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【ニュース解説】先発薬の窓口負担増の可能性も 診療報酬改定で薬剤費負担も変わる?

9月末に開催された厚生労働省の第168回社会保障審議会(社保審)医療保険部会では、来年の診療報酬改定に向けて、新たな患者の薬剤費負担制度に関する議論が開始されました。今回はこの問題を解説したいと思います。

「待ったなし」の状況にある社会保障費増大

まず、この薬剤費負担に関しては、過去から財務省の財政制度審議会などでも常に取りざたされ、社保審の医療保険部会でも再三にわたって議論されてきた問題です。過去10年を振り返っても、例えば2016年に開催された第99回社保審医療保険部会で活発に議論されています。その意味では古くからある問題で、論点は出し尽くされてきた感はあります。悪く言えば、賛成反対の両論が堂々巡りを繰り返してきたとも言えます。

ただ、今回、状況がやや異なるのは、現在は国が掲げた2025年を目標にした地域包括ケアの完成に向けた最後のトリプル改定目前で、いよいよもって国の財政に重くのしかかる社会保障費負担の解決は「待ったなし」の状況です。さらには岸田首相が打ち上げたこども未来戦略のスタートに伴う財源確保、2024年度の実施は否定されたものの既定路線となった防衛費増に向けた増税などがあり、待ったなしの財政適正化が必要になっているのです。

薬剤費負担引き上げ 提示された4案とは

9月末の社保審医療保険部会では、厚生労働省が薬剤費負担引き上げ案を例示してきました。具体的には(1)薬剤定額一部負担 (2)薬剤の種類に応じた自己負担設定(3)市販品類似の医薬品の保険給付の見直し(4)長期収載品の自己負担の見直し、の4案です。

「薬剤定額一部負担」は外来診療や薬剤支給時の薬局窓口などで医療保険の自己負担割合とは別に薬剤費の定額負担を求めるものです。これは前例があり、1997年9月から2003年3月まで実際に行われていた制度です。処方されている薬剤種類数によって定額負担を求めるもので、最大は内服薬6種類以上で100円、外用薬3種類以上で150円などの負担が、通常の1~3割の医療保険の自己負担分とは別に徴収されていました。しかし、この方式では薬剤費の安い人ほど相対的に最終的負担が重くなることに加え、この制度末期に高齢者、若年現役世代とも医療保険の自己負担比率の引き上げが行われたことから廃止に至りました。

「薬剤の種類に応じた自己負担設定」はフランスなど海外で行われている制度です。フランスでは、医療上の重要性に応じて35~100%までの自己負担割合が設定されています。ちなみに使用薬剤に代替品がない場合の自己負担はゼロになります。ただ、この方式は病気別に負担割合が変わることから制度設計が複雑になるうえに、かかった病気ごとに負担割合が異なるため、患者間での不公平感が募り、場合によっては病気の種類による差別・偏見を助長する可能性があります。

「市販品類似の医薬品の保険給付の見直し」はこの中では最も古くからある議論です。いわゆるドラッグストアなどで売られているOTC医薬品に類似品がある医薬品を保険給付から除外する、あるいは自己負担比率の引き上げや定額負担を導入するという考えです。財務省も従来から主張していますが、この場合、医療機関の受診者が減少する可能性があるため、日本医師会など医師系団体に根強い反対があります。もっとも医師系団体は「受診者減少」を露骨に主張するのではなく、「医療上の必要性に応じて適切な医薬品を選択できるよう担保することが必要で、財政問題だけで保険適用を見直すことは適当ではない」「医療用と市販薬では、同一の成分であっても期待する効能・効果や使用目的、患者の重篤性が異なる場合があり、市販薬の有無で取扱いを変えるのは理解し難い」などの主張を展開しています。

「長期収載品の自己負担の見直し」について、すでにジェネリック医薬品が存在する先発薬(長期収載品)について自己負担を見直す、というものです。ご存じのように日本では2010年代からジェネリック医薬品の使用を促進するための診療報酬・調剤報酬設定が行われ、急速にジェネリック医薬品の使用が浸透してきました。現在ではジェネリック医薬品がある成分に関しては、国内処方量の約8割がジェネリック医薬品となっています。ただし、裏を返せば、約2割はかつての新薬である長期収載品が使われています。これには様々な事情があると言われていますが、ざっくり言えば処方する医師あるいは処方される患者がジェネリック医薬品を好まないことが主な原因の1つと言われています。そのため、敢えて長期収載品を使い続けるならば、ジェネリック医薬品の薬価との差額を患者に負担してもらうとの考えです。

「長期収載品の自己負担の見直し」有力も医薬品不足問題が立ちはだかる

さてこの4案ですが、最も有力視されているのが「長期収載品の自己負担の見直し」です。この案が有力視される背景には、実施のハードルが低いことに加え、日本では前述の定義による数量ベースシェア約8割まで浸透したジェネリック医薬品の使用は他の先進国と比較すると、まだ低い方だからです。

「令和4年後発医薬品使用促進ロードマップに関する調査報告書」によると、各国間で定義を揃えたジェネリック医薬品の2021年の数量ベースシェアは、日本が71%、フランスが78%、イギリスが81%、ドイツが90%、アメリカが96%です。この背景には国内の新薬を中心とする製薬企業のうち、中堅以下の企業では長期収載品が一定の収入源になっているため、そのプロモーションの影響が残っていることも一因と考えられています。

さてこの「長期収載品の自己負担の見直し」が実行されると、現状ではやや困ることがあります。それは冒頭でも軽く触れた現在のジェネリック医薬品を中心とする医薬品不足問題です。

これは2020年に福井県のジェネリック医薬品企業・小林化工(現在は廃業)での製造不正発覚とそれに伴う行政処分をきっかけに業界各社が総点検を行った結果、当時国内最大のジェネリック医薬品企業だった日医工を始めとする各社で製造不正などの発覚が相次いでこれら各社が行政処分を受けた結果、使用数量が拡大していたジェネリック医薬品の供給不安が発生しました。すでにこの状況となってから約3年が経過していますが、解決の兆しはありません。それどころか先ごろ、現在の国内最大手ジェネリック医薬品企業である沢井製薬でも品質検査の不正が発覚し、今後同社が行政処分を受ける可能性も浮上してきています。

咳止め薬や痰切り薬の不足が慢性化 利用者の常備薬の見直しも視野に

この影響を底流に昨今のインフルエンザ流行も重なり、咳止め薬や痰切り薬が不足し、国が一部製薬企業に資金拠出をして増産を支援する状況にもなっています。この支援で状況は幾分かの改善が見込まれますが、そもそもジェネリック医薬品企業は通常から余裕のない生産計画が敷かれているため、抜本的な改善は難しいのが現状です。この医薬品不足は、この先も年単位で続くと考えておいた方が良いでしょう。

いずれにせよこの状況では来春以降、薬剤費負担が増える上にそもそも薬が手に入らないというダブルパンチの状況が発生することが予想されます。その意味では高齢者施設の関係者も入所者・利用者の常備薬の問題に今以上に接する機会が増えることが予想されます。

その意味では特に入所系施設の場合は、入所者の服用薬についてまずは配置医と「それが本当に必要な薬かどうか」という検討から始めた方が良いかもしれません。同時にこれ以上、入所者が薬のお世話にならないよう日常的な健康管理や医療相談などを活用することも念頭に置きましょう。

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