「このままでは施設長業務も含めて持続可能な施設運営が難しくなる」と考えた山下氏は夜間オンコール業務を外部に委託するというタスクシフトに舵を切りました。
短期的なROI評価ではなく、離職減で新規採用・教育コストを抑える”必要経費”として
普段から、あおぞら縁小竹テラスの現状報告に加えて「持続可能な施設運営のあり方」について提言していたこともあり、”夜間オンコールの外部化”について本部からの大きな反対は無かったそう。
「短期的に見れば、費用だけが増えて収入が増えない施策ですが、属人化していたことを仕組み化することによって、現場の業務負担が軽減され離職リスクが低減するだけでなく、法人側から見ても、人材登用・人事異動など柔軟かつスピーディーなアクションが可能になり、キャリアアップの可能性が広がることに加え、離職が減ることで、新規採用・教育コストが下がるので、大きな反対意見は出ませんでした」(山下氏)
ドクターメイトの夜間オンコール代行導入で人的リソースの最適化を実現
あおぞら縁小竹テラスでは、夜間オンコール代行サービス導入前の令和5年度の夜間オンコール数は7回で、そこからの救急搬送が5件発生していました。
「まさに”とりあえず救急搬送”というケースで、職員が同乗しますので、夜間のケア体制が厳しくなることもしばしばありました」(山下氏)
夜間オンコール代行サービス導入後の令和6年度については、夜間オンコール数は18回に増え、そこからの救急搬送が1件にまで減少しました。
「”医療者に相談すべきかどうか迷って、結局相談できなかった事象”が、連絡先をドクターメイトに変えたことで相談できるようになったのが、大きな効果と認識しています。また、”とりあえず救急搬送”が減り、翌日の通常診療で対応するケースが大幅に増え、人数の多い日中に対応できるようになったことで、人的リソース配分の最適化も実現できました」(山下氏)

オンラインだから”現場の声”が直接届けられる_オンライン精神科医療養指導
あおぞら縁小竹テラスでは、ドクターメイトのオンライン精神科医療養指導サービスも導入。「嘱託医」と「地域の精神科医」と併用して使い分けることで、認知症ケアの質がさらに高まったそう。
「嘱託医の専門が内科なので、これまでは対応できるものについては嘱託医にお願いしつつ、必要あれば紹介状を発行していただき、精神科を受診するという形をとっていました」(山下氏)
全国的に高齢者や認知症に強い精神科医の不足が叫ばれていますが、あおぞら縁小竹テラスのある東京都心でも例外ではありません。
「予約をしてから受診するまでにかなりの日数が空いてしまい、その間に入居者さんの訴える症状などが変わることもしばしばです。また、受診の際も看護職員や介護職員が長時間施設を離れられないため、相談員の方に付き添いをお願いすることも多く、そこでコミュニケーションロスなども発生していました」(山下氏)
オンライン精神科医療養指導サービスを導入することで、入院などの可能性のある場合は地域の精神科医受診、受診すべきかどうか迷うボーダーラインの場合はオンライン療養指導、という棲み分けができ、最適かつタイムリーな相談・対応ができるようになった、と語る山下氏ですが、オンラインならではの「もう1つの効果があった」と語ります。
「診察や往診の場合、施設側からは看護職員や介護職員、相談員など付き添いは1名がほとんどなので、どうしても視点が固定化されがちになります。ですが、オンライン療養指導では、その場に複数の職種の人間が集まりますので、入居者の情報を多面的に伝えることができ、また、ドクターメイトの精神科医も加えてフラットにディスカッションができるので、新たな知見やケア手法を見つけるきっかけにもなっています」(山下氏)
外部のプロフェッショナルによる「タスクシフト」
「”餅は餅屋”ではないですが、外部のプロフェッショナルに任せられるのであればお任せして、施設でやるべき、施設長が担うべきタスクやよりよいケアのための時間を作る、タスクシフト・分業化を進めることが、生産性を上げるだけでなく、採用や離職防止などに必要な”選ばれる施設”になるために重要なことだと思います」(山下氏)
社会福祉法人 宝満福祉会
特別養護老人ホーム あおぞら縁小竹テラス
2020年9月に東京都練馬区に開設。定員30床(ユニット型)。ユニットごとに専任のスタッフを配置し、使い慣れた家具や備品を個室に持ち込んでいただくなど、一人一人の個性や生活リズムに合わせた介護を行う。施設統一のスケジュールではなく、利用者一人ひとり個別のプランを作成し実践している。



