昨今の人手不足や物価高騰で介護事業所の経営環境が悪化を続けています。この結果、事業者の優劣がより明確になりつつあるようです。信用調査会社・東京商工リサーチが最近発表した2つの調査結果から、この点を解説します。
新設法人の参入で市場競争は激化、勝ち組と負け組の二極化が生じる恐れ
まず、6月下旬に同社が発表した2023年老人福祉・介護事業者新設法人調査によると、2023年の新設法人数は3,203社と5年連続で前年比増加となりました。この調査は東京商工リサーチの企業データベース(対象約400万社)を利用したものです。
過去の同調査での老人福祉・介護事業者の新設法人数は2014年の3,611社をピークに2018年までは4年連続の減少が続きました。背景には2015年度の介護報酬のマイナス2.27%改定や恒常的な人手不足が影響したと考えられています。また、この4年間で倒産や休廃業・解散に追い込まれた法人も増加しました。つまるところ業界環境の悪化に伴い、新設法人も倒産、休廃業・解散の法人も増加する介護業界の冬の時代とも言える状況でした。
そして2018年度の介護報酬改定がプラス0.54%となったこともあり、2019年には再び新設法人数が対前年比増加に転じました。2020年からはいわゆるコロナ禍に見舞われましたが、その中でも新設法人は緩やかな増加を続け、今回の2023年まで増加を続けています。
もっともこれを介護業界の好転と捉えるのはやや早合点と言えるでしょう。前述のように2015~2018年までの新設法人の減少期間は、倒産や休廃業・解散となった法人も増加していました。しかし、2019~2023年の新設法人増加期間中も、倒産した法人は上昇トレンド、休廃業・解散となった法人は右肩上がりの増加を続けているからです。
これは何を意味するのでしょうか?端的に言えば、新設法人の参入で市場競争は激化し、勝ち組と負け組の二極化が生じていると解釈できます。2015~2018年の時期から比べればマシですが、要はワーストの中のベターという状況なのです。これを裏付けるかのように2023年の新設法人の対前年増加率は6.1%増で、前述の東京商工リサーチ企業データベースを用いた全産業の新設法人対前年増加率の7.8%増には届いていません。もっと踏み込んで言えば、業界として勢いに欠ける中で、過当競争になっているとも言えます。
2024年の倒産件数は名目・実質ともに過去最多になる可能性
しかも、この状況に追い打ちをかけるかのような実態も明らかになっています、同社が7月4日に公表した2024年上半期の老人福祉・介護事業の倒産調査によると、この間の倒産件数は前年同期比50.0%増の累計81件。介護保険施行以降、この調査で最多件数となりました。これまで上半期の過去最多だったのは2020年の58件でした。
ちなみに東京商工リサーチの調査で年間ベースでの介護業界の倒産件数が最多だったのは2022年の143件ですが、この時はデイサービスの(株)ステップぱーとなーとそのグループ会社の連鎖倒産31件が含まれていたという特殊要因もあったため、このままのスピードで推移すると、2024年の倒産件数は名目・実質ともに過去最多になる可能性すらあります。
2024年上半期の倒産のより詳細な業態別内訳は、「訪問介護」が40件(前年同期比42.8%増)、「通所・短期入所」が25件(同38.8%増)、「有料老人ホーム」が9件(同125.0%増)、その他(特養などを含む)が7件(同75.0%増)となっています。しかも、業態別の倒産件数は、その他以外の各業態は過去の上半期最高値をいずれも上回っています。
81件の倒産増加の理由については、販売不振(売上不振)が64件で全体の約8割を占めています。また、従業員10人未満の事業者が全体の77.7%に当たる63件、資本金1千万円未満が71件(同87.6%)と小・零細規模の事業者が多いものの、負債1億円以上が20件(同24.6%)と前年同期7件から約3倍に増えるなど、中規模の倒産も増えてきています。
さらに破産など消滅型が全体の91.3%にあたる74件(同42.3%増)に対して再建型の民事再生法は3件(前年同期なし)など、ほとんどが事業継続を断念しています。
コロナ禍の「ゼロゼロ融資」の返済が経営環境に影響を及ぼす可能性も
介護業界は現下の人手不足や物価高などによる事業環境の悪化が他業界と比べても深刻です。ご存じのように2024年度介護報酬改定では介護職員等処遇改善加算の統合・新設はありましたが、他の業界でも人手不足が続き、人材獲得の賃上げでは不利な状況です。加えて介護報酬を最大の収入源とする介護業界では、物価高に伴うコスト増をサービス料に転嫁できません。
加えて介護事業者の中にはコロナ禍の2020~2021年に政府主導の支援策である実質無担保・無利子の特別貸付、通称「ゼロゼロ融資」を受けた事業者も少なくありません。同融資の返済は2023年5月から始まっていますので、より経営は苦しくなると言えます。
その意味でとくに中小規模の事業者に関しては、今後コスト削減や社会福祉連携推進法人の活用などで、より大胆な経営改革が求められると言えそうです。
株式会社東京商工リサーチ
2024年上半期(1-6月)「老人福祉・介護事業」の倒産調査
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