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【ニュース解説】介護従事者の3人に1人「利用者などからの暴力・ハラスメント経験あり」

2月20日の東京都議会定例会で東京都の小池百合子知事は顧客による迷惑行為や過度・悪質なクレームなどの「カスタマーハラスメント(カスハラ)」を防止する条例制定へ向けた検討開始を表明しました。

近年、カスハラは社会問題になりつつあり、東京都の動きは他の道府県へ波及する可能性があります。

東京都が制定を目指す条例については、現時点で罰則を設けない方向で検討される見込みです。これはカスハラ該当行為を明確に定めるためには、ある程度時間を要するとの考えからのようです。この点について一部からは「腰砕け条例」との批判もあるようですが、自治体が条例制定に動くことで、民間が対策を立てやすい雰囲気の醸成効果は期待できます。

カスハラは従来から医療・介護界でも問題になっています。とりわけ医療従事者、介護従事者にとっては事実上アウェーの場である患者・利用者宅で行われる在宅医療・在宅介護では第三者の目が届きにくいため、対策が急務と言われています。この点に関連し、福岡県が2月22日付で「在宅の医療及び介護現場における利用者等からの暴力・ハラスメント実態調査結果報告書」を公表しました。今回はこの内容を解説します。同調査は2023年3月7日~4月30日にかけて福岡県内の医療機関・事業所の管理者と従事者向けに行われたものです。

暴力・ハラスメントを経験した従事者 3人に1人「仕事を辞めたくなった」

これまでに利用者などからの暴力・ハラスメントを受けた経験については「ある」との回答が38.5%、うち「生命の危機を感じた」という回答は5.3%でした。

調査では暴力・ハラスメントの内容を

・身体的暴力(叩く、殴る、蹴るなど他人に危害を及ぼす行為・物の破壊・直接的に身体的被害が及ばない場合も含めた物の投げつけ)

・精神的暴力(怒鳴る・威圧的な態度など言葉や態度で個人の尊厳や人格を傷つける・理不尽な行為の強要・無視・第三者に事実無根の事項を吹聴)

・セクシャルハラスメント(性的内容の言葉や好意など意に沿わない性的誘いかけ・好意的態度の要求・性的ないやがらせ行為)」

に分類し、具体的にどのような被害を受けたかを聴取しています。

それによると、「ある」と回答した従事者が受けた暴力・ハラスメントの種別(複数回答)は、「精神的暴力」が76.6%と最多で、「身体的暴力」が43.3%、「セクシャルハラスメント」が42.8%と後者2つは同程度でした。

福岡県「在宅の医療及び介護現場における 利用者等からの暴力・ハラスメント実態調査結果報告書」より

暴力・ハラスメントの行為者については、利用者本人から受けたとの回答は「身体的暴力」が98.0%、「セクシャルハラスメント」が92.2%で、いずれの種別も利用者家族などから受けたとの回答割合は少ないのに対し、「精神的暴力」は利用者からが74.8%、利用者の家族などからが41.2%でやや特徴的な結果となっています。精神的暴力は被害を訴える側の受け止め方にバラツキが出やすい項目であることは否定できませんが、いずれにせよ利用者家族が無意識に従事者を傷つけているケースが少なくないことがわかります。

暴力・ハラスメントを経験した従事者のうち、後の業務に何らかの影響があったのは46.3%。影響の種別(複数回答)の最多は「仕事を辞めたいと思った」が33.2%で突出しており、「ケガや病気(精神的なものも含む)になった」「仕事を休んだ」「退職した」はいずれも10%未満。ちなみに「仕事を休んだ」は1.7%、「退職した」は1.5%でした。

福岡県「在宅の医療及び介護現場における 利用者等からの暴力・ハラスメント実態調査結果報告書」より

暴力・ハラスメント対策充実のために今後必要だと思うことについては、「医療機関・事業所内で報告・相談しやすい環境をつくる」が65.5%と最も多く、次いで「基本方針を定め、従事者及び利用者・家族に周知する」が63.2%、「被害を受けた従事者へ、心のケアや従事上の配慮」が54.6%、「マニュアルを定め、従事者が対応できるようにする」が54.5%、「複数人での訪問」が52.6%などとなっていました。

福岡県「在宅の医療及び介護現場における 利用者等からの暴力・ハラスメント実態調査結果報告書」より

管理者「情報を事前に収集し、暴力等のリスク把握に努める」は半数にとどまる

一方、管理者向け調査での暴力・ハラスメントへの日ごろの備えとして取り組んでいること(複数回答)は、「利用者の情報を事前に収集し、暴力等のリスク把握に努める」が54.8%で最多。これ以外は順に「基本方針を定め従事者に周知」が51.9%、「文書(契約書・重要事項説明書等)等で暴力等があった場合の対応を利用者・家族に周知」が41.3%でした。6.6%とごくわずかながら「取り組んでいない」と回答した医療機関・事業所もありました。

福岡県「在宅の医療及び介護現場における 利用者等からの暴力・ハラスメント実態調査結果報告書」より

暴力・ハラスメントが発生するおそれが高い利用者・家族などへの対応として取り組んでいること(複数回答)は、「身の安全を優先した対応を従事者に徹底させる」が55.4%、「複数人での訪問」が48.4%、「担当者の交代等、人間関係を固定化させない」が41.1%などです。一方、「取り組んでいない」と回答した医療機関・事業所は7.1%。

暴力・ハラスメントの発生以降の対応(暴力・ハラスメント事例なしの場合は取り組む予定のもの)(複数回答)は、「身の危険があれば、業務を中止し、その場を離れる」が最多の77.5%。以下は「管理者などと連絡し、サービスの中止等を相談する」が61.5%、「管理者などと連絡し、他の従事者が応援にかけつける」が51.0%など。「取り組んでいない」との回答は4.9%ありました。

暴力・ハラスメント対策を行う上での課題(複数回答)は、「医療機関・事業所で暴力・ハラスメントの対策を行うための、時間的余裕がない」が36.5%、「暴力・ハラスメントの対策を具体的にどうしたらいいかわからない」が33.9%。

福岡県「在宅の医療及び介護現場における 利用者等からの暴力・ハラスメント実態調査結果報告書」より

暴力・ハラスメント対策を充実させるため今後必要だと思うこと(複数回答)は、「医療機関・事業所内で報告・相談しやすい環境をつくる」が最多の61.6%で、それ以外では「マニュアルを定め、管理者・従事者が対応できるようにする」が61.3%、「被害を受けた従事者へ、心のケアや従業上の配慮」が58.9%、「基本方針を定め、従事者に周知する」が58.5%と、ほぼ従事者と同様の意識を有していることが分かりました。

福岡県「在宅の医療及び介護現場における 利用者等からの暴力・ハラスメント実態調査結果報告書」より

概観すると、5%弱とは言え問題が起きても対処しない事業所が存在することは驚きですが、同時に課題で浮かび上がったように何をしたら良いかわからないというのも事業所側の偽らざる本音かと思います。その意味では今後、行政や業界団体で何らかのガイドラインなどを作るなどの対応が望まれます。

福岡県「在宅の医療及び介護現場における 利用者等からの暴力・ハラスメント実態調査結果報告書」

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