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認知症の治療薬を学ぶ(5) 認知症治療薬はどのくらい効果があるのか? ~シリーズ 認知症を学ぶ

これらの治療薬の効果ですが、率直に言えば一時的改善あるいは一時的進行抑制というのが現実です。

このことを説明する目的で、ある例え話をしてみます。

電線は何も支障がなければ電気が流れますが、外からの過剰な力がかかると損傷して通電状況が悪化し、最悪は電線が切断されて電流は流れなくなります。ここでアルツハイマー型認知症はアミロイドβの蓄積により神経細胞が死滅することで発症に至るという前述の説明を重ね合わせてみて下さい。そうすると電線の話で電線は脳内の神経細胞そのもの、外からの過剰な力はアミロイドβに相当します。

比較的古くから使われているアセチルコリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬は、アミロイドβの蓄積による神経細胞の損耗を放置したまま神経細胞内の情報伝達を改善しようという試みです。電線の話で言えば、外部からの過剰な力は放置し、なんとか通電しようとする、あるいは過電流によるショートを防ぐようなものです。

電線では外からの過剰な力を放置したままだと、いずれ電線は切断します。脳内の神経細胞とアミロイドβの関係も同じで、アミロイドβの蓄積を止めない限り、神経細胞は死滅します。そして電線が切れたら電気が流れないのと同じように、神経細胞の死滅が進行するとアセチルコリンエステラーゼ阻害薬もNMDA受容体拮抗薬も意味がなくなります。実際、これらの薬は服用から多くの場合、2年程度で効果がなくなると言われています。

これに対し、抗アミロイドβ抗体はアミロイドβそのものを除去する、電線の例えで言えば外からの過剰な力を取り除くことに相当し、より根本に近い治療薬と言えます。ただ、アルツハイマー型認知症では、抗アミロイドβ抗体の投与開始によりすでに蓄積したアミロイドβを取り除いても、それまでに起こった神経細胞の損傷や死滅は元には戻りません。また、アミロイドβの蓄積が起こる循環は理論上生涯続きます。このため抗アミロイドβ抗体を投与していても神経細胞が死滅は速度を緩やかになっても止まるわけではありません。すなわち抗アミロイドβ抗体の効果もアルツハイマー型認知症の進行速度を遅らせるものにとどまるのです。

現在の医学では損傷した神経細胞を復元する治療法は存在せず、その確立もまだ遠い夢の話です。そしてこれら治療薬の効果は、患者やその家族、介護者が実感できるレベルではありません。治療薬というと、大きな希望を持つ方も少なくないのですが、こうした限界があることは予め知っておいてほしいものです。

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