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介護現場における「医行為」とは マニュアルの再点検や介護職員に対する教育・研修を

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従来から介護現場を悩ませていることの一つは、利用者に必要な対処を行う際にそれが「医療行為(医行為)」に当たるかどうかの判断です。介護サービス利用者の多くは基礎疾患を有し、その介護では医療が密接にかかわっていて、時にその境界はあいまいです。そして医行為は医師法、歯科医師法、保健師助産師看護師法により、その他の職種による実施が禁止されています。
そうした中で厚生労働省は12月1日に通知を発出し、介護現場で行われる行為のうち、医行為には当たらないものを明示しました。今回の通知は介護現場で行われる行為のうち医行為に当たらないものを明示した2回目のものです。1回目は2005年に発出されています。
今回、同様の通知の2回目を発出するに至ったのは、首相の諮問機関「規制改革推進会議」が取りまとめ、2020年7月に閣議決定された「規制改革実施計画」での決定が挙げられます。同計画では「介護現場における介護職員によるケア行為の円滑的な実施」という項目で介護現場での「医行為」ではないものを改めて整理・周知と介護職員がこれらを安心して行えるようケア提供体制について利用者本人、家族、介護職員、看護職員、主治医等が事前に合意するプロセスを明らかにすることを求めました。今回の通知はこれを受けたものです。

通知「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」概要

今回新たに医行為に当たらないとされたのは以下の行為です。

<在宅介護等の介護現場におけるインスリンの投与の準備・片付け関係>
・医師から指示されたタイミングでの実施の声かけ、見守り、未使用の注射器などの患者への手渡し、使い終わった注射器の片付け(注射器の針を抜き、処分する行為を除く)及びその記録
・患者が血糖測定や血糖値の自己確認後、その血糖値があらかじめ医師から指示されたインスリン注射実施の血糖値範囲に合致しているかの確認
・患者が準備したインスリン注射器の目盛りが、あらかじめ医師から指示されたインスリンの単位数と合っているかの読み取り

<血糖測定関係>
・患者への持続血糖測定器のセンサーの貼付や測定器の測定値の読み取りなど血糖値の確認

<経管栄養関係>
・皮膚に発赤などがなく、身体へのテープの貼付に当たって専門的な管理を必要としない患者で、既に身体に留置されている経鼻胃管栄養チューブを留めているテープが外れた場合や汚染した場合にあらかじめ明示された貼付位置への再度貼付
・経管栄養の準備(栄養等を注入する行為を除く)や片付け(栄養等の注入を停止する行為を除く)

<喀痰吸引関係>
・吸引器に溜まった汚水の廃棄や吸引器に入れる水の補充、吸引チューブ内を洗浄する目的で使用する水の補充

<在宅酸素療法関係>
・患者が酸素マスクや経鼻カニューレを装着していない状況下で、あらかじめ医師から指示された酸素流量の設定、酸素を流入していない状況下での酸素マスクや経鼻カニューレの装着などの準備や酸素離脱後の片付け
・酸素供給装置の加湿瓶の蒸留水交換、機器の拭き取りなどの機械の使用に係る環境の整備
・在宅人工呼吸器を使用している患者の体位変換を行う場合に医師または看護職員の立会い下で人工呼吸器の位置変更

<膀胱留置カテーテル関係>
・膀胱留置カテーテルの蓄尿バックからの尿廃棄(DIBキャップの開閉を含む)
・膀胱留置カテーテルの蓄尿バックの尿量や尿の色の確認
・膀胱留置カテーテルなどに接続されているチューブを留めているテープが外れた場合にあらかじめ明示された貼付位置への再度貼付
・専門的管理が必要無いことを医師または看護職員が確認した場合の膀胱留置カテーテル挿入患者の陰部洗浄

