folder_open 介護施設経営・運営 calendar_month update

【ニュース解説】多くの特養で建て替え時期迫るなか、運営側が取り組むべきことは?

特別養護老人ホーム(特養)の運営側にとって、昨今の物価高をはじめとして経営課題は尽きないと思われます。そうした中で一部の施設が今、もっとも頭を悩ませている課題が施設の老朽化に伴う建て替えや大規模修繕です。

1963年の老人福祉法成立に基づき整備が開始された特養は、1990年の「高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)」以降に急増しました。一般に特養は築30年以上が建て替えや大規模修繕の目安と言われ、まさにゴールドプラン期に新設された特養は建て替えや大規模修繕の時期に差し掛かっています。

そこで今回は特養の建て替えが必要となっている現状、そこに立ちはだかる問題点、現在進められている解決策、それでも残る課題や今後運営側が取り組むべきことについて解説します。

▶︎▶︎【無料ダウンロード】財務諸表から読み解く 黒字の特養 赤字の特養 
▶︎▶︎【無料ダウンロード】最低賃金上昇の波をどう乗り越えるか 〜介護施設が直面する課題への対策〜

特養の4割強「建て替えや大規模修繕」必要ありもしくは実施済

まず、特養の施設数推移から改めて確認します。1963年の制度創設から5年後の1968年末時点で全国の特養数はわずか81施設。1970年末でも151施設に過ぎませんでした。その後、1980年末は1031施設、1990年末は2260施設、介護保険スタート時の2000年末は4463施設と推移し、1990年代にほぼ倍増しました。2010年(度)末は6369施設、2020年(度)末は1万336施設で、最新の2024年(度)末は1万675施設となっています。

前述の築30年以上をベースにこの推移から単純計算すると、現在ある特養の4割強は、建て替えや大規模修繕をすでに実施したか、あるいは必要な施設となります。施設の老朽化は建物本体だけでなく給排水管などの設備も考慮する必要があり、構造次第では給排水管の修繕に伴い、建物本体の建て替えや大規模修繕を余儀なくされる場合もあります。このように考えると、建て替えや大規模修繕が必要な施設の割合はさらに高くなる可能性すらあります。

多床室からユニット型へ 社会的ニーズの変化も影響

一方、最近では「社会的ニーズとのズレ」も建て替えや大規模修繕を迫られる理由になりつつあります。

最新の全国の特養入所定員は60万人超で、このうち半数強はユニット型個室です。ユニット型個室は2002年の介護報酬改定で初めて定義され、これ以前は事実上多床室しかありませんでした。

しかし、この頃から特養を介護が必要な高齢者を単に収容するという考え方から、住まいとしての捉え方への転換が図られ、この考えが今では定着しています。その意味では多床室中心の特養は、こうした変化に合わせた建て替えが必要となります。

同時にこれまで重ねられてきた介護報酬改定により提供するサービス内容も変化し、施設内で必要なハードや職員の働き方も介護保険創設時より大きく変化を遂げています。とりわけ昨今は、職員の業務効率化に向けたICTの導入や省エネルギー化、さらにはコロナ禍を経て求められるようになった感染症対策などにより、築年数が古い施設ほど動線の悪さが目立つのが実情です。

多発する自然災害に備える防災対策も

さらに建て替えが求められるもう一つの要因として防災対策があげられます。近年、自然災害が激甚化し、想定を上回る風水害が相次いでいます。2020年7月の豪雨では、熊本県球磨村にあった特養「千寿園」が浸水被害に遭い、入所者14人が亡くなる悲惨な災害が起きています。

千寿園は山と川に挟まれた地域に存在し、土砂災害警戒区域と洪水浸水想定区域となっていましたが、施設自体は川側から標高差で7mも高い場所にあり、施設側の浸水被害に対する認識が薄かったことが原因と指摘されています。

また、2011年の東日本大震災では、東北地方の沿岸部に位置する高齢者施設などでも津波被害が発生し、特養入所者だけでも200人の犠牲者が発生しています。

各都道府県が作成している自然災害のハザードマップも定期的に見直しが行われており、既存の特養の立地が新たに自然災害の警戒区域に指定される可能性もあります。

特養 建て替えの大きな壁<資金面>

ただ、建て替えの必要性を痛感していても、いくつかの“高い壁”があり、容易に着工できないのが実情でしょう。

1つは資金の問題です。国の介護報酬(診療報酬もそうですが)は、「技術料+人件費」を念頭に設定され、設備投資費用は事実上考慮されていません。各特養は、現在の公的介護報酬の範囲内から経営努力により自力で建て替えや大規模修繕費に関する設備投資費を捻出しなければなりません。

