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【ニュース解説】過疎地域だけでなく大都市でも増加する「無医地区」とは

厚生労働省は、国内へき地での保健医療体制を確立するための基礎資料として3年に1回、「無医地区等調査」を実施しています。直近では2022年10月時点で実施され、その結果が7月28日に公表されました。

それによると、同時点での無医地区は全国557か所、無医地区人口は12万2206人で、3年前と比べ、地区数で33か所、無医地区人口で4645人減少しました。無医地区の減少傾向自体は喜ばしいことですが、実は調査の細部を見ると、新たな懸念材料も浮かび上がっています。今回はこの内容について解説します。

「無医地区」とはどんなところか

「無医地区」の定義として、「地区の中心的な場所を起点におおむね半径4㎞の区域内に50人以上が居住しており、かつ容易に医療機関を利用することができない地区」と定めています。この場合の医療機関については診療日の多少に関わらず定期的に診察していることと定められ、施設としての医療機関が存在しても休診届が出ている場合は医療機関があるとは見なしません。

また、「容易に医療機関を利用することができない」という文言は、夏期の交通事情として▽医療機関まで行くための定期交通機関がない▽定期交通機関が1日3往復以下▽定期交通機関が4往復以上でも医療機関まで行くための必要時間(徒歩時間などを含む)が1時間超、としています。また、このような公共交通機関の事情があっても、タクシー、自家用車(船)の普及状況、医師の往診の状況などを勘案して受診が容易であると認められる場合は除きます。

これに加え「無医地区に準じる地区」というものがあります。これは前述した無医地区には該当しないものの、都道府県知事が無医地区として取り扱うべき特殊事情があると判断し、厚生労働大臣に協議できる地区とされています。特殊事情とは▽半径4㎞の地区内の人口が50人未満で、かつ山、谷、海などで断絶されていて、容易に医療機関を利用することができない▽半径4㎞の地区内にある医療機関の診療日数が少ないか(概ね月3日以下)あるいは診療時間が短い(概ね1日4時間以下)▽半径4㎞の地区内にある医療機関に眼科、耳鼻いんこう科などの特定の診療科目がない▽地区住民が医療機関まで行く交通機関が1日4往復以上あり、所要時間が1時間未満であるものの、運行している時間帯が朝夕に集中しているために受診には不便▽豪雪地帯などで冬期に定期交通機関が運行されないか極端に運行数が少なくなる、のいずれかに合致して巡回診療などが必要である地区とされています。

人口100万人以上の大都市でも「無医地区」は発生する

今回の調査結果で無医地区が存在しないのは、山形県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、佐賀県の7都府県のみです。3年前の調査では、これに加えて長崎県も無医地区ゼロでしたが、今回の調査では新たに1地区が無医地区とされました。

無医地区が最も多いのが、北海道の64か所ですが、それでも前回調査からは12か所減少しています。これ以外に多い順では、広島県の53地区(前回調査から6か所減)、大分県の38か所(同1か所減)などです。無医地区の減少率でみると、最も高かったのが三重県の50%減ですが、これは前回調査で2か所あったものが1か所に減少したためです。これに次ぐのが香川県の40%減(前回5か所から今回3か所)。

また、無医地区人口が前回と比べて最も減少したのは福岡県の1,922人で、減少率は39.9%。減少率でみたトップは前回から901人減少した山梨県の58.1%減。ちなみに無医地区数が国内最多で、前回より無医地区が12か所減少した北海道での無医地区人口減少は1,290人です。このことからは北海道がいかに人口密度の低い自治体かが分かると思います。

一方、前回調査から逆に無医地区が増加したところもあります。熊本県では前回調査の20か所から26か所、鹿児島県では12か所から16か所、島根県では25か所から28か所に増加。この3県以外では7県で各1か所増加しました。冒頭で「新たな懸念材料」と書いたのは、この7県に県庁所在地が政令指定都市で人口100万人を超える大都市である愛知県、兵庫県、福岡県が含まれていることです。

医師の地域・診療科偏在、交通機関の廃止などが背景に

背景の1つには、従来から指摘されている医師の地域・診療科偏在があります。県庁所在地などに医師が集中し、その他の地域では例えば高齢医師が1人で地域医療を担い、その医師が年齢・体力の限界などから閉院してしまうと無医地区になってしまうというものです。もう1つの背景は、医療そのものではなく交通機関の問題です。前述のように無医地区あるいは無医地区に準じる地区については、通院にかかわる交通機関の廃止あるいは減便で無医地区に転落してしまうケースがあります。

例えば今回の調査結果で岩手県は無医地区の人口が前回調査よりも4200人も増加しています。増加数としては全国トップです。この理由がバスの減便です。ちなみに岩手県の場合、このバスの減便で無医地区に新たに分類されたのは4地区ですが、他の地区で無医地区が解消されたため、無医地区数は1地区の増加にとどまったものの無医地区人口は大幅に増加するという現象が起きました。現在のように燃料費をはじめとする物価高が続いている状況では、今後このような公共交通機関側の事情による無医地区が増加する可能性は否定できません。

その意味では福岡県については「あれ?」と思った人もいるかもしれません。福岡県の場合、前述のように今回の調査では無医地区人口の減少数では全国で最も多いのですが、地区数は逆に1地区増えています。これらはいわば前回調査から比較的人口規模の大きい無医地区が解消された一方で、人口規模の小さな地区が新たに無医地区になったということです。岩手県はその逆です。

私たちは、「無医地区とは人口規模の小さな山間の集落で、国や都道府県はその解消に躍起になっていて、それ以外の比較的人口規模の大きい地区では特に問題はない状態が続いているだろう」と思い込んでいる節がありますが、そうではないのです。つまり前述した無医地区の定義では、都市部周辺でもある日突如、無医地区に転落してしまうケースがあるということです。

高齢者施設も「対岸の火事」では済まされない

この件は介護施設関係者にとっても座視できない状況です。特養の場合、当然配置医師はいますが多くの場合は非常勤ですし、また専門医療や急変時の対応では外部の医療機関の受診が必要になります。しかし、周辺地域の医療リソースがもともと少ない場合や公共交通機関が貧弱な場合には、ある日突然、施設のある地区や隣接地域が無医地区あるいは無医地区に準じる地域となってしまう可能性があります。

もちろん国や都道府県、市区町村は今後も無医地区解消には務めるでしょうが、そもそも医師の偏在などは長年の問題であり容易に解決できるものではありません。また、少子高齢化の進展が確実な今、利用ニーズが必要な高齢者は増加の一途をたどる一方で将来新たに医師となる若年層の人口は減少します。むしろ医師の偏在はこれからさらに深刻化すると考えねばなりません。さらにいえば特養では入所者の平均要介護度が上昇しつつあるため、医療ニーズはさらに増加する懸念があります。

その意味では、まず施設で現在利用している、あるいは利用する可能性がある周辺医療機関については今後閉院の危険性がないかなどを改めて調査し、場合によっては、これまでの外部医療機関の付き添い受診体制を再構築することも必要です。一方、こうした問題を解決する最大の手段は、コロナ禍を機に進展したオンライン診療・医療相談の活用です。これらは外部医療機関の付き添い受診による施設側への人的負担の軽減にも有効です。

厚生労働省「令和4年度無医地区等及び無歯科医地区等調査」

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