<服薬等介助関係>
・患者の状態が
(1) 入院・入所の治療必要がなく容態が安定している
(2) 副作用の危険性や投薬量の調整などのため、医師または看護職員による連続的な容態の経過観察が不必要
(3) 内用薬については誤嚥の可能性など使用方法について専門的配慮が不必要
の3条件を満たしていることを医師、歯科医師または看護職員が確認し、これらの免許を有しない者が使用介助可能なことを本人または家族などに伝え、事前に本人または家族などの具体的な依頼で医師の処方を受け、あらかじめ薬袋などにより患者ごとに区分し授与された医薬品を医師または歯科医師の処方および薬剤師の服薬指導の上、看護職員の保健指導・助言を遵守した使用介助。具体例として、水虫や爪白癬により患した爪への軟膏または外用液の塗布(褥瘡の処置を除く)、吸入薬の吸入および分包された液剤の内服介助など

<血圧等測定関係>
・新生児以外の入院治療不要な患者での動脈血酸素飽和度を測定のためパルスオキシメーター装着と動脈血酸素飽和度の確認
・半自動血圧測定器(ポンプ式を含む)を用いた血圧測定

<食事介助関係>
・食事(とろみ食を含む)の介助

<その他>
・有床義歯(入れ歯)の着脱と洗浄

経管栄養については、
(1) 鼻からの経管栄養の場合、既に留置されている栄養チューブが胃に挿入されているかの確認
(2) 胃ろう・腸ろうによる経管栄養の場合、びらんや肉芽など胃ろう・腸ろうの状態に問題がないことの確認
(3) 胃・腸の内容物をチューブから注射器でひいて、性状と量から胃や腸の状態を確認し、注入内容と量を予定通りとするか否かの判断
は、医師・看護師が行うこととされています。

在宅酸素療法関係では、酸素吸入の開始(流入が開始している酸素マスクや経鼻カニューレの装着を含む)や停止(吸入中の酸素マスクや経鼻カニューレの除去を含む)は医師、看護職員または患者本人が行うこととされています。

適切な情報共有のためにも、介護職員への医療教育・研修は必要

今回「医行為」ではないと分類されたものの多くは、確かに医療従事者による実施が必須とは言えないもので、また介護職員が行う際にも資格の有無が行為の質に大きく影響を及ぼすものではないこともわかります。

もっともこの中でも血圧値や血糖値では普段の利用者の測定値とその変動を把握したうえで、目の前で読み取った数値がどんな状態を意味するか、動脈血酸素飽和度(SpO2)では正常値と各異常値区分が表す体内の状況、尿の色では色の変化と脱水の程度について予め基礎知識を身に着けておかないと、配置医師や看護師への適切な情報共有にはつながりません。また、経管栄養のテープ再貼付でも「発赤がない」という条件付きですが、医師や看護師が見逃しているケースもなくはないので、微小な発赤などの知識と現場での確認は必要になります。

その意味で、今回の通知を施設側はシンプルに「介護職員はここまでやれる」と解釈するのではなく、ここまでやるために介護職員に必要な知識を再確認し、その研修とともにマニュアル化などの作成も必要と考えるべきです。実際、通知では注の中に「業として行う場合には実施者に対して一定の研修や訓練が行われることが望ましいことは当然であり、介護サービス等の場で就労する者の研修の必要性を否定するものではない。また、介護サービスの事業者等は、事業遂行上、安全にこれらの行為が行われるよう監督することが求められる」と記載されています。

また、患者の状態によってはこれらの非医行為も専門的管理が必要になり、それが時に医行為に当たる場合も起こり得るシナリオです。同じく通知の注ではこの点について「介護サービス事業者等はサービス担当者会議の開催時等に、必要に応じて、医師、歯科医師又は看護職員に対して、そうした専門的な管理が必要な状態であるかどうか確認することが考えられる。さらに、病状の急変が生じた場合その他必要な場合は、医師、歯科医師又は看護職員に連絡を行う等の必要な措置を速やかに講じる必要がある」と注意喚起しています。さらに「患者本人や家族に対して分かりやすく、適切な説明を行うとともに、介護職員等の実施する行為について患者本人や家族が相談を行うことができる環境作りに努めることが望ましい」としています。

いずれにせよ、これら行為を介護職員が実施する場合は利用者本人や家族、配置医師、看護職員との事前からの情報共有も必要ということになるでしょう。

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