福祉医療機構が公表した「特別養護老人ホームの経営状況について」から、定員規模別の黒字施設・赤字施設別の経営状況を解説していきます。
定員規模別 黒字施設・赤字施設別の経営状況
定員79人以下の中・小規模特養では、黒字施設と比較して赤字施設では、特養入所利用率が従来型で約1~2ポイント、ユニット型で約2~3ポイント低く、短期入所利用率では従来型は8~13ポイント、ユニット型では1~10ポイント低くなっています。
利用者単価は従来型の「60人以上79人以下」を除けば、従来型、ユニット型ともどの規模でも赤字施設の方が低く、1施設当たりサービス活動収益も従来型、ユニット型ともにいずれの区分でも赤字施設はかなり少ないことがわかります。
特にユニット型の「60人以上79人以下」の区分では、黒字施設との1施設当たりサービス活動収益は約2000万円もの差があります。この点については特養入所・短期入所の利用率が低さに加えて、利用者単価ではユニット型の他の区分と比べても最低であることが、この収益差につながったと考えられます。
ユニット型のこの定員区分の利用者単価の低さに関しては、各種加算の算定率が影響していると考えられます。実際、この区分では直近2021年度介護報酬改定で新設されたLIFE関連加算の算定率を比較すると、赤字施設では科学的介護推進体制加算(I)・(II)、口腔衛生管理加算(II)、栄養マネジメント強化加算、自立支援促進加算、ADL維持加算(I)・(II)などの算定率が黒字施設よりも3~10ポイント低いことが分かりました。また、入所後30日以内は算定可能な初期加算の算定率が、黒字施設では赤字施設では6.6ポイントも低いことも注目すべき点です。福祉医療機構ではこの点について「赤字施設のなかで1年間新規入所者がいない施設の割合が高いということになる」との分析を示しています。結局のところ、これら各種加算の算定率の違いが利用者単価の差を示しているのが現実と言えるでしょう。
一方、費用面では、従来型、ユニット型とも赤字施設のほうが人件費率、経費率はいずれも高くなっていました。人件費率に関しては、従来型、ユニット型ともにすべての区分で1施設当たり従事者数が多く、人件費の絶対額も高いことに加え、1施設当たりサービス活動収益が少ないことが要因と考えられます。また、経費率は収益差だけでなく、1施設当たりの水道光熱費や業務委託費が赤字施設で高いことが影響しています。
これらの結果から中・小規模特養の赤字施設は、収益増と費用削減・抑制を両輪で回すことが求められます。医療福祉機構では、過去に調査した経営良好先の取り組みなどから、収益増では自施設入所者の入所理由調査からニーズを把握することで他施設との違いをアピールする、費用削減・抑制では委託業務の契約切り替えや価格見直し、毎月の運営状況の数値管理で問題の「見える化」を図るなどの取り組みが求められるとしています。
独立行政法人福祉医療機構 「2022 年度 特別養護老人ホームの経営状況について」
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