令和6年能登半島地震を契機に医療・介護業界でも災害対策に注目が集まっています。ただ、介護施設では災害時の避難では人手不足などが問題になっている実態が浮かび上がっており、この課題解決に2022年4月からスタートした社会福祉連携推進法人制度が一助になる可能性が示唆されています。
これは今年2月に京都市で開催された第29回日本災害医学会で徳島大学大学院社会産業理工学研究部理工学域社会基盤デザイン系の金井純子氏らが発表したものです。
判断情報不足が早期避難の阻害要因に
金井氏らは2018年4月30日~5月31日、その直前期に大きな水害が発生した2府9県(秋田県・岩手県・宮城県・大阪府・京都府・和歌山県・島根県・山口県・福岡県・大分県・宮崎県)の特別養護老人ホーム534施設とグループホーム466施設(合計1000施設)に郵送によるアンケートを実施しました。回答数は395施設(回収率39.5%)。
それによると、高齢者施設の早期避難を阻害する要因(複数回答)について、筆頭に挙がったのが「避難による入所者の健康悪化を心配し、避難開始の判断をギリギリまで待つ」。次いで「職員が少なく避難誘導に人手が足りない」「移送車両が足りない」「たいした事はないと希望的観測をしてしまう」「避難開始を判断できるだけの情報が無い(足りない)」の順で、早期避難の阻害要因が上げられました。つまるとこと人・モノのリソース不足、判断情報不足が阻害要因の大半を占めていることになります。
また、同アンケートによると、災害発生を想定した役割分担や移送方法については「決まっている」が70.0%、「決まっていない」が29.7%、避難支援の有無は「支援なし」が45.6%、「支援あり」が51.6%で、現実の備えが必ずしも十分ではない状況も浮かび上がっています。
連携が功を奏した2023年7月豪雨時の秋田の事例
一方、金井氏らは2023年7月14~16日の記録的な大雨により、大規模な浸水被害が発生した秋田県五城目町で、社会福祉法人Aが同町に有する高齢者施設Bでの事例を紹介。施設Bでは施設南側を流れる川が氾濫する危険性が発生し、7月15日午前に入所者84人を近くの体育館など3か所に分散避難させました。ただ、体育館には衝立がなく、プライバシー保護に課題があったことに加え、大雨による浸水の影響により町内全域で断水が発生し、衛生環境の悪化に伴う入所者の体調が危ぶまれる状態となりました。
そのため近隣の潟上市にある系列施設への入所者移送を検討しましたが、車椅子利用者が多く、施設Bの車両だけで移送すると膨大な時間がかかることが予想されました。この際、潟上市の系列外の社会福祉法人Cに支援を要請。法人Cから介護職員ら4人、リフトバス2台の派遣を受け、潟上市の法人Aの系列施設に五城目町の体育館などに避難していた施設Bの入所者を移送しました。また、後に潟上市に移送された施設Bの入所者を再移送する必要が生じた際も、法人Cが職員と車両を派遣するとともに、施設B入所者のうち11人を法人Cが運営する3施設で受け入れてもらいました。
最終的に施設Bは8月1日通所リハビリテーション、10月7~8日には全事業の再開に漕ぎ着けています。
この連携が可能だったのは、法人Aと法人Bを含む4つの社会福祉法人が、社会福祉連携推進法人設立を目指し、2022年11月に秋田圏域社会福祉連携推進会を設立して準備を進めていたためです。最終的に秋田圏域社会福祉連携推進会は2023年8月に5法人で社会福祉連携推進法人を設立しています。
このことについて金井氏らは「社会福祉連携推進法人を活用した施設Bの災害対応は災害時の法人間連携のあり方を検討する上で有用な事例」とし、災害時対応では「立地、建物、系列法人の有無、利用者や職員の人数、車両の数など各施設の特性や保有する資源を考慮した避難支援体制の構築が必要」との見解を示しています。
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