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「ロボットで人手不足解消」は間違い?介護ロボット推進の旗振り役が提言

介護ロボット

昨今の介護業界では、慢性的な人手不足に対し、進化してきたITやAI、ロボットなどの技術を取り入れることで、ケアの質向上と人手不足の解消の一助にするよう、国を中心に盛んに提唱されています。これは一見すると、非常に理にかなった動きにも見えます。ところがこうした動きに冷や水を浴びせるかのような提言が、2022年末に発表されていたことをご存じでしょうか?しかも、提言を発表したのは、ロボット製造などを行う大手の機械工業企業などで構成される一般財団法人・機械振興協会 経済研究所。市場拡大の観点からは、本来、介護ロボット推進の旗振り役である立場の団体がなぜこのような提言を発表したのでしょうか。今回はこの機械振興協会経済研究所の令和3年度調査研究事業・サービスロボットの市場発展および産業の成長に関する調査研究「介護・ケア分野におけるロボット市場拡大に向けた提言」の内容を紹介します。

冒頭から「介護・ケア分野におけるロボットの活用は進んでいない」と断言

提言では冒頭のエグゼクティブサマリーから「当初の期待の大きさに反して、介護・ケア分野における“介護ロボット”の活用は一部の種類を除いては進んでいない」と断言しています。そのうえで今後の見通しについて「介護・ケア分野のロボット活用拡大に関し、政策的対応を含め様々な取り組みがされているが、これらの取り組みはこれまでも介護・ケア分野におけるサービスロボット利用の拡大や関連ロボット市場の拡大に大きく資することなく、それどころか現在の体制のままでいくと、介護・ケア分野でロボットに対するある種の幻滅感が醸成されてしまい、かえって介護・ケア分野でのロボット活用の将来性を矮小化する危険すらある」と、最大限とも受け止められる懸念を表明しています。

そのうえで同協会では以下の4つの提言を行っています。

提言1「介護・ケア分野において『ロボットの導入により人手不足解消を図る』から議論をはじめることを止め、介護・ケア分野におけるロボット活用の仕方を根本的に考え直し、市場拡大の方向性を改めて探るべき」
提言2「“介護ロボット”から“介護支援ロボット”へとニーズを再整理する。さらに、“介護支援ロボット”を導入する現場をタイプ別に整理する」
提言3「DXなどの活用により介護現場の全体的な業務改善を図り、そのなかでロボットの適正な導入を試みる。そのための、総合プロデューサー・総合プランナーとしての“目利き”の導入を目指す」
提言4「将来的に実現化されるであろう、ヒトと連携して動作を実行するロボット、ヒトに対して作動するロボットが、介護・ケア分野で導入される時代に備え、開発の活性化とともに安全性基準など制度準備も進める」

提言1について、同協会では、現状のロボットでは▽ヒト同様のレベルでひとまとまりの介護作業をそのまま柔軟な調整をしつつ代替▽物理的な作業を人間と共に効率的に実行する協業や人に接触をして直接力の作用を及ぼす人に向けて動作、のいずれも実現できず、単作業や部分的作業の代替にとどまっていると説明しています。この結果、介護従事者は単に追加の労力・手順が必要で、結果として本末転倒となりかねず、ロボット導入の動機が生まれなくなることへの危惧を明言しています。やや荒っぽく要約するならば、現状の“介護ロボット”はやや期待はずれの羊頭狗肉状態にあるということです。

提言2は、読んで字のごとく、かつ、「再整理」を「再定義」と置き換えた方がわかりやすいかもしれません。要は介護作業の直接的な代替・補完にこだわらず、現在の間接業務の支援ロボットとして定義付けることを求めています。そのうえで介護・ケアの現場が非常に多様な状況であるため、介護支援ロボットを導入する現場を「タイプ」別などに整理することで、開発推進や人との役割分担などを図っていく必要性を強調しています。

提言3では、ロボット化よりも先にDX化、ネットワーク化を図り、介護業務全般を俯瞰した効率化と改善を優先すべきで、その中で現状の“介護支援ロボット”の適応を見極めるということを伝えています。また、DX化とロボット化はそれぞれの専門家以外から同列に語られがちですが、提言3の具体的説明では「DX化とロボット活用という異なる分野の技術・情報を統合的に整理し、介護・ケア分野でそれぞれを適切な配置をするため」に“目利き”の導入が必須と訴えています。目利きの要件については「従来のIE(インダストリアル・エンジニアリング)人材やロボットSIer(システムインテグレーター)などを超えた、非常に広範な知識・情報とネットワークが必要であり、個人で全てをカバーすることは困難」と記述しています。提言ではチームで対応し、その育成については「行政、介護・ケア業界、DX関連企業、サービスロボット関連業界など関係者が集まり、議論を深める必要がある」としています。

提言4からは、一般人などがイメージする本当の意味での介護ロボットが近い未来に実現する可能性は低いと同協会が見ていることがうかがえます。それに備えて今からの執行猶予的な期間を使って安心、安全につながるデータを不断の努力で収集するよう求めているわけです。

DX化とネットワーク化で近い将来、介護支援ロボットが活用しやすい環境を

同協会は介護ロボットを完全否定しているのではなく、期待値を過度に高めないよう訴えているといった方が正確です。さらに、提言3は今すぐにでも現場が進むことができる「道」を示しています。ずばり「DX化」と「ネットワーク化」です。これがないと現在の介護支援ロボットも十分な活用ができず、将来実現が望まれる介護ロボットそのものもあり得ないといえます。現場がある程度小規模で済む様々なツールやサービスの活用を進めることで、どんなところにロボットが活用できるかを「見える化」すべきということです。

【参考】
サービスロボットの市場発展および産業の成長に関する調査研究:「介護・ケア分野におけるロボット市場拡大に向けた提言」

【関連トピックス】
・ICT活用による業務効率化の事例を紹介
・介護業務のIT化が進むも利用者への説明・同意取得は依然、紙ベース

【関連資料】
・業務改善でサービスの質を向上させる
・アウトソースする7つのメリット

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