10月1日から新型コロナウイルス感染症に対するワクチンの定期接種が始まりました。今回のワクチン接種は、新型コロナパンデミック中のワクチン接種とは制度的に異なるため、現場の一部では混乱しているかもしれません。そこで今回は新たな新型コロナワクチン接種の仕組みについて解説します。
新型コロナワクチン 定期接種の対象者は
10月から始まった新型コロナワクチンの定期接種は、B類疾病として行われます。対象は65歳以上の高齢者すべてと60~64歳までで心臓や腎臓、呼吸器の機能の障害があって身の回りの生活を極度に制限される人、あるいはヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能に障害があり日常生活がほとんど不可能な人です。
定期接種にかかる費用は
新型コロナワクチンに関して、厚生労働省は1回の接種費用を1万5300円程度と見込んでおり、このうち8300円が国の基金から助成されます。つまり市区町村が接種を行う際には接種対象者の自己負担額は7000円程度となりますが、かなりの市区町村がさらに費用補助をしていることが多く、居住地域によって自己負担額は変わってきます。現状の自己負担額を見ると、東京都内は23区中11区が無料(ただし、北区は72歳以上、江東区は75歳以上が無料)、そのほかの政令指定都市ではおおむね3500円以内のようです。
定期接種で使用されるワクチンの種類について
使用されるワクチンは、ファイザー、モデルナ、第一三共、Meiji Seikaファルマ各社のメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン、武田薬品の組換えタンパクワクチンの5種類です。製品名はそれぞれファイザーがコミナティ、モデルナがスパイクバックス、第一三共がダイチロナ、Meiji Seikaファルマがコスタイベ、武田薬品がヌバキソビッドとなっています。
mRNAワクチンは、これまで新型コロナワクチン接種で使われてきたものと効き方は同じです。いずれも人工的に新型コロナウイルスの表面にあるスパイクタンパク質の遺伝情報をもつmRNAを製造し、これを投与します。こうすると、体内ではmRNAをもとに新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を作り出し、これにヒトの免疫が反応してスパイクタンパク質に対する抗体を作ります。この記憶を免疫に植え付けることで、本物の新型コロナウイルスが体内に侵入した際は、即座にスパイクタンパク質に対する抗体ができ、スパイクタンパク質と結合します。これによりウイルスがヒトの細胞の中に入り込んで感染が成立するリスク、引いては重症化のリスクを低下させます。
新たに登場した「レプリコンワクチン」とは
mRNAワクチンのうちMeiji Seikaファルマのものは、別名レプリコンワクチンとも呼ばれ、ほかの3種類とはやや異なる特徴を持っています。具体的には新型コロナウイルスのスパイクタンパク質のmRNAとともに、RNAレプリカーゼと呼ばれる酵素のmRNAも一緒に投与する点です。RNAレプリカーゼには、一緒に投与されたスパイクタンパク質のmRNAのコピーを一時的に複数作る働きがあります。この作用で従来のmRNAワクチンよりも少量の成分の投与でもより多くのスパイクタンパクに対する抗体が作られます。
厚生労働省への承認申請の際に提出された臨床試験の結果では、ファイザーのmRNAワクチンよりも数多くの抗体が作られ、接種から半年後でもより高いレベルの抗体数が維持されていたことが、接種受けた人の血液検査結果からわかっています。なお、副反応の頻度は、臨床試験の結果からおおむねこれまでのmRNAワクチンと同程度であると考えられています。
ちなみにこのレプリコンワクチンについては、ネット上などで一部の人達が「危険だ」と大騒ぎしているのを目にした人もいるかもしれません。こうした指摘のほとんどすべてが科学的には疑問符が付く内容、はっきり言ってしまえばデマと言って差し支えないものです。
一方、唯一特徴が大きく異なるのが武田薬品の組換えタンパクワクチンであるヌバキソビッドです。これは製薬会社の工場で予め人工的に製造した新型コロナウイルスのスパイクタンパク質とアジュバントと呼ばれる免疫を活性化させる物質が添加されたものがワクチン成分となっています。
大雑把に言えば、抗体を作るために必要なスパイクタンパク質を製薬企業の工場で製造する(組換えタンパクワクチン)か、ヒトの体内で製造する(mRNAワクチン)かが違うのです。
なお、mRNAワクチンでは接種者が自覚しやすい発熱や強い倦怠感の副反応が少なくないことが知られています。これに対し、組換えタンパクワクチンでは臨床試験の結果からこうした副作用が少ないことが知られています。
ワクチンの「定期接種」とは
予防接種法で定める法的な接種の枠組みは大まかに分けて臨時接種と定期接種の2つがあります。今年3月末までの新型コロナワクチン接種は前者でしたが、10月からの接種は後者となります。
臨時接種は、緊急に感染症のまん延を防止する必要がある時に都道府県または市区町村が主体となって行う臨時の接種のことです。
これに対して、定期接種は日常的な感染症のまん延を防止することが目的です。定期接種には各感染症の感染力や感染した場合の重篤度などにより、A類疾病とB類疾病に分けられています。A類疾病はまん延した場合に社会全体により大きな影響を及ぼしかねないため、社会全体としてのまん延を防がねばならないと考えられている感染症です。これに対し、B類疾病はあくまで個人での感染や重症化の予防を念頭に置いています。
さらに制度運用上の違いを述べると、臨時接種と定期接種のA類疾病は、実施主体の都道府県または市区町村が接種対象者に接種するように勧める「接種勧奨義務」、接種対象者自身は接種するよう努める「努力義務」があります。さらに接種費用は、原則全額公費負担で、接種対象者は無料で受けることができます。
これに対し、定期接種のB類疾病は、自治体の接種勧奨、接種対象者の努力義務はいずれもありません。また、接種費用については公的補助があるものの、一部自己負担が生じます。ただし、市区町村が独自の接種勧奨や予算拠出による完全無料を実施していることもあります。ちなみに臨時接種、定期接種のような法的枠組みに規定されず、個人が自己判断で感染を防ぐ目的で行うワクチン接種は任意接種と呼ばれます。もちろんこの場合は接種費用は完全自己負担です。
各自治体ごとに補助金・予約方法など確認を
最後に今回の新型コロナワクチンの接種は、自治体に接種勧奨義務がない定期接種のB類疾病ということもあり、市区町村から対象者への広報の仕方がまちまちです。一番丁寧な事実上接種勧奨と同等の対応をしている市区町村では、対象者に予診票と接種可能医療機関の一覧が郵送されてきます。
ただ、それ以外では市区町村のホームページや紙ベースで配送されている広報誌に告知され、対象者が個別に市区町村に予診票などの郵送を依頼するケース、市区町村のホームページに掲載されている接種可能医療機関に自分が連絡を取って予約と予診票を受け取りに行くケースもなどもあります。いずれにせよ最終自己負担の金額に確認も含め、居住する市区町村のホームページで確認することが必須です。
厚生労働省 新型コロナワクチンについて
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