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【ニュース解説】閣議決定した「骨太の方針2023」 そもそも何のためにある?政策・介護報酬改定への影響力は?

岸田政権が考える重要課題や来年度予算編成に関する基本的な方向性を示す「経済財政運営と改革の基本方針2023」(通称・骨太の方針2023)が6月16日に閣議決定されました。骨太の方針は、要は政府が国民に対して掲げた公約です。しかも、その内容次第では株価など経済面でもダイレクトな影響が起きます。そこで今回は閣議決定された「骨太の方針2023」の介護に関する言及を紹介するとともに、骨太の方針が作成されるようになった経緯などを一歩踏みこんで解説します。

「骨太の方針2023」で記載された介護関連の内容は

骨太の方針は第1章が経済状況の現状分析、第2章が国内を意識した経済成長戦略、第3章が国際的な視野に基づく経済成長戦略、第4章が次年度以降の予算政策の4章立てになっています。

医療・介護についてはまず第2章で、以下のように記述されています。

デジタル社会の実現において不可欠なデータ基盤強化を図るため、デジタル庁が関係府省庁と連携し、データの取扱いルールを含めたアーキテクチャを設計した上で、健康・医療・介護、教育、インフラ、防災、モビリティ分野等におけるデータ連携基盤の構築を進める。

これはマイナンバーへのデータ集約とそれに基づくデジタルヘルスの推進を念頭に置いたものと考えられます。これは新しい市場を広げる可能性が大いにあるため、成長戦略と捉えることができます。

第4章「中長期の経済財政運営」では、<持続可能な社会保障制度の構築>と題した項目の概論で以下の記述があります。

「少子化対策・こども政策の抜本強化」に基づく対策を着実に推進し、現役世代の消費活性化による成長と分配の好循環を実現していくためには、医療・介護等の不断の改革により、ワイズスペンディングを徹底し、保険料負担の上昇を抑制することが極めて重要である。

「ワイズスペンディング」という言葉は、ケインズ経済学で有名なイギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズが提唱したもので、日本語に直訳すれば「賢い支出」となります。具体的には不況下での財政支出は、将来的に利益・利便性が見込まれる事業・分野へ選択的に行うことが望ましい、ということです。これに沿って前述の引用文を噛み砕けば、子供から高齢者までをカバーする全世代型社会保障制度の中で、今後は将来の成長が見込める子供・若年者に予算を使い、そこでの経済循環を重視するために、医療・介護については可能な限り効率化を図り、支出増大を抑制していくという方針になります。

さらに第4章の「社会保障分野における経済・財政一体改革の強化・推進」の項目では次のような記述があります。

医療・介護サービスの提供体制については、今後の高齢者人口の更なる増加と人口減少に対応し、限りある資源を有効に活用しながら質の高い医療介護サービスを必要に応じて受けることのできる体制を確保する観点から、医療の機能分化と連携の更なる推進、医療・介護人材の確保・育成、働き方改革、医療・介護ニーズの変化やデジタル技術の著しい進展に対応した改革を早期に進める必要がある。

「限りある資源」との言葉通り、多少の増減はあっても医療・介護では総枠の予算を維持しながらデジタル技術なども利用して効率化を図っていくと読むのが自然です。

同じ項目内では介護デジタルヘルスについてより詳細に記述されています。

マイナンバーカードによるオンライン資格確認の用途拡大や正確なデータ登録の取組を進め、2024年秋に健康保険証を廃止する。レセプト・特定健診情報等に加え、介護保険、母子保健、予防接種、電子処方箋、電子カルテ等の医療介護全般にわたる情報を共有・交換できる「全国医療情報プラットフォーム」の創設及び電子カルテ情報の標準化等を進めるとともに、PHRとして本人が検査結果等を確認し、自らの健康づくりに活用できる仕組みを整備する。

現在のマイナポータルでは、介護保険の情報などは紐づいていませんが、いずれは紐づけられることになるでしょう。この記述にあるような可能な限り多くのヘルスケアデータを統合して健康管理・自立を目指すという国の狙いを考えれば、長期的には2021年介護報酬改定から本格利用が始まった科学的介護情報システム(LIFE)のデータも紐づけの対象になる可能性があります。昨今、マイナンバーカードで様々な問題が浮上し、一部では2024年秋のマイナ保険証への完全移行を延期すべきという意見が噴出していますが、この時期に骨太の方針で改めて2024年秋の健康保険証の廃止に言及していることから考えれば、よほどのことがない限り、これは計画通りに実行されることになるでしょう。

そのうえで介護に特化した記述がこの後に続きます。

急速な高齢化が見込まれる中で、医療機関の連携、介護サービス事業者の介護ロボット・ICT機器導入や協働化・大規模化、保有資産の状況なども踏まえた経営状況の見える化を推進した上で、賃上げや業務負担軽減が適切に図られるよう取り組む。介護保険料の上昇を抑えるため、利用者負担の一定以上所得の範囲の取扱いなどについて検討を行い、年末までに結論を得る。介護保険外サービスの利用促進に係る環境整備を図る。

