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アウトカム評価に対し介護報酬拡大の方向に 先行して行われた自治体での結果は?

科学的根拠

政府は、3月6日に開催された規制改革推進会議医療・介護・感染症対策ワーキンググループで、2027年度の介護報酬改定を念頭にアウトカム評価を重視する介護報酬体系の導入を拡大する方向で検討を始めました。現状の介護報酬でも褥瘡を予防する取り組みを評価する「褥瘡マネジメント加算」、施設からの在宅復帰を評価する「在宅復帰支援機能加算」などアウトカムに着目した介護報酬は存在します。とりわけ2021年度からは介護サービス利用者の状態や介護施設・事業所で行っているケアの計画・内容などを入力する情報システム「科学的介護情報システム(LIFE)」の運用が開始されたことで、アウトカム重視の方向性は強化されています。

何を持って「利用者の状態が改善した」とするかの指標が課題

今回決まった方向性は、事業所に対するインセンティブを強化することで、より効率的かつ質の高い介護の提供を目指す狙いがあるとされています。そのためにはいくつかの課題があります。最大の課題はアウトカム評価に必要な科学的指標の確立です。

介護によるアウトカムは、医学的な検査値などと違ってストレートに数値で表せないものが多いのが現実です。そのため直接的なケアの内容以外でアウトカムに影響を与える数多くの因子(交絡因子)の特定が必要です。この点こそが現状では最も難しい部分です。介護の場合は、利用者の心身面のうち特に「心」、つまり満足度なども含めた心理状態がアウトカムに与える影響を単純に非科学的と割り切ることも難しいからです。

この科学的な指標の確立のためには元となるデータが必要となりますが、まさにそれがLIFEのデータとなる見込みです。とはいえ、現状のLIFEの各入力項目は選択肢の曖昧さや過不足も指摘されていて、指標確立のために利用可能なデータをここから抽出することは難航すると予想されています。それだけでなく、LIFEを科学的指標の確立に利用しようとすればするほど、今後入力項目は増えると予想されますが、入力作業に忙殺されるとモラルハザードなどで不正確な入力を助長し、適切な指標確立の妨げになる恐れがあります。このため入力作業を簡略化する仕組みも併せて開発しなければなりません。

さらに現状だと、LIFEによる入力結果は各施設などにフィードバックはされていますが、あくまで全体の結果の分布と各施設の位置づけのみが示されるだけで、どのようにすればより良いアウトカムが達成できるかの情報は皆無です。結局のところ各施設は手探りでアウトカム改善に取り組まなければならない状況です。確立された科学的指標を改善するためにどのような取り組みが必要かを、同時に横展開することが求められることになります。以上のようにアウトカム評価を重視すると言ってもそこに横たわる課題はあまりにも多いのが実情です。このように考えると当面はすでにLIFEへの入力などを算定要件にアウトカム評価を求められている各介護報酬でより科学的な指標を確立することが優先されると考えられます。

2013年から取り組む東京・品川区では

アウトカムを重視したインセンティブの提供などは、一部の地方自治体ではすでに行われています。東京の江戸川区と品川区、神奈川県川崎市、愛知県名古屋市、岡山県岡山市、青森県弘前市、福井県、滋賀県、埼玉県などです。

このうちもっともはやく2013年からインセンティブ制度が始まった品川区の場合、指標は要介護度となっており、品川区施設サービス向上研究会に参加する施設に対して、利用者の要介護度が前年度と比べて1段階以上改善された場合にその度合いに応じて1人当たり月2~8万円の奨励金が事業者に支払われる仕組みです。この品川区のケースでは、介護サービスを評価する119項目のセルフチェック質問に対して各施設が自己評価を行い、区が結果を集計し各施設にフィードバックすることによりサービスの質を担保することが前提となっています。要介護度を基準としたアウトカム評価の場合、施設側が要介護度を改善しやすい利用者を選別して入所させる「クリームスキミング」の恐れがあります。このため品川区の場合、特別養護老人ホームへの入所申込は区が一括して取りまとめ、「入所調整会議」で必要度の高い人から優先して入所させるため、施設側による利用者選別が働かない仕組みとなっています。近年の奨励金支払い実績総額は、2017年度が1628万円(対象利用者110人)、2018年度が2484万円(対象利用者133人)です。

介護報酬のアウトカム評価では、さすがにこのような要介護度のみという評価は考えにくく、既存の褥瘡マネジメント加算のような加算項目の新設で対応し、サービスの質の担保は算定要件として決定されることになるでしょう。各加算などを通じたアウトカム評価を推進して利用者の要介護度が改善されるのは望ましいこととは言えますが、この点でも新たな課題が浮上する可能性があります。例えば特別養護老人ホームの入所要件は原則的に要介護3以上ですが、様々なアウトカム評価の推進により、要介護2以下となった場合は退所を求めるのか、それとも特例入所で対応するかは不透明です。そもそも特別養護老人ホームへの入所者は家庭などにも様々な事情を抱えているため、単純に要介護度のみで退所させられないことは介護現場では誰もが承知していることです。その意味ではアウトカム評価の推進・拡大に当たっては、単純に科学的指標の確立のみでは済まない社会的な要因への対策も考えなければなりません。

【関連資料】
・看護体制加算 特養×看護師採用 データBOOK
・介護施設における医療対応体制構築のポイント
・介護施設における経営課題に直結する職員教育 大きな2つのメリットとは
・Dスタ | 介護職向けe-ラーニングサービス

【注目トピックス】
・介護施設利用者の足トラブル「巻き爪」「むくみ」「血行不良」が多く
・老健・特養における常勤看護職員の離職率 3年前と比較してわずかに改善
・介護現場でのテクノロジー活用 最新調査の結果から(3)テクノロジー活用関連加算算定や基準緩和の状況
・さまざまな業界で「人手不足」が深刻化 介護業界がとるべき方策とは

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