福祉医療機構が公表した「特別養護老人ホームの経営状況について」から、定員規模別の経営状況を解説していきます。
定員規模別の経営状況
定員規模別の経営状況は、従来型、ユニット型ともに定員規模が大きくなるほど、サービス活動増減差額比率と経常収益対経常増減差額比率(以下、経常増減差額比率)が高くなる傾向がみられました。
また、ともに定員規模が大きくなるほど、特養入所利用率は低下傾向がある反面、赤字施設割合が低下していました。ただ、従来型は定員79人以下の区分はすべて赤字施設割合が半数超となり、経営状況がかなり厳しいことがうかがえます。
利用者単価は、従来型では定員規模が大きくなるほど高くなる傾向ですが、ユニット型では定員規模による差はあまり見られませんでした。ただし、従来型で「29人以下」の地域密着型特養は大規模施設並みに利用者単価が高くなっていました。これは地域密着型特養の基本報酬や報酬加算の点数が高く設定されていることが原因と考えられます。
一方、科学的介護推進体制加算の算定率は、規模が大きいほど高いことが見て取れます。事務作業体制が整備された大規模施設ほど、算定要件である科学的介護情報システム(LIFE)へのデータ提出に伴う事務作業に対応できているためと思われます。
人件費率は従来型、ユニット型ともに小規模施設のほうが高いのに対し、従事者1人当たり人件費は大規模施設ほど高くなっています。考えられる要因としては、大規模施設のほうが介護職員処遇改善加算の算定率が高いことに加え、理学療法士や看護師などのより高い給与水準が求められる専門職の配置人数が多いことです。
また、利用者10人当たり従事者数は、従来型、ユニット型とも同様に大規模ほど減少し、最小区分「29人以下」と最大区分「100人以上」では、従来型で1.43人、ユニット型で1.56人の差が生じています。この点は必要となる生活相談員や事務職員などの配置が施設規模の大小によらないことが影響しているとみられます。
経費率は従来型、ユニット型ともに定員規模による顕著な差はありませんが、水道光熱費率も含め「29人以下」で低い傾向がみられました。この点について福祉医療機構では「2006年介護保険法改正で創設された地域密着型特養は、開設経過年数が比較的短い施設が多く、エネルギー消費効率の良い設備を導入している可能性が考えられる」と分析しています。
とはいえ、従来型・ユニット型ともに、「29人以下」と「100人以上」の区分では、サービス活動増減差額比率や赤字施設割合の開きは大きく、小規模施設ほど厳しい経営状況です。また、「29人以下」の地域密着型特養ではサービス活動増減差額比率のバラツキ幅が他の区分と比べて大きく、経営状況の2極化をうかがわせています。
独立行政法人福祉医療機構 「2022 年度 特別養護老人ホームの経営状況について」
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