従来から財務省財政制度審議会などで何度も言及されている介護事業所の経営効率化・大規模化を一層の推進と、一部で報道されていた一定以上の所得のある介護保険利用者の負担増が先送りされた件について、年末までに是非を決定することが明記されました。

また、先ごろ同じく財務省財政制度審議会で議論された内容としては珍しく介護業界関係者から評価されたのが、有料職業紹介業の事実上の規制です。これも以下のように文言が盛り込まれました。

医療介護分野における職業紹介について、関係機関が連携して、公的な職業紹介の機能の強化に取り組むとともに、有料職業紹介事業の適正化に向けた指導監督や事例の周知を行う。

そして、今後の介護報酬についても記述されています。

次期診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬の同時改定においては、物価高騰・賃金上昇、経営の状況、支え手が減少する中での人材確保の必要性、患者・利用者負担・保険料負担への影響を踏まえ、患者・利用者が必要なサービスが受けられるよう、必要な対応を行う。

一見すると、現在介護業界が喘いでいる物価高騰の影響を考慮する旨を謳っていると読めます。ただ、ご存じのように次回改定は診療報酬も含めたトリプル改定になるので、診療報酬引き上げに向けた日本医師会などのプレッシャーが強ければ、介護報酬などが割を食う可能性は残されています。

そもそも「骨太の方針」とは? 誕生の経緯は?

骨太の方針を議論している経済財政諮問会議は中央省庁再編が行われた2001年1月、内閣設置法に基づきスタートした会議体です。首相を議長として経済関係閣僚と民間有識者で構成されており、この構成メンバーが首相の諮問を受け、経済財政政策に関する重要事項について調査審議します。発足当時の首相は森喜朗氏でしたが、その後首相に就任した小泉純一郎氏が初めてこの経済財政諮問会議で基本方針をまとめて発表したのが現在の骨太の方針です。

そもそもこの経済財政諮問会議は、それまで財務省を頂点に官僚主導で政策と予算が決定され、内閣以下の政治側が事実上それを追認する形となっていたものを完全な政治主導にするため発足したものです。当初はそうした仕組みも骨抜きになるとの懸念もありましたが、偶然にもスタート時に政治主導にこだわる小泉氏が首相だったことが幸いし、現在まで続く、政治主導の象徴となっています。

経済財政諮問会議では首相の音頭で経済関係閣僚と民間議員などが政策を議論し、それをまとめたものを基本方針として閣議決定します。この閣議決定を経ると、各大臣が所轄省庁に持ち帰り、関係する方針を省内で具体的な政策化し、これを同会議に持ち帰り、発表するという手続きが取られます。つまり内閣の決定に従い、各省庁は具体的な政策を作るという流れになっています。さらに2014年に安倍晋三氏の政権下で、各省庁の幹部人事を決定する内閣人事局が内閣官房に設置されたことで、政治主導がほぼ完成された形となっています。ちなみになぜ通称で骨太の方針と呼ばれているかですが、この会議発足当初、森首相の下で財務大臣を務めていた元首相の宮澤喜一氏が会議の議論を「骨太の議論」と呼んだことが始まりとされています。

さて、骨太の方針の作成プロセスですが、おおむね毎年2~4月に経済財政諮問会議の民間議員の提言を各省庁の大臣が個別テーマについて議論をし、会議内で原案が作成され、これが5月中旬くらいに各省庁に降りてきます。この原案に基づき、各省庁は関係各方面との調整や表現の修正を検討し、これが再び内閣府に提出されます。また、同じ時期には政権与党の部会や議連などからも様々な政策提言が行われ、こうしたものも盛り込まれたうえで、骨太の方針の案が公表されます。今回は6月7日に公表されました。

そして最終的な閣議決定までの短い期間に与党の政務調査会などによる事前審査が行われ、与党議員から働き掛けがあった内容などが盛り込まれて再び文言が修正されます。この時期は与党の有力議員に各省庁や関係団体から働き掛けも行われます。

「骨太の方針2023」で当初案から変更された介護関連の記述

今回の骨太の方針に関しては、公表された案から閣議決定文に至るまで実に100か所以上、文言が修正されています。介護関係に関しては本文の修正はありませんでしたが、実は欄外の注釈が1か所修正されています。具体的には介護施設の生産性向上について「事務手続や添付書類の簡素化、行政手続の原則デジタル化等」が付け加えられています。もともと全世代型社会保障構築本部で議論されたものをまとめたペーパー「介護職員の働く環境改善に向けた取組について」の内容を閣議決定文ではより詳しく説明しているというものです。

大した修正ではないとも言えるかもしれませんが、わざわざ最終段階で修正されたわけですから一定の意味があると考えた方が“安全”です。そしてこの修正内容を見る限り、介護業界関係団体からの与党議員への働きかけの結果というよりは、厚労省あるいは財務省、あるいはデジタル庁から与党議員への働きかけの結果と解釈するのが妥当です。業務効率化により強く国が関与してくる可能性がある、と念のため頭の片隅に置いておいた方が良いかもしれません。

内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~」(骨太方針2023)

【注目お役立ち資料】

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