
認知症にはさまざまな種類があり、その発症メカニズムや現れる症状や進行の仕方も異なります。主なものを具体的に説明します。

アルツハイマー型認知症 (アルツハイマー病)
アルツハイマー型認知症は、認知症の中で最も多く見られるタイプで、脳内にアミロイドβやタウと呼ばれる異常なたんぱく質が蓄積することで、神経細胞が変性・脱落して発症します。この異常なたんぱく質の蓄積は、発症の約20~30年前から始まっていると考えられています。発症前には軽度認知障害(MCI)と呼ばれる、物忘れが激しいものの、日常生活に大きな支障はない状態を経過します。
典型的な症状としては、初期には新しいことを覚えられず、出来事そのものを丸ごと忘れてしまうといった症状が現れます。具体的には直前に食事をしたことを忘れたり、同じことを何度も尋ねたり、物の置き場所を忘れたりします。
発症当初は細菌の出来事は覚えていないものの、昔のことは鮮明に覚えていたりします。一度発症すると個人差はあるものの、決して治ることはなく進行の一途をたどります。進行すると今日が何月何日か、今どこにいるかなどが分からなくなる見当識障害や電化製品の操作ができなくなったりする実行機能障害が表れます。最終的には話すことができない「失語」、自分で服を着るなどの日常的な動作ができなくなる「失行」などが表れ、他人の介助なしに生活を送ることが難しくなります。
現状では薬物治療があるものの、基本的に進行の速度を若干遅くするという効果にとどまり、本人や周囲がその効果を実感できることはほとんどありません。
血管性認知症
血管性認知症は脳梗塞や脳出血、くも膜下出血といった脳血管の病気によって、脳の神経細胞に酸素や栄養が十分に供給されなくなることで脳機能が障害されて発症する認知症です。障害を受けた脳の部位によって症状が異なる点が特徴です。
また、アルツハイマー病との違いとして特徴的なことは、記憶力は比較的保たれているが注意力が著しく低下している、あることはできるのは別のことはまったくダメというような「まだら認知症」、感情の起伏が激しい「感情失禁」がなどです。これはまさに元になった脳血管の病気による障害部位や程度に左右されると言われています。さらに歩行障害、嚥下障害、構音障害(ろれつが回りにくい)などの症状も比較的早期に認められます。
脳血管の病気によって損傷を受けた脳細胞や神経が元通りになることはないので、治療としては脳血管の病気の再発を防ぐことに重点が置かれます。具体的には脳血管の病気の原因となる高血圧、糖尿病、心疾患などを薬物治療や生活習慣の見直しで改善します。また、脳梗塞が原因の場合は再発予防のために血液をサラサラにする抗凝固薬と呼ばれる薬が使われることもあります。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、脳の神経細胞に「レビー小体」という異常なたんぱく質の塊が現れることで発症する認知症です。そもそもレビー小体は、全身の神経細胞にできる可能性があります。レビー小体ができることで発症する病気はまとめて「レビー小体病」と呼ばれ、レビー小体ができる部位別にまた個別の病名があります。
脳の中でも知覚、思考、記憶などを司る大脳皮質にレビー小体が多くできるのがレビー小体型認知症です。一方で脳の中でも脳幹という場所にレビー小体ができる病気もあり、これは比較的多くの人が耳にしたことがあると思われる「パーキンソン病」です。
ちなみにパーキンソン病は、レビー小体が脳幹にある黒質という部分にできることにより、黒質内にある神経伝達物質・ドパミンを作り出す神経細胞を死滅させる病気です。ドパミンは大脳皮質から筋肉へと伝えられる指令を調節する機能があります。レビー小体が黒質にできて体内のドパミン量が減ると、手足が素早く動かせない(無動)、静止時に手足が震える(振戦)などの運動障害を中心とする症状が表れます。
レビー小体型認知症の特徴は、記憶力低下よりも注意力低下などの症状が出やすく、そうした症状が良い時と悪い時を繰り返す変動があることです。また、他の認知症と比較しても極めて目立つ症状といわれるのが、本来ないものが見えてしまう「幻視」です。しかも、この幻視は漠然としたものではなく「10匹の毛虫がいま壁をはい上っている」などより具体的です。また、先ほど同じレビー小体病として取り上げたパーキンソン病にみられるような運動障害を併発していることもあります。
治療では従来から使用されている認知症の経口薬が用いられることが多く、これにより症状が安定する場合があります。また、パーキンソン病に類似した運動障害がある場合にはパーキンソン病治療薬が使われます。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は、厳密には「前頭側頭変性症」と呼ばれる国の指定難病に起因する認知症です。脳の中の大脳皮質のうち「人格・社会性・言語」を司る前頭葉と、「記憶・聴覚・言語」を司る側頭葉の前方の神経細胞が変性・脱落し、その結果としてこの部分が萎縮して発症する認知症です。他の認知症と比べて40~60代の比較的若年で発症することが多いとされています。
最近ではこの神経細胞の変性・脱落部分に、アルツハイマー病でも原因の1つと指摘されている「タウ」やこれとは別の「TDP-43」と呼ばれる異常なたんぱく質が蓄積していることが確認されていますが、なぜこのようなことが起きるのかはわかっていません。
このタイプの認知症は、記憶障害より他人に失礼な言動や身だしなみへの無頓着、万引きなど社会性の欠如した異常行動が目立つことが特徴です。また、毎日同じ道順で散歩することや同じ食事メニューに異常なまでにこだわる症状が認められることもあります。
一般の人が認知症としてイメージする記憶障害ではなく、異常行動が目立つため、発症早期は周囲が「歳のせいでわがままになった」など捉えることも多く、このことが診断に結び付きにくいとの指摘もあります。
現状でこのタイプの認知症に特化した治療法はなく、一部の患者では抗うつ薬が異常行動に有効なこともあると報告されています。