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【ニュース解説】ハラスメントから現場スタッフを守る「ふじみ野市地域の医療と介護を守る条例」とは

2022年1月、埼玉県ふじみ野市で在宅診療専門クリニックの医師が、亡くなった担当患者の弔問に訪れた際に家族に散弾銃で射殺され、同行した理学療法士も銃撃で重傷を負った事件が発生し、医療・介護関係者に衝撃を与えたことはまだ記憶に新しいかと思います。医療機関内や介護施設内と違い、在宅医療、訪問看護・介護は利用者とその家族の居宅がフィールドであり、医療・介護従事者にとってはある意味アウェーの環境です。こうしたところで患者・利用者とトラブルになった場合、医療・介護関係者にとっては著しく不利になりがちです。ふじみ野市の事件により、一部ではトラブルの多い利用者・家族への在宅サービス提供を控えがちになったという医療・介護関係者もいるようです。そうした中で事件が発生したふじみ野市では、3月の市議会で新たに「ふじみ野市地域の医療と介護を守る条例」が可決・成立しました。今回は同条例について解説したいと思います。

半数超が「暴力・ハラスメントを受けたことがある」

今回の条例制定はまさに冒頭で触れた事件がきっかけです。ふじみ野市が事件後に医療・介護事業者との意見交換会やアンケート調査を行った結果、事業者からハラスメントや生命の危機を感じる事案が報告されたことを明らかにしています。また、埼玉県が事件後に行った「在宅医療・介護の現場における暴力・ハラスメント対策の実態に関するアンケート調査」(回答数665人)でも、回答者の半数超の50.7%が暴力・ハラスメントを受けたことがあると回答しています。

こうしたことを受けて、同市では医療や介護を必要とする市民が増加していく中、「ハラスメントの実態を放置していれば、従事者の確保はさらに難しくなり、必要な時に必要なサービスを受けられなくなる事態も想定される」との危機感を表明しています。そのうえで「市は、地域の医療と介護に従事する人を守り、将来にわたって市民が安心して地域で医療や介護サービスを受けることができる体制を確保するために条例を策定し、市、市民、医療・介護事業者が一体となって地域の医療と介護を守ることを明確にするものです」と条例制定の背景を説明しています。

ふじみ野市地域の医療と介護を守る条例 各条文を詳しく

同条例は第1条が「目的」、第2条が「基本理念」、第3条が「市の責務」、第4条が「市民の責務」、第5条が「医療機関及び介護事業者」、第6条が「市の基本的施策」、第7条が「その他」の全7条で構成されています。

第1条と第2条では、前述の背景をもとに地域内で必要となる医療・介護の確保を目的に市、事業者、市民が一体となり、これを守り育てていくことを強調しています。

今回の条例で特徴的なのは、これまでどちらかといえば無自覚に医療・介護を享受してきた市民に自覚を促すことを定めた第4条の存在です。以下、全文を引用します。

第1項:市民は、基本理念に基づき、地域の医療及び介護を守るため、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、栄養士、介護支援専門員、社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士その他地域の医療及び介護の担い手(以下「医療及び介護の担い手」という。)が市民の生命、健康及び生活に欠かせないことを理解し、医療及び介護の担い手が安心して従事できるよう、信頼関係の構築に努めなければならない。
第2項:市民は、自らの健康の維持増進及び介護予防並びに適切な医療及び介護の利用に努めなければならない。

各種、医療・介護専門職を列挙して、市民に理解と信頼関係構築を求めたという法令はほぼ初といえそうです。ここからも同市が感じた危機感が読み取れます。同時に第2項は、現在膨れ上がる社会保障費増大に対する国の懸念を反映したものとも解釈できそうです。

第5条についても全文引用します。

第1項: 医療機関及び介護事業者は、基本理念に基づき、良質かつ適切な医療及び介護を行うため、患者、利用者及びその家族の立場を理解し、信頼関係の構築に努めなければならない。
第2項:医療機関及び介護事業者は、従事者が安心して働ける良好な勤務環境を保持し、医療及び介護の担い手の確保、育成及び定着に努めなければならない。
第3項:医療機関及び介護事業者は、相互の連携及び市との連携を図るよう努めなければならない。

同条例について同市は解釈・運用を各条で示していますが、第5条の第2項の解釈・運用では「特にハラスメント対策は、個人での対応ではなく、組織としての対応が求められます」と言及しているほか、第3項では「特に困難事例(すなわちひどいハラスメント事例など)については、事業所単独ではなく、関係機関・市との連携により対応していくことが必要です」とし、ハラスメント事例について医療・介護従事者個人に委ねることなく、市も含め組織的かつ総合的に対応することを謳っています。

第6条の市の対策としては、(1)地域の医療及び介護への市民の関心を高め、理解を得るための普及啓発(2)医療機関及び介護事業者等への支援(3)地域の医療及び介護の連携の推進、を挙げています。(2)については、解釈運用で「従事者が安心して働くことができる勤務環境を保持するためのさまざまな支援展開を実施していくことを想定しています」とし、現時点で具体的な政策は示されていませんが、解釈・運用でここまで明記されている以上、何らかの政策を打ち出していくことは確実です。なお、介護事業者等には、地域支援事業の訪問・通所サービスBを行うボランティアや地域の団体、高齢者包括支援センター、配食事業者なども含むとしています。

深刻さを増す医療・介護業界でのカスタマー・ハラスメント

今回の条例制定のきっかけとなった利用者によるカスタマー・ハラスメントについては、すでに日本労働組合総連合会(連合)が自身もしくは同じ職場の人がカスタマー・ハラスメントを受けたことがある人1,000名を対象に実態調査を行った「カスタマー・ハラスメントに関する調査2022」の結果を2022年12月に公表しています。

日本労働組合総連合会(連合)「カスタマー・ハラスメントに関する調査2022」より

それによると、医療・福祉・介護職で受けたことのあるカスタマー・ハラスメントについては「暴言」が最も多く61.4%、次いで「説教など、権威的な態度」が52.9%、「威嚇・脅迫」が38.6%と続きました。また、「セクハラ行為」が20.0%と、全体の8.9%と比べて高く、さらに業種別でもトップだったことが特徴です。これは医療・介護専門職に女性が多いことも影響していると考えられます。

また、カスタマー・ハラスメントを受けたことで、生活上に「変化があった」との回答者は76.4%にものぼっています。具体的な変化について、最多は「出勤が憂鬱になった」が38.2%、以下順に「心身に不調をきたした」が26.7%、「仕事に集中できなくなった」が24.3%、「眠れなくなった」が17.6%、「人と会うのが怖くなった」が16.9%などです。男女別では、女性では「出勤が憂鬱になった」が 45.0%と、男性と比べて10ポイント以上高くなっています。

このような実態を見るにつけ、医療・介護業界でのカスタマー・ハラスメントはすでにかなり深刻だったにもかかわらず、具体策が取られていたとは言い難い状況だったともいえそうです。今回のふじみ野市の条例制定はモデルケースとして注目を集めそうです。

ふじみ野市地域の医療と介護を守る条例

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