folder_open 介護経営 calendar_month update

【ニュース解説】【介護報酬改定】社会保障費の増大を食い止めたい財務省の”言い分”は

次年度のトリプル改定に向け財務省の財政制度等審議会(財政審)財政制度分科会が11月1日に開催され、財務省主計局が診療報酬、介護報酬、障害福祉サービス等報酬に関する改革の方向性案を提示しました。今回はそこで示された介護報酬改定に関する内容を紹介します。

財務省の考え方=改定内容 とはならないが注視が必要

まず、今回の内容はあくまで財務省の考え方であり、これが改定内容とイコールではないことを改めて強調しておきます。この時期になると、関係者の中には各方面から提出される意見や考えに振り回されて一喜一憂する人を見かけます。しかし、財政審での議論は「ボールを遠くに投げる」のが特徴です。むしろこうした方向性を受けて社会保障審議会介護給付費分科会でどのような議論が行われるかが本丸です。

今回示されたのは(1)担い手の確保(2)給付の適正化(3)保険制度の持続性を確保するための改革、の3つの大枠での方向性です。

ICT化・デジタル化に加え、経営の協働化・大規模化を推進

介護業界全体として最も頭を悩ませている「担い手の確保」の問題ですが、この点についてより細かく分解すると、財務省は、

▽テクノロジーの導入・活用促進や人員配置基準の柔軟化の推進 ▽生産性向上による介護サービスの質の向上と介護従事者の負担軽減を通じた需要増大から介護従事者の賃上げへの好循環の実現

という基本的な考え方を有しています。

「テクノロジーの導入・活用促進や人員配置基準の柔軟化の推進」について示された方向性は、まず好事例の横展開による処遇改善や働きやすい職場環境づくりに繋げる、というもの。極めて地味な提案ですが、提示された資料では好事例として内閣総理大臣表彰を受けたロボット・ICT活用事例が紹介されています。同時に分科会では、介護事業所でのICT導入が進んでいない実態を示す資料も提示しています。要は「ICT活用をより一層推進すべし」ということです。

この点についてはさらに介護業務のみならず、「事務手続のデジタル化を推進すべき」と訴えています。そのうえで現在特別養護老人ホームでの全床見守り機器導入とインカムなどのICT機器を使用による夜間人員配置基準緩和を例に、先進的な取組をしている介護事業者の人員配置基準のさらなる柔軟化、ユニット型特養の配置基準や通所介護での人員配置基準の見直しも検討すべきとしています。

ICT活用と並んで、今回示されている担い手確保策の方向性は「経営の協働化・大規模化の推進」です。財務省側は大規模な事業所ほど介護職員の給与が高く、その背景に大規模化による物品購入のボリュームディスカウントや業務内の人員・資器材の融通性の高さがあると指摘しています。こうした結果として研修充実や賃上げ余力が生まれ、離職率低下にもつながるというロジックです。ちなみに前段の好事例の横展開では、2021年4月に創設され現在はまだ低水準にとどまっている社会福祉連携推進法人の活用にも言及しており、これは大規模化推進と軌を一にしていると考えて良いでしょう。

また、従来から高コストで必ずしも評判が良いとは言えない人材紹介会社を通じた人材採用への指導監督の強化とそれに伴う公的人材紹介の充実も求めています。

財務省のホンネ「経営体力があるから、過度な介護報酬引き上げは必要ないのでは?」

さらに9割の介護事業所が取得している処遇改善加算の活用による介護従事者の賃上げと同加算取得要件に職種別の給与等の報告の検討を訴えています。ここは要注意かもしれません。財務省は処遇改善加算の結果として、介護職員では当初の目標水準よりも高い賃上げが実現され、これが介護職員以外でも実現されているとのデータを示し、やんわりと「介護事業者は経営体力があるから、過度な介護報酬引き上げは必要なし」という理論を展開しています。つまり、この要件により処遇改善加算の適切な活用を監視可能し、今後の介護報酬改定に切り込む材料の獲得を目指していることをうかがわせます。

この後段では介護サービス事業者全般での経営状況や処遇改善状況の見える化を進めるべきとの方向性も訴えていますが、そこでも再び処遇改善加算の取得要件として職員別の給与の報告を訴えていることからも、かなりこの点に財務省は執着していることがうかがえます。

この項目に関する資料の冒頭では令和3年度介護事業経営概況調査から、介護施設・事業所の収支差率は3.0%で、中小企業全体の3.3%をやや下回る水準であるものの、同調査では特別費用の「事業所から本部への繰入」が反映されている一方、特別収益が反映されていないという部分を調整すると収支差率は4.7%と中小企業全体の水準を上回るとの認識を示しています。また、福祉医療機構が分析するサービス類型ごとの収支差率でも中小企業全体の水準を上回るサービスが多いことを指摘しています。

そのうえで具体的な方向性について「介護保険給付費の伸びや保険料負担の増を極力抑える観点から、令和5年度経営実態調査の結果も踏まえつつ、収支差率の良好なサービスについては報酬水準の適正化・効率化を徹底して図るべき」とかなり強めの文言を用いています。

とりわけサービス類型別の収支差率を示したグラフでは、令和3年度経営概況で特別費用の除外と特別収益分を加えた収支差率で、全産業での収支差率5.4%を大きく上回る「訪問介護(8.6%)」、「訪問看護(7.6%)」、「特定施設入居者生活介護(10.9%)」を、点線箱枠で強調しています。これらについてはとりわけ報酬水準の適正化、すなわち基本報酬の引き下げを目指したいということです。

このうち訪問看護については、慢性期・終末期の利用者に特化した有料老人ホームやサ高住などで併設の訪問看護事業所による医療保険枠での濃厚なサービス提供に歯止めが効かないことを問題視。「看取りの受け皿となっている現状はあるものの、極端に訪問看護のサービス提供量が高い事業者については、医療保険上の訪問看護の提供実態等を踏まえた上で、適正化を図るべき」と提案しています。

また、介護報酬では近年相次いでいる各種加算の新設についても今回言及しています。現在の加算の種類は介護保険創設の2000年当時よりも激増しています。例えば介護老人福祉施設の場合、2000年当時に創設された加算はわずか8種類でしたが、現在では65種類にものぼります。財務省側では、平均算定率が8割を超える加算が一部にとどまる一方で、全く算定がない加算や平均算定率が1%未満の加算の種類が多いことから、「介護事業者の事務負担の軽減や、利用者にとっての分かりやすさの観点から、整理統合を図りつつ、質の高い介護サービスの推進に向けて、自立度や要介護度の維持・改善など、アウトカム指標を重視した真に有効な加算へ重点化すべき」と指摘しています。

この「整理統合」がどのように行われるかは、関係者にとって気がかりなはずです。財務省側の資料には「政策目的達成又は一般化した加算の整理・統合等」という文言があります。これは診療報酬の動きに注意を払っている方々にとっては非常にわかりやすいと言えるでしょう。診療報酬・介護報酬とも国が考える政策への経済的誘導機能を持つことは皆さんご存じのはずです。中でも創設からの経過期間で介護報酬の3倍以上の歴史を有する診療報酬では、ある加算の創設で目指した流れが全国的に定着すると、加算の算定要件を基本報酬の算定要件に包括化するなどして加算を廃止することがよくあります。一部の医療関係者から「厚労省の梯子外し」とも揶揄される動きです。有体に言えば、介護報酬でもそろそろこの手法を使ってはいかがですか?と財務省は言っているわけです。

高所得高齢者の介護保険料と自己負担比率の引き上げ

「保険制度の持続性を確保するための改革」については従来からの議論の焼き直しがほとんどですが、高所得高齢者の介護保険料と自己負担比率の引き上げが大きな柱です。とりわけ強調されているのが「後期高齢者医療制度における2割負担の導入(所得上位30%)を受けて、介護保険の利用者負担(2割負担)(現行:所得上位20%)の拡大について、ただちに結論を出す必要」という点です。昨年10月から始まった一定所得のある後期高齢者の自己負担比率引き上げに合わせて介護保険の自己負担も引き上げるのは是非は別にして、対外的には一見分かりやすそうな説明になるので、財務省は強行突破したいということでしょう。

もう一つが多床室の室料負担見直しです。すでに2015年度に介護老人福祉施設は、多床室の室料が保険給付から外され、自己負担となりました。一方で介護保険サービスである介護老人保健施設、介護医療院、介護療養病床は保険給付の対象に今も含まれています。この違いは、介護老人福祉施設が終の棲家の位置づけに対し、後者3施設は在宅復帰への通過点と位置付けられていたからです。しかし、現状では在所期間が長期化し、半ば終の棲家のような役割を担い始めているため、平等性を担保しましょうという提案になります。

さてこれら財務省の提案が介護報酬改定までにどのようにチューニングされていくか、悲観しすぎることはありませんが、注視が必要です。

財務省 財政制度分科会(令和5年11月1日開催) 

【関連トピックス】

来年の介護報酬改定につながる 財務省の”所信表明”「財政総論」とは

【速報】【2024介護報酬改定】処遇改善加算 一本化へ 新旧加算を選択できる移行期間も検討

先発薬の窓口負担増の可能性も 診療報酬改定で薬剤費負担も変わる?

【関連資料】

医療⇔介護 日本の論点2023

2025年問題2040年問題 理解するために知っておくべき8つのデータ

【2023厚労省最新データ】特別養護老人ホーム 地域密着型特別養護老人ホーム 経営・加算獲得状況データBOOK

\夜間オンコールができる看護師が足りない…/
\受診するべきか相談できればいいのに…/

ドクターメイトの
「夜間オンコール代行™」「日中医療相談」で解決!

「夜間オンコール代行™」と「日中医療相談」で、介護施設で24時間365日、医療サービスを提供できます。

導入後の効果をもっと詳しく読む>>