人材不足が伝えられる介護業界では、必要人材の総数はもちろん有資格者などの専門職も不足しています。そうした中で日本介護福祉士養成施設協会が9月20日に発表したデータによると、令和4年度(2022年度)の介護福祉士養成校の入学者数は前年度より381人少ない6802人で、公式に記録が確認できる2006年以降、これまで最低だった2018年度をさらに下回り、過去最低となったことが明らかになりました。今回はこのことについて解説します。
養成校への日本人入学者 2006年:2万人 → 2022年度:約5,000人に
今回の原因について、以下の3点が考えられます。
・若年現役世代の介護業界離れ
・外国人留学生の減少
・養成校の減少
まず、「若年現役世代の介護業界離れ」についてです。入手可能な経時データの中で最も古い2006年の養成校入学者は1万9289人です。当時は養成校への外国人留学生入学はほとんどなかった時代です。そして最新の令和4年度の数字が6802人です。過去5年間で見ると入学者は7000人前後で推移していますが、このうち日本人の入学者は約5000人程度です。つまり日本人の入学者自体が過去15年ほどで約4分の1に減少しています。
介護保険のスタートが2000年ですから、そこから推察するに2006年頃はまだかなり希望に燃えた入学者が多かったでしょう。しかし、労働集約型の業界で、かつ有資格者ですらそれほど賃金が高くないなどの実態が広まるにつれて、資格を生かして働く業界として目指す人が少なくなっていったのは容易に想像できます。
コロナ禍による外国人の入国制限が影響
次に「外国人留学生の減少」について。現場の人手不足と養成校側の生徒不足というニーズが合致して始まった、外国人留学生の受け入れですが、受け入れ人数は2014年度以降一貫して伸び続けていました。養成校によっては入学者の半数弱を外国人留学生が占めることもありました。しかし、2020年度の2395人をピークにここ2年は減少が続き、今年度は1880人と2000人を割り込みました。
これはいわゆるコロナ禍による外国人の入国制限の影響と見て良いでしょう。もっとも岸田文雄首相が9月22日に外遊先のニューヨークで10月11日から1日の入国人数制限を撤廃すると発表したこともあり、今後回復基調になることはほぼ間違いないでしょう。
ちなみに外国人留学生の出身国別で見ると、ここ数年はベトナムを筆頭にネパール、中国、フィリピン、インドネシアがトップ5を占めていました。しかし、今年度はこの一角にミャンマーが入ってきました。やや余談になりますが、これには国際情勢も影響していると考えられます。ご存じのようにミャンマーでは2021年2月に軍事クーデターが発生し、国軍による軍政が敷かれています。民主化勢力指導者の死刑を執行するなど、その姿勢には国際的な非難が浴びせられ、主要各国はミャンマーに対して経済制裁などを課しています。こうした中でいわゆるG7、主要国首脳会議参加国で唯一、ミャンマーに表立った制裁を課していないのが日本です。従来から軍政と民主制を行ったり来たりするミャンマーに対する日本のスタンスは欧米各国と距離を置き、「太陽政策」です。この流れが今も続き、技能実習生などの受け入れが続いています。日本の国際政治的なスタンスへの賛否は別にして、このような状況から現在ミャンマー国籍者が最も入国しやすい先進国が日本であり、今回の数字はこの点を無視できないでしょう。それゆえ今後もミャンマーからの入学者は増えると見られます。
近年、一貫して減少傾向の続く養成校数
そしてその結果起こったのが、「養成校の減少」です。2000年代は400校を超えていた養成校数が、今年度では314校に。前年度から13校減少し、近年は一貫して減少が続いています。このペースで行くと、来年度には300校を切る可能性が出てきています。皮肉にもその結果としてここ数年は50%を割り込んでいた養成校全体の定員充足率は50%を超え始めました。とはいえ受け皿が減ることは業界にとって良いことは言えません。むしろ現状ですら有資格者も含む人材不足に悩む介護業界にとってはやや泣きっ面に蜂状態です。
どうすれば「介護福祉士のタマゴ」を増やせるのか
この打開策として考えられる策は主に3つです。1つは介護業界の実態・魅力を業界側から積極的に発信していくことです。現在の介護業界についた労働環境のマイナスイメージはかなり根強いものとみて間違いはありません。これを払しょくするためには、業界の自助努力も必要です。「そんなの即効性がない」と思う人もいるでしょうが、即効性がないからこそ地道に長く続けていく必要があります。より瀬戸際になって気づいてから取り組んでも、業界衰退速度と勝ち目のないイタチごっこをするだけになるからです。
2つ目は新たに介護福祉士を目指す人たちへの支援拡充を業界としてより積極的に国に求めていくことです。現在も国による「介護福祉士修学資金貸付事業」は存在しますが、あくまで貸与で、返済の全額免除の条件は「卒業後に介護福祉士として介護業務に5年間勤務する」となっています。間口を広げるためには給付型資金制度の新設や貸与型資金の返済免除条件の緩和が必要です。「そんなことをすると、無料で学校に通ってあとは逃げられるかも」と懸念する向きもあるでしょう。しかし、それを織り込んでもなお間口を広げなければならないのが現在介護業界の置かれた状況といえるでしょう。
3つ目は外国人留学生とそれに伴う外国人介護職の受け入れを強化していくことです。一般社団法人全国介護事業者連盟の調査によると、社会福祉法人や介護企業の3分の1は外国人介護職の受け入れを検討すらしていません。しかしながら、日本の若年労働人口は確実に減少します。にもかかわらず必要とされる介護人材は増加していきます。外国人介護職の受け入れはある意味必要不可欠なものになっていきます。
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