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【ニュース解説】10月から自己負担額増の可能性も 「長期収載医薬品の選定療養」制度を解説

今秋の10月1日から、医療分野では大きな変化の1つとも言える「長期収載医薬品の選定療養」制度がスタートします。聞き慣れない用語だらけかもしれませんが、単純に言うと、使う薬によっては通常の医療保険で適用される薬剤費の自己負担額に加え、新たな自己負担が発生する制度です。今回はこの制度について解説します。

「長期収載品」「選定療養」とは

「長期収載品」とは、医薬品の特許が切れ、ジェネリック医薬品(後発品、以下ではジェネリック品)がすでに発売されている新薬のことです。この場合の公定薬価は同一成分にもかかわらず、おおむね長期収載品のほうが高くなっています。

「選定療養」とは、医療保険の適応外となる保険外診療の中で医療保険の適用となる保険診療と併用する「混合診療」が認められているものです。日本では混合診療が原則禁止されています。これは混合診療を安易に認めると、科学的根拠が乏しい保険外診療が拡大し、患者負担が増加する恐れがあるためです。ただし、厚生労働省はごく一部については「選定療養」に指定し、例外的に混合診療を認めています。従来から選定療養に指定されているものとしては、入院時に個室などを選択した場合の差額ベッド料、紹介状なしに大病院を受診した際に初診時に追加負担で求められる初診料などがあります。

今回の「長期収載医薬品の選定療養」は、ジェネリック品があるにもかかわらず、患者自身の希望で長期収載品の処方を求める場合は、長期収載品とジェネリック品との薬価の差額分の一部を通常の医療保険での薬剤費自己負担額に上乗せして負担させる仕組みです。

高血圧治療薬や認知症治療薬など1095品目で自己負担額が上昇

今回こうした制度が導入された背景は、進展する少子高齢化により増大する日本全体の薬剤費を圧縮することで、国の社会保障費負担を軽減することが目的にあります。

現在、日本ではジェネリック品が存在する医薬品成分のみに着目すれば、数量ベースで約8割がジェネリック品で占められ、医薬品市場全体では数量ベースでは7割、金額ベースでは4割となっています。しかし、欧米では医薬品市場全体で数量ベースは8割以上、金額ベースは6割前後のシェアがあります。裏を返せば、日本ではまだジェネリック品の使用促進余地があることになります。そこで長期収載品にこだわる一部の患者の負担を増やすことでジェネリック品への切替を促すのが制度導入の目的です。

もっとも今回の制度では、ジェネリック品のある成分の長期収載品すべてが対象となるわけではないというやや厄介なルールがあります。具体的には厚生労働省が定めた薬の価格一覧表である薬価基準にジェネリック品の公定薬価が掲載されてから5年以上経過した成分と同じ長期収載品、あるいは薬価基準にジェネリック品の公定薬価が掲載されてから5年未満の場合で後発品シェアが50%以上のものとしています。さらに実はごく一部の例外ですが、ジェネリック品の薬価が長期収載品よりも高い場合は除きます。

すでに対象となる長期収載品の一覧は厚生労働省から公開されており、全部で1095品目あります。高齢者に多い処方を挙げると、経口剤では高血圧治療薬、脂質異常症治療薬、睡眠導入薬、認知症治療薬、抗菌薬、解熱消炎鎮痛薬、外用剤ではステロイド、点眼剤では緑内障治療薬、貼付剤では消炎鎮痛薬などで主要なものはほぼ含まれています。また、高齢者で依存が多いと言われる抗不安薬のデパス(一般名・エチゾラム)も対象です。

【負担金額シミュレーション】自己負担額が2倍以上になる場合も

今回の選定療養では、「長期収載品と最高薬価のジェネリック品との価格差の1/4が選定療養費」となります。これを簡単な事例を使って解説します。

第一三共エスファ「リーチ」2024特別号より

まず、ある成分の経口剤で1錠の薬価はジェネリック品が100円、長期収載品が200円の場合で考えてみます。1割負担の75歳の高齢者が長期収載品の処方を希望した場合、従来ならば1錠あたり20円を負担することになっていました。

この場合、今回の制度ではジェネリック品と長期収載品の差額である100円の1/4の25円が選定療養費となり、これがまず自己負担額となります。さらに残り175円が保険給付分となり、1割負担のケースでは175円の1割である17.5円も患者の自己負担額となります。そうすると、25+17.5=42.5円が患者の自己負担総額となると思われがちですが、そうではありません。医療費では保険給付費分は税込に対し、選定療養分は税抜となっています。つまり選定療養費分については25円分に消費税2.5円が加わり27.5円となります。そうすると合計は27.5+17.5=45円となります。最終的に患者の自己負担額は以前の2倍以上になるということです。

前述した高齢者に処方されていることが多い生活習慣病などの薬の場合、ジェネリック品と長期収載品の1錠当たりの差額は10円未満であることが多いので、長期収載品の処方を希望した場合、薬剤1種類につき自己負担月額は以前よりも数十円高くなる計算です。もっとも高齢者の場合、複数の治療薬を服用していることが多いので、自己負担月額はおおむね数百円増えることになります。

この金額は大したことがないと思う人もいるかもしれませんが、高齢者の中には年金しか収入源がない人もいるので、その場合は無視できない出費です。

ちなみにこの制度の例外もあります。たとえば同一成分の長期収載品とジェネリック品でも適応症が違う場合があり、長期収載品のほうだけにある病気が適応症として含まれている場合があります。また、医学系学会が定める診療ガイドラインなどで長期収載品を推奨している場合があります。これら医学的理由で医師が長期収載品を処方する場合はこの制度の適用外です。

また、入院中のケースや院内処方の医療機関でジェネリック品が院内採用在庫にないケースもこの制度の対象となりません。さらに昨今ではジェネリック品を製造する製薬企業の事情で医薬品の供給不足が起きていますが、そのような事情で薬局がやむなく長期収載品を提供する場合も対象外です。

ジェネリック医薬品への切り替えで負担増を防ぐ

さてこの新たな制度で自己負担額を増やさずに何とかしたいと考える人もいるでしょうが、その最良かつ唯一の方法は長期収載品からジェネリック品への切替です。昨今、メディアや医師の一部に「長期収載品とジェネリック品では添加剤などに違いがあり、効果は同じではない」との主張が見受けられますが、この種の主張は率直に言って印象論に過ぎません。

ジェネリック品は、製薬企業が同等性試験を行い、その試験結果を審査したうえで問題ないと考えられた場合に厚生労働省が承認をしています。同等性試験とは、経口薬の場合は長期収載品とジェネリック品それぞれを服用した人から数時間おきに採血し、血中の有効成分量を測定し、長期収載品と差がないことを証明する試験です。

いずれにせよ今回の新制度のものとで薬剤費の自己負担額を増やしたくない場合はジェネリック品への切替が最も望ましい選択です。また、服用薬が複数ある人の場合は、医師、薬剤師と改めて相談のうえで薬剤数を減らすことが可能かを検討することも選択肢の一つとなるでしょう。

厚生労働省「後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について」

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