ここで定員80人のユニット型特養の建設費用概算を示します。独立行政法人·福祉医療機構(WAM)の調査によると、2024年度のユニット型特養の定員1人あたりの建設費は全国平均で1955万6000円。WAMによる定期的な同調査の結果として、過去最高を記録しています。これに基づくと、定員80人のユニット型特養の建設費は15億6448万円。昨今は物価高騰、人手不足による人件費高騰に加え、中東情勢悪化による物価高騰の加速化もあるため、最新の数字ではこれが16億円超となってもいる可能性は十分にあります。

WAMNET資料より

一方、特養の内部留保については、過去の財務省のデータから1施設当たり平均約3億円と報告されています。これは2010年代の数字ですが、特養の経営環境は年々悪化しているため、現状もほぼ同等かこれより悪化している可能性があります。実際、同じWAMによる最新の2024年度の特養の経営状況調査では、従来型特養の45.2%、ユニット型特養の31.5%が赤字となっています。

この現状では、各施設が建て替えや大規模修繕の費用の捻出することは相当な困難を伴います。

特養 建て替えの大きな壁<仮移転先の確保>

しかし、資金よりも大きな問題は仮移転先の確保です。地方であれば近隣に土地を取得して新施設を建設し、完成後に移動する方法が可能な場合も少なくありませんが、広くて安い土地がほとんどない都市部ではそうはいきません。しかも、特養の設置·運営に当たって必要な建物などの不動産は、運営に当たる社会福祉法人の保有か、国や地方自治体から貸与か使用許可を受けたものが原則です。

そして特養は高齢者の生活空間であり、行政が定めた基準もあるため、建設期間中に学校の建て替えで使われる仮設のプレハブでの対応というわけにもいきません。

施設を区画ごとに分けて工事する「居ながら改修」という手もありますが、工事区画から発生する騒音や振動で、入所者が昼寝を妨げられるなど身体的·精神的な負担が大きく、断念せざるを得ないケースは意外に多いのが実情です。

仮移転先を確保できたとしても安泰とは言えません。仮移転先で事業縮小を迫られ、収入が減少して赤字に陥る資金繰りのリスクがまず指摘されます。また、仮移転先と建て替え予定の施設との距離次第では、職員が一時的に別の施設に異動する、あるいは最悪離職につながることもあります。

▶︎▶︎認知症ケアのお困りごとを精神科医がサポート!オンライン精神科医療養指導
▶︎▶︎「診療・処方箋発行」をオンラインで完結。皮膚科の診察を手軽に!

特養の建て替え·大規模修繕をサポートする補助金制度

このような課題に対する解決策は現状でもいくつかあります。

まず、資金については多くの関係者がご承知でしょうが、国の支援で都道府県に設けられた地域医療介護総合確保基金の活用が王道です。都道府県によって定められた基準単価(ユニット型特養: 1人あたり 約1000~1500万円)に定員をかけた金額が補助金額の基本。これ以外に市区町村の特養整備状況ごとに定められた促進係数、併設サービスに応じた加算、昨今の物価高騰に応じた物価調整額が加えられ、最終的な補助金が決まります。

建て替えで補助を受けるためには、特養の建物が▽旧耐震基準(1981年5月31日以前)の建物▽原則として築30年以上経過▽厚生労働省の社会福祉施設老朽度評価基準に基づく老朽度評価CあるいはDランク、のいずれかに該当することが必要です。また、土砂災害警戒区域(通称:イエローゾーン)および土砂災害特別警戒区域(通称:レッドゾーン)などに該当する特養の移転建て替えも補助の対象となります。建て替え施設の定員は、建て替え前と同一定員を維持することも要件です。

補助金を受けるためには各都道府県に申請し、審査を受けることが必要になります。この審査では特養運営法人の財務状況が大きなポイントになります。東京都の場合、▽法人の負債総額が資産総額の半分以下▽次期繰越活動増減差額がマイナスではない▽サービス活動増減差額が過去3年連続赤字でない、が基準となっています。他の道府県ではここまで明確な基準を公表していないことが多いものの、おおむね類似の基準で審査が行われていると言われています。

なお、補助対象となるのは工事費、工事請負費、工事事務費となります。たとえば建て替えのための新たに土地を取得した費用などは対象とはなりません。

これ以外にも市区町村独自の補助や前出WAMの福祉貸付事業による長期·固定·低利の融資制度もあります。

仮移転先については、2016年7月に厚労省老健局が発出した通知により、建て替え中に民間施設などの貸与を受けることが可能となっています。ただし、この場合は▽都市部地域に開設▽運営主体の社会福祉法人に入所施設の経営実績あり▽貸与を受ける不動産に事業継続に必要な期間の地上権または賃借権を設置して登記▽運営主体の社会福祉法人の経営状況が安定▽現預金などの確実な有価証券を1000万円以上確保▽賃借料およびその財源が収支予算書に適正に計上、の条件を満たす必要があります。

行政と二人三脚で建て替えを推進する東京都だが課題も

また、最近では行政を巻き込んだ新たな解決策が動き出しています。東京都がスタートさせた「代替施設」の整備と活用です。都下の清瀬市の都立小児病院跡地に定員120人の特養の代替施設を整備し、2019年度から運用を開始しています。利用期間は最大3年で、特養事業者は年間約2000万円という比較的抑えられた賃貸料でサービスを継続したまま自施設の建て替え工事を行うことができます。

High-rise building group in Shinjuku

ただ、都下ということもあり区部の特養は利用しにくいことから、東京都は2025年度に板橋区の都有地にも120床と96床の代替施設2棟を整備する計画を進めています。

 さらに東京都葛飾区も都営住宅の跡地を区で取得し、総工費約33億円で共用の仮移転先を整備中で2027年度から運用開始予定です。

現状ではこのような解決策はあるものの、依然として多くの課題が残されています。

最大の問題は前出の建て替え期間中の代替施設の確保です。東京都のような自治体による代替施設整備は他の地域ではまだ進んでいません。今後、各地域の高齢者福祉施設協議会などと行政が、同様の施設の用意が可能かなどの協議を行わねばなりません。

また、公的代替施設がある東京都も定員数は少なく、清瀬市と近く完成予定の板橋区のみのため、職員の通勤などを考慮すると、距離的に使えないケースがかなりあります。これ以外にも一時移転に伴う環境変化に対する入所者の不安解消や代替施設地域での協力医療機関の確保などの問題もあります。

もう1つの問題は、併設サービスのある特養では、代替施設や仮移転先でそうしたサービスの提供が困難になることが考えられます。これは併設サービスをしている在宅の地域住民にとっても困りものです。

このためデイサービスに関しては元々の地域内で事務所を借りて残すか否かという判断も必要ですし、ショートステイの場合はおそらく一時休止せざるを得ないでしょう。いずれにせよ複雑な運営判断と調整を迫られます。

建て替え·大規模修繕を「施設の再生事業」を捉える

このように、特養の建て替えには制度面·物理面のハードルが多くありますが、どの特養もいずれは建て替えが必要になります。この観点に立つと、現在建て替えが急務ではない特養でも、将来に向けて今から準備が必要です。

そのためにまず取り組まなければならないことは「法人全体での中長期的な計画の策定」です。まずは現在の施設にどのような課題があるのかを洗い出し、30~40年先の社会ニーズを見据えたうえで、職員の働きやすさの実現や資金調達方法を検討する必要があります。

加えて忘れてはならないのが「入所者·家族、そして職員への丁寧な説明と合意形成」です。建て替え·仮移転は、入所者やその家族に多大な不安を与えます。また、職員にも通勤経路の変更など大きな負担を強いることになります。早い段階から協力を要請し、不安を取り除くための対話を重ねることが不可欠です。

最後に、建て替えを単なる「老朽化対策」ではなく、「施設の再生事業」と捉えるマインドも必要でしょう。日々の細やかなメンテナンスによって施設の長寿命化と延命を図りつつ、いざ建て替えのタイミングが来たときには、これまでの運営ノウハウを活かして、ハードとソフトの両面から競争力のある新しい施設へと生まれ変わらせる絶好のチャンスとして前向きに取り組むことは、これからの特養経営に求められている視点です。

\夜間オンコールができる看護師が足りない…/
\受診するべきか相談できればいいのに…/

ドクターメイトの
「夜間オンコール代行™」「日中医療相談」で解決!

導入した施設様のインタビューはこちら>>