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【2035年問題とは】概要と対策をわかりやすく解説!医療介護の社会保障や働き方への影響は

日本が少子高齢化によって抱える社会課題の一つとして、「2035年問題」があります。

団塊の世代が85歳以上となる2035年、人口における高齢者は3割以上となり、高まる介護需要に対しての人材不足や、現役世代の減少による経済の縮小など、さまざまな社会問題が複合的に表面化すると予測されています。

この記事ではそんな2035年問題について、概要や背景、具体的にどういった問題があるのか、その対策などをわかりやすく解説します。

2035年問題とは

2035年問題とは、団塊の世代が85歳以上となる2035年に顕在化すると見られる、介護・医療人材の不足や経済の縮小、企業への影響などの社会課題の総称です。

2035年問題の背景

2035年には、1947年から1949年に生まれた「団塊の世代」の人々が85歳を迎えます。さらに日本の65歳以上の高齢者は日本人口の33.4%に達する見込みです。
日本の高齢者率は2005年(平成17年)には世界一の水準となり、それ以降もずっと上昇を続けています。

一方で日本の出生率は1949年の4.32をピークとして1970年代以降で低下し続け、2022年は1.26となり、近年は低い水準で横這い状態になっています。

15歳以上64歳以下の生産年齢人口は、1995年の8,716万人をピークとして減少しており、2035年には6,494万人にまで落ち込む見込みです。

高齢化と同時に少子化が進行していることから、高齢者を支える現役世代の負担が増えるほか、経済の縮小や地域格差、世代間格差の拡大など深刻な社会問題の対策が必要になるとされています。

参考:内閣府(2022)「令和4年版高齢社会白書」

2035年に少子高齢化がもたらす社会課題とは

2035年問題の具体的な課題としては次のようなものがあります。

次から一つずつ詳しく解説していきます。

2035年問題① 高齢者の急増による介護医療人材の不足

国立社会保障・人口問題研究所が発表した最新の日本の将来推計人口(令和5年推計)では、2035年には日本の総人口 約1億1600万人のうち32.3%である約3700万人が65歳以上の高齢者になるとされています。

増加する高齢者の一方で、15歳~64歳の現役世代の人口は全体の57.6%(2023年時点59.4%)、0歳~14歳は10.0%(2023年時点11.4%)まで減少し、労働力不足が深刻化していきます。

参考:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」

高齢者の急増により介護のニーズは高まることが予測されますが、労働力不足によって介護医療の人材が十分に確保できないという問題が顕在化します。

介護人材は69万人不足する

厚生労働省が令和3年に発表した「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」によると、必要な介護職員の人数は2025年度には約243万人、2040年度には約280万人が必要になります。

これは2019年の介護人材の数と比較して、2025年には+32万人、2040年には+69万人の確保が必要という計算になります。

参考:厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について(令和3年7月9日)」別紙1

現役世代の減少で労働力不足が進み、各業界で採用競争が激化する状況下で介護人材の確保をするには、積極的な対策の実施が急務です。

対策

2035年に予測される介護需要の高まりに対する人材不足への対策は以下が考えられています。

  • 介護職員の処遇改善

介護職の労働条件や給与の改善が必要です。これにより、介護職に対する魅力が高まり、人材確保が期待できます。

  • 多様な人材の確保・育成

異なる業界経験者やさまざまなバックグラウンドを持つ人材を積極的に受け入れ、育成することで人材の間口を広げる必要があります。
これにより、多様なスキルやこれまでなかった視点が導入され、介護サービスに活かされます。

また、専門教育の拡充や介護医療関連資格の取得のための支援金制度を整備し、スキルの高い介護人材を育成することで介護サービスの質を向上させます。

  • 離職防止・定着促進・生産性を向上

激戦の末採用した介護職員が離職しないよう、働きやすい職場環境を整えることも大切です。
また既存の業務の見直しをし、積極的にICT化や外部サービスの導入を検討し、マンパワーに依存せず労働生産性の高い職場作りが必要です。

  • 介護職の魅力向上

介護職の社会的な評価の向上やキャリアパスの明確化など、職業としての魅力を高める施策や情報発信などが求められます。

  • 外国人材の受入環境整備

外国人の介護医療人材の受け入れや育成を進め、不足する労働力を確保する必要があります。介護現場でも職場でも、多様な文化や言語に対応できる準備をしておくことが大切です。

参考:厚生労働省「介護分野をめぐる状況について」

2035年問題② 労働人口の減少と日本経済の縮小

少子化による現役世代の減少

高齢者の急増による介護医療人材の不足」でも触れたように、高齢化と少子化が同時に進行することで2035年には人口の1/3が高齢者になると見られ、15歳~64歳の現役世代の人口は全体の57.6%(2023年時点59.4%)、0歳~14歳は10.0%(2023年時点11.4%)まで減少する予測が立てられています。

日本の労働人口が減ることで、経済市場は縮小せざるを得ないと考えられています。

地域間格差、世代間格差が広がる

少子高齢化が進むと、都市部とそれ以外とで高齢者の割合や若年層の流出入の割合の差が顕著になり、地域間での格差が大きくなることが予測されます。

都市部では若年層が集まる一方で、それ以外の地域では労働力が流出し、地域の活力低下や高齢者への介護サービス需要がさらに高まることになります。

また若者は医療保険や年金の負担などから経済的に厳しい状況に置かれ、高齢者は自身の生活費や介護などの問題に直面します。
地域格差だけでなく世代間でも、格差が大きくなると見られています。

対策

少子化による労働力の減少と経済の縮小への対策は以下の内容が考えられます。

  • 働き方改革の推進

労働環境の改善や柔軟な働き方の導入により、どんな人も働きやすい社会構築を目指す必要があります。
テレワークやフレキシブルな労働条件の普及を進め、働く人々にとって魅力的な環境を整備します。

  • 女性の活躍促進

女性の社会進出を促進し、家庭や介護でキャリアを諦めざるを得ないという状況がないように支援が必要です。
男性の育児参画の促進や、保育所や介護施設の整備などをしながら女性が働きやすい環境を整えます。

  • 外国人労働者の積極的な受け入れ

人手不足を補うために、必要な分野での外国人労働者の積極的な受け入れが必要です。
異なる文化や言語の問題を乗り越えるために、受け入れ側の体制も準備します。

  • 高度技術の導入と人材育成

自動化ツールやAIなどの高度技術の導入により、業務の効率化を図る必要があります。
同時に高度技術を扱うための新たなスキルや職種に対応するための教育・訓練プログラムを充実させます。

  • 生涯学習の推進

生涯学習の機会を拡充し、支援する施策が必要です。
個々が社会の変化に適応したスキルや知識について継続的に更新することで生産性の向上につながります。

  • 出生率を上げるための政策の見直し

出生率を上げるために、結婚から妊娠・出産に関する経済的なインセンティブや支援策を検討し、子どもを持ちたい人が増える社会の構築が必要です。

  • 地域振興と移住支援

地方の人口減少を食い止め、地域振興を図るために、働き手を地方に呼び込むための施策や魅力づくりが必要です。

2035年問題③ 医療保険制度が崩壊の危機

高齢化率が高まり続ける中、現行の医療保険制度は限界を迎える可能性が出てきています。

これは高齢者の急増に伴い介護や医療ニーズが高まることで医療費が増大する一方で、労働者層の減少により保険料の収入は減り、税収と医療費のバランスが崩れるためです。

これにより、十分な医療サービスが提供できなくなり、国民の健康保障が脆弱化する懸念が出てきています。

対策

将来的な医療保険制度の崩壊を防ぐために、次のような対策が必要だとされています。

  • 予防医療の強化

生活習慣病予防や介護予防のため、健康的なライフスタイルを普及させる必要があります。
また健康診断や予防接種を自発的に受けてもらえるように発信し、病気の早期発見・治療を促進します。

  • ICT技術の効果的利用

レセプト情報等のデジタル化や遠隔医療の推進により、医療の適切な効率化と患者の利便性向上の両立を図る必要があります。

  • 地域包括ケアの構築

医療機関や介護施設、地域住民との連携を深め、地域全体での包括的なケア体制を築き、病気の予防や患者の健康管理が円滑に行われるように働きかける施策が必要です。

  • 医療制度の財政的な持続

適切な予算の配分や医療機関経営の効率化支援を行い、無駄なコストを削減する必要があります。
また高齢者や高所得者層の医療費負担率の見直しも対策として挙げられます。

参考:厚生労働省「あるべき医療サービスを支えるための医療保険制度の機能強化」

2035年問題④ 年金制度の賦課方式が成り立たなくなる

少子高齢化が進むと、年金制度の賦課方式に課題が生じます。

年金制度の賦課方式とは?
労働者や企業が給与や収益に応じて一定の割合で年金保険料を支払い、これによって年金制度の運用資金を調達する方式です。

少ない現役世代で急増する高齢者を支える必要があるため、1人あたりの年金負担が増加する見込みです。若年層の負担が増えすぎれば、制度の持続自体が不可能になります。

年金制度の抜本的な見直しや、新しい財源確保策などを検討し、持続可能で公平な制度の構築が求められます。

対策

年金制度の賦課方式を維持するためには、次の対策が考えられます。

  • 高齢者の再雇用を促進し、労働力の底上げを図る
  • 女性が働きやすい労働環境を整える
  • 年金保険料の負担率を引き上げる
  • 現役世代の人口減少とともに年金の給付水準を調整する
  • 公的年金と私的な年金商品を組み合わせ、個々の年金資産を多様な形で運用する

参考:厚生労働省「教えて!公的年金制度 少子高齢化にどのように対応しているの?」

2035年問題⑤ 少子高齢化に伴う企業への影響

人材確保の競争が激化

高齢者の増加と共に現役世代の割合も出生率も減少し続けることで、企業は限られた労働力を巡り激しい採用競争が発生すると見られています。

企業は優秀な若手人材を確保するため、賃金アップや働き方のバリエーションを求められたり、他社との差別化やブランド力の向上などの競争力が求められるようになりそうです。

働き方の変化

高齢者や女性が活躍するために、テレワークなどの柔軟な働き方や、育児介護休暇の取得の奨励など、ワークライフバランスの充実が重要視され、企業はこれに対応する改革を進める必要があります。

事業の存続・承継の問題

経営者の高齢化や後継者不足が進み、事業の継続が難しくなるという課題が出てきます。
これにより、地域の産業が衰退する恐れがあります。

対策

2035年問題で企業が抱える問題の対策として次のものが考えられます。

  • 女性や高齢者が働きやすいワークライフバランスを尊重した、柔軟な労働条件を整備する
  • 従業員の健康促進とメンタルヘルス対策を実施し、全体の生産性向上をはかる
  • 外国人やシニア層など多様な人材の積極的な雇用
  • AIやテクノロジーを活用して、業務内容の見直しや効率化を図る
  • 事業継承問題がある場合は、早めに次期経営者について議論したり、支援センターや専門家に相談する

行政が取り組む2035年問題への備え

「保健医療2035」2035年を見据えた保健医療のビジョン

「保健医療2035」は、急激な少子高齢化や医療技術の進歩に対応するため、2035年を見据えた保健医療政策のビジョンを策定するために行われる懇談会です。
国民の健康増進、保健医療システムの持続可能性、国際的な貢献、地域づくりなどに焦点を