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【ニュース解説】来年の介護報酬改定につながる 財務省の”所信表明”「財政総論」とは

秋に入りトリプル改定議論が本格化します。この改定と同時並行で進むのが2024年度の予算編成です。そもそもトリプル改定で各報酬がプラス改定、マイナス改定のいずれに振れるにせよ、その財源は国の予算です。各業界が声高に叫ぼうとも、国も「無い袖は振れない」ので、予算編成の行方は決して目が離せません。国の金庫番である財務省では、9月27日に開催された財政制度審議会財政制度分科会で次年度予算に向けた方針を議論し始めました。同分科会で最初に議論されたのが「財政総論」です。今回はこの財務総論で示された介護に関連する論点を解説します。

2024年度予算案に対する財務省の見解を提示

まず、日本の国家予算決定プロセスを改めて振り返ります。日本の予算は、政府(内閣)が作成し、国会で承認されて初めて執行されます。ただ、内閣が事細かな予算項目を作成するわけではなく、財政制度審議会から現下の情勢を踏まえた予算編成に関する意見提示「建議」が一定の役割を果たしています。この建議は現在では「春の建議」と「秋の建議」の年2回、同審議会から財務大臣宛に提出されます。かつては秋だけの年1回でしたが、2000年代に入り年2回が慣例となっています。というのも以前と違い、予算編成に影響を及ぼす政策決定が政治主導になってきたからです。具体的には何過去に何度か解説した政府方針である「骨太の方針」の策定が2000年代から本格的に始まったからです。

骨太の方針がなかった頃の予算編成は財務省主導でした。このため事実上、同省の考え方を反映する財政制度審議会の建議提出は、財務省が予算の原案(財務省原案)を作成する秋の建議だけで十分でした。しかし、現在では政府方針の骨太の方針に沿って各省庁が政策を立案し、これを基に予算編成をするため、骨太の方針の閣議決定前にも財務省の考え方を示す必要が出てきたのです。これが春の建議です。

春の建議は実際一定程度骨太の方針の作成に影響を与えます。そのうえで骨太の方針の閣議決定を受けて財務省が各省庁の予算の上限を示す通称「シーリング」と呼ばれる「概算要求基準額」を作成します。このシーリングが閣議了解されると、各省庁では次年度必要になる予算の見積書である概算要求書を8月末までに財務省に提出します。

これ以後は財務省が各省庁へのヒアリングと骨太の方針も踏まえ、概算要求書の査定を行い、財務省内部で財務省原案と呼ばれる予算の草案がまとめられます。秋の建議はこの財務省原案が提出される直前に同審議会から財務大臣宛に提出されます。要は原案作成前の念押しです。この秋の建議の冒頭に示されるのが、今回解説する「財政総論」で、秋の建議作成に向けて最初に議論されます。もちろんこれは分科会の委員が最初から作成するわけではなく、原案を財務省が作成し、それを基に委員の議論が行われ、最終的な財務総論が確定します。つまり今回提示された財政総論は、言ってしまえば現時点での財務省の見解というべきものです。

「異次元の少子化対策」の財源をどうするか

総論は「経済・財政を巡る状況について」と「令和6年度予算編成に向けて」の2つに分けられています。

まず、前者ではGDPや個人消費がコロナ禍前の水準に戻りつつあり、企業収益や賃上げ率もバブル景気期に並みに達していること、経済状況の国際比較で日本が世界的に見ても経済状況が順調に回復しつつあることなどを説明しています。一方で1000兆円超に達する国債発行残高と近年のコロナ禍対応による補正予算の急増などを挙げ、財政の正常化が急務であるとの見解を示しています。

後者については今年度から特殊事情が登場しました。岸田首相が「異次元の少子化対策」として打ち出した「こども未来戦略方針」の実現です。2024年度からの3年間は同方針の集中取り組み期間として「加速化プラン」も提示され、この実現には追加で3兆5000億円規模の予算が必要です。すでに報じられているようにこの財源を棚上げしたまま同方針は閣議決定され、このほど財源議論が始まりました。政府は財源イメージとして、既定予算の最大活用、歳出改革の徹底、社会保険の仕組みを使う支援金制度の3本柱で確保する方針を掲げています。

歳出改革の徹底 その1番目に「医療・介護制度の改革」が記載

今回提示された財政総論の「令和6年度予算編成に向けて」では、3本柱のうち歳出改革の徹底の項目に関して、医療・介護制度の改革を真っ先に挙げています。

まず冒頭では、現役世代の報酬に占める社会保険料率が3割超となり、2012~2021年の医療・介護給付費の年平均伸び率が2.8%に対し、雇用者報酬の年平均伸び率が1.8%にとどまることを指摘しています。両者の間では1.0%の差があるわけですが、これを穴埋めするためには保険料率の引き上げが必要となります。ただ、財務省側は、これ以上の社会保険料率上昇は国民皆保険制の維持を困難にし、久々の賃上げ効果も相殺してしまうので避けましょうとの主張です。

となると、医療・介護給付費の抑制とさらなる賃上げでバランスを取りしかありませんが、賃上げの多くは民間が独自に実施することなので、国の手が及ぶところではありません。結果として医療・介護給付費の抑制が財務省の主眼となります。

「物価高」のみでは、プラス改定を望むのは厳しい見通し

財務省「財政総論」より

そこで同総論では次回介護報酬改定の課題として、「構造的な人手不足の下で経済成長を大きく上回るペースで増加する需要への対応」と指摘し、関係者の意識改革、ICTの活用、人員配置基準の柔軟化、経営の協働化・大規模化などを通じ、「職場環境の改善・生産性の向上が不可欠」と強調しています。この点は従来からの財務省の主張の繰り返しです。

そのうえで同総論が言及しているのが今年9月8日の厚生労働省社会保障審議会介護給付費分科会に提出された「令和4年度介護従事者処遇状況等調査」の結果です。同調査では2022年10月の臨時報酬改定で創設された「介護職員等ベースアップ等支援加算」を約9割の介護事業所が取得し、加算取得事業所では常勤介護職員の平均月給の伸び率が前年比で5.8%増と、加算で目指した3%増の約2倍の伸び率になっていることを示しています。同時に総論内の資料では理学療法士や管理栄養士など同加算の直接の対象でない職種でも3.6~5.1%の賃上げが実施されている旨をわざわざ明記しています。

ちなみに今回の財政総論の資料では、厚生労働省社会保障審議会介護給付費分科会で示された資料と同じものを使いながら、わざわざ赤字で各職種の賃上げ率を付記しています。もうお分かりかと思いますが、財務省側が「介護事業所は加算の目標以上の賃上げ実現の余力があるじゃないか。だから大幅なプラス改定の必要はないでしょう」と言いたいわけです。もっとも財務省は近年、診療報酬、介護報酬ともにマイナス改定すべきという主張を一貫して唱え続けているので、これ自体は目新しいことではありません。

ただ、今回は前述のこども未来戦略方針の予算確保があること、またここ1~2年は厚労省が財政制度審議会の同様の流れの議論をしがちになっているので、「物価高」だけを錦の御旗にプラス改定を求めるのは、やや筋が悪くなりつつあると言えるでしょう。

財務省「財政総論」

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