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【ニュース解説】新たに創設される「見守りつき賃貸」とは? サ高住とはどう違う?

医療・介護関係者にとっては、もはや耳にタコができるほど聞かされている言葉「地域包括ケアシステム」。今回の診療報酬・介護報酬の同時改定の方向性でも、その深化が1つの柱となっています。厚生労働省による地域包括ケアシステムの定義をここで改めて示すと、「重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるシステム」というものです。この定義内で医療・介護関係者が失念しがちな部分が「住まい」です。地価が高騰している都市部を中心に「持ち家」がない、つまり賃貸住宅に居住する高齢者は一定数存在し、高齢化の進展で今後その増加が予想されています。

高齢者の場合、賃貸住宅入居は若年者と比べてハードルが高いのが実状です。高齢者向けに賃貸住宅を仲介している株式会社R65が、2023年6月に65歳以上で賃貸住宅探しの経験がある500人にアンケートを行った結果では、入居を断られた経験があるのは26.8%。大都市圏の関東に限定すると、これが32.2%とほぼ3人に1人になります。しかも、アンケートでは入居拒否経験の割合は年収レベルで差がないことも分かっています。これは若年層に比べて定期収入面に乏しく家賃滞納リスク、加えて独居の場合は孤独死リスクがあることが原因と言われています。後者ではその後の家財処分や新規入居者の確保が困難な事故物件化も懸念されます。

もちろんこの状況を国や自治体が見過ごしているわけではありません。今後の独居高齢者の増加を踏まえ、昨年7月には国土交通省、厚生労働省、法務省が合同で「住宅確保要配慮者に対する居住支援機能等のあり方に関する検討会」を立ち上げ、5回の検討会を経て、昨年12月に中間取りまとめを発表しています。そしてこのほど国土交通省は社会福祉法人による見守り機能が付いた新たな住宅の創設に向けて動き出しています。今回はこの件について解説します。

国土交通省の政策となる「住宅セーフティネット法」

今回の政策で「なぜ国土交通省?」と思う方もいるかもしれません。これは2001年の中央省庁再編の際、賃貸住宅政策などを所管する旧建設省のほかに旧運輸省、旧国土庁、旧北海道開発庁の4省庁が統合して国土交通省が発足したことが背景にあります。また、法務省が入ってくるのは、前述の「住宅確保要配慮者(以下、要配慮者)」には刑務所出所者が含まれるためです。

まず、新制度を説明するためには従来の要配慮者対策を知る必要があります。国内ではすでに2007年に要配慮者を念頭にした住宅セーフティネット法(正式名称「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」)が制定されています。同法が定める要配慮者は、高齢者以外に低所得者(月収15万8000円以下)、障がい者、災害被災者、高校生以下の子供を養育者で、ほかに省令で外国人、児童虐待・DV被害者、そして前述の刑務所出所者が定められています。また、同法で都道府県・市町村が作成できると規定されている「賃貸住宅供給促進計画」で、自治体独自の要配慮者を定めることもできます。

ちなみに施行当時の住宅セーフティネット法は非常に簡素な内容で実効性に乏しかったことから、2017年に大幅な法改正が行われ、新たな要配慮者対策としての住宅セーフティネット制度がスタートしました。

同制度では要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度を設け、都道府県あるいは都道府県が指定した登録機関に不動産オーナーが要配慮者に賃貸可能な物件を登録します。登録物件は住戸床面積が25㎡以上、耐震性を有する、周辺賃貸住宅と家賃が同水準などが求められています。ちなみに登録時、不動産オーナーは要配慮者の中でも「高齢者」など特定の属性を選択することが可能です。

同制度の登録物件は、改修の必要性があればその費用の一部が補助金として不動産オーナーに交付されます(ただし、補助を受けた場合、最低10年間は要配慮者専用住宅として運用が必要)。また、改修費用の8割を上限に独立行政法人住宅金融支援機構による融資を受けることも可能です。

一方、登録物件では前述の法律で定めた月収15万8000円以下の低所得者以外でも、低所得の人は少なくありません。この点を考慮して、要配慮者の収入を考慮して不動産オーナーが通常より家賃を引き下げた場合は月最大4万円、入居時に血縁者などの保証人がいない時などに利用する家賃債務保証業者が同じく初回の家賃債務保証料を引き下げた場合は最大6万円がそれぞれに補助として支払われます。ただ、この補助を受けられる家賃債務保証業者は住宅セーフティネット法で定められた居住支援法人(後述)、あるいは国土交通省の登録を受けた業者に限定されます。

これに対し要配慮者は、自治体や居住支援協議会、居住支援法人などから登録物件情報の提供などの支援を受けられます。「居住支援協議会」は自治体、不動産関連団体、入居支援団体などが連携して設立され、要配慮者の賃貸物件入居を促進するため関連業者や要配慮者の双方を支援する組織です。また、「居住支援法人」は、要配慮者への住宅情報提供以外にも家賃債務保証、見守りなどの生活支援を行う都道府県から指定を受けた法人です。居住支援法人はNPO法人、社会福祉法人、一般社団法人、株式会社など形態は多様です。居住支援協議会、居住支援法人とも住宅セーフティネット法で定められた組織です。

なぜ今になって、新たに「見守りつき賃貸」を創設することになったのか

さてこのような仕組みがありながら、今回国土交通省が社会福祉法人による見守り機能が付いた新たな住宅制度を創設しているところに現在の住宅セーフティネット制度の限界があります。まず、同制度に登録している物件数は2023年3月末現在、約89万9000戸、うち補助金が交付された要配慮者専用住宅は約5300戸です。

そこそこの数があるようにも思えますが、国立社会保障・人口問題研究所は2018年時点で、2030年の単身高齢者世帯は約800万世帯に上ると推計しています。もちろんこれら全世帯が賃貸住宅居住世帯ではありませんが、冒頭で紹介したR65の調査によれば、回答者の約36%が賃貸住宅を探した経験があると答えています。これらの数字をかけ合わせれば、2030年には概算で単身高齢者約300万世帯が賃貸住宅に住む可能性が考えられます。しかも、前述のように要配慮者は高齢者だけではありません。つまり現状の登録物件数は要配慮者全体で見た場合だけでなく、その中の単身高齢者だけを考えても足りていないのです。

では、どのようにすれば登録件数を増やせるのでしょうか?冒頭に示したR65の調査は借り手の高齢者に焦点を当てていましたが、対する不動産オーナー側の意識について、2021年に国土交通省が行った調査結果があります。それによると、貸し手の約7割が高齢者の入居に拒否感があり、貸し手が高齢者単身入居に際して求める支援策(複数回答)は、「見守りなどの生活支援」「死亡時の残存家財処理」が各61%、「家賃債務保証の情報提供」が49%でした。

つまり今回、国土交通省が創設を意図している新住宅制度は、貸し手側が最も懸念する見守りなどの生活支援について、それを得意とする社会福祉法人によって提供することで、不動産オーナーの不安を解消し、高齢者が入居可能な物件を増やしたい狙いがあるのです。しかも、この新住宅制度では、社会福祉法人職員による定期訪問による見守りに加え、人感センサーなどICTを活用して安否確認する住宅も想定し、自治体が該当住宅を認定する仕組みになる見込み。また、社会福祉法人が必要に応じて、医療や介護、自立支援などの福祉サービスにつなげることも想定しています。一方、不動産オーナーに対する調査結果でやはり上位に挙がった家賃債務保証でも、利用しやすい家賃債務保証会社を国が認定する制度も設ける予定と伝わっています。

国土交通省は、これら新たな仕組みを盛り込んだ住宅セーフティネット法改正案を現在開会中の通常国会に提出する予定です。

サ高住、有料老人ホームにとって「経営競合」になる可能性も

さてこれが実現した場合に介護業界にどのような影響が及ぶでしょうか?この影響を決するファクターは新制度住宅の家賃次第と言えます。現状の住宅セーフティネット制度登録住宅の家賃は、前述のように周辺相場と同等です。しかも、不動産オーナーの配慮によりそれよりも安くすることは可能です。もっとも新制度住宅のような見守り機能がプラスされた場合、従来の家賃より上昇する可能性が高いと考えられます。

ただし、前述した不動産オーナーへの家賃補助があるならば、比較的安価な家賃にするできる可能性があります。このような前提に立てば、真っ先に考えられるのが、サ高住、有料老人ホームとの競合です。少なくとも現状では新制度住宅のほうが価格競争力を有する可能性が高いので、経営的な視点に立てばサ高住、有料老人ホームにとって脅威になるでしょう。

特養にとっては新制度住宅の家賃水準次第と言えます。ただし、老健を運営する系列社会福祉法人を有する民間病院の場合、病院⇒(老健)⇒新制度住宅という在宅復帰の流れを目指すことが予想され、病院or老健⇒特養の入所経路は先細る可能性は少なくありません。

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