政局が大混乱する中、2024年度の診療報酬、介護報酬、障害福祉サービス報酬のトリプル改定は、診療報酬本体0.88%、薬価がマイナス0.96%で診療報酬全体としては差し引きマイナス0.08%、介護報酬がプラス1.59%、障害者福祉サービス報酬がプラス1.12%となりました。国は団塊の世代全員が後期高齢者になる2025年度を目途に各地域で住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」の完成を目指しています。今回はその直前最後の同時改定で、非常に重要な意味を持っています。
こうした状況を踏まえれば、介護業界関係者も介護報酬改定の行方ばかりではなく、診療報酬の行方についても把握しておく必要があります。そこで今現在までに展開されている2024年診療報酬改定に向けた論点を紹介します。
まず、診療報酬改定で中心的な役割を果たすのが厚労大臣の諮問機関・中央社会保険医療協議会(中医協)です。主な改定内容はこの中医協で決定され、その内容が厚労大臣に答申されて最終決定となります。より具体的な流れとしては、各種議論を踏まえ、まず12月上旬に社会保障審議会(社保審)の医療保険部会と医療部会で改定の基本方針がまとめられ、これとともに12月下旬に決定される改定率を踏まえ、中医協で具体的な改定内容が詰められます。
すでに12月8日に開催された社保審の医療保険部会と医療部会では、(1)現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進(2)ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進(3)安心・安全で質の高い医療の推進(4)効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上、という4つの大枠で構成される基本方針を了承しました。
現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進
重点課題と銘打たれたのが「人材確保・働き方改革等の推進」です。これについては2024年4月から勤務医の時間外・休日労働時間の上限が原則年間960時間と定められます(開業医は特に制限なし)。ただし、地域ごとの医療資源の偏在があることから、地域医療の機能維持のために救急など長時間労働が必要などの場合や研修医・専攻医などの研修のため集中的に症例経験を積む必要がある場合は、医療機関を特定して時間外・休日労働上限を1860時間まで引き上げられるようにしています。これを受けた医療従事者の人材確保や賃上げに向けた取組、医師の業務負荷軽減、多職種でのタスク・シェア、タスク・シフト、チーム医療の推進などが診療報酬改定の論点になっています。
医師自身の直接的な業務負荷軽減で論点となっているものが2つあります。1つは「地域医療体制確保加算」の取り扱いです。同加算は地域で救急受入が1000件超などの医療機関で、勤務医の負担軽減・処遇改善に積極的な取り組みを行う医療機関を支援し、医師の働き方改革を推進するために設けられたものです。
ただ、昨今の調査ではこの加算を取得している医療機関では、逆に医師の労働時間が長めになっている傾向が明らかになっており、これが短縮に向かう要件見直し、あるいは加算そのものの廃止是非が議論になっています。また、もう1つが手術・処置に関わる「休日加算1」、「時間外加算1」、「深夜加算1」です。これは交替勤務制やチーム制の導入が算定要件とされていますが、この算定要件に勤務間インターバル時間を新設する方向性が示されています。
特定行為研修終了看護師の評価
タスク・シェア、タスク・シフトなどの観点からは医師以外の多様な職種の業務を評価する動きが示されています。主な動きは4つあります。1つ目は特定行為研修終了看護師の評価です。改めて説明すると、特定行為研修終了看護師とは、本来医師が行うべき専門性の高い医療行為の一部の実施について認定施設での研修を修了した看護師が行うことを認める制度です。医師の負荷軽減を実現するため、2015年10月にスタートしm一部の修了看護師は介護施設でも勤務しています。
制度スタート時は10年後の2025年度までに10万人の修了者養成を目標に掲げましたが、今年9月時点での修了者は8820人にとどまっています。このため修了者の増加と現場での配置促進のために評価を進めるべきとの方向で議論されています。
病院薬剤師レジデント制の評価
2つ目は病院薬剤師レジデント制の評価です。「病院薬剤師レジデント制」が初耳の人もいると思うので、ここで解説します。
医療職のうち法的に医師、歯科医師は国家試験合格後に卒後研修が義務付けられており、看護師は卒後研修が努力義務となっています。しかし、薬剤師だけは法的に定められた卒後研修が存在しません。この背景には、薬剤師の場合、国家試験合格後の就職先が病院、診療所、保険薬局(調剤薬局)、ドラッグストアなど多様で、かつ過半数が民間企業経営の後者2つに就職してしまう実態が影響していると言われています。このため現在厚労省の事業として卒後研修確立に向けた調査研究が進んでいます。
ただ、このうち病院は重度の患者が多く、薬物療法の難易度も高いことから、病院薬剤部独自で2年程度の有給卒後研修を行っているところがあります。これが病院薬剤師のレジデント制です。
今回の改定ではこの病院薬剤師レジデント制を実施中の医療機関に調剤報酬上の評価を新設し、薬剤師の資質向上につなげ、引いては薬物療法でのタスク・シフト、タスク・シェアを実現することが狙いです。同時にこの評価の新設は、病院薬剤師不足の解消と卒後研修制度化の一助にしようという厚労省の腹積もりもあります。ただ、中医協では日本医師会の委員が薬剤師の勤務先が多様であり、敢えて評価をつけることでこうした厚労省の狙いに即した結果になるかに疑問を呈しています。
また、入院患者では多剤投与による服薬状況の悪化や副作用の頻度上昇といったポリファーマシー問題の解決を目指し、服用薬数を減らす取り組みを評価する「薬剤総合評価調整加算」が設けられていますが、算定要件である多職種カンファレンス実施が負担になるため、算定が進んでいません。そこでこの要件をより現実的な内容に変更する議論も行われています。
非医療職の評価
残る3つ目と4つ目は非医療職の評価です。そのうちの1つは師の業務負荷を改善するための専任の医療事務職員の配置を評価する「医師事務作業補助体制加算」です。これは医師側からも一層の活用を求める声があり、算定要件の変更や業務範囲の明確化の方向性が追及されています。
残る1つは看護助手と呼ばれる無資格の看護補助者の評価です。「なぜ無資格者を評価するのか?」と疑問に思う人もいるかもしれません。
そもそも医師の働き方改革を進めると、もっともタスク・シフトされるのが看護師です。しかし、現在は看護師不足となっていることは介護業界関係者ならご承知のはず。そこで看護師からさらにタスク・シフトするために、看護補助者や病棟看護師などに適切な研修を行うことなどを評価する「看護補助体制充実加算」が前回の診療報酬改定で新設されました。
ただ、この加算親切後も看護師から看護補助者へのタスク・シフトが進んでいない実態が明らかになり、厚労省からはこの評価を厚くしようという考え方が厚労省から示されています。
ちなみに先ごろ成立した補正予算では、医療関係者の賃上げ項目として看護補助者だけ49億円の支出が決定しました。これは看護補助者の賃金水準が介護職員よりも低いとされているためで、国がいかにその存在を重視しているかがうかがえます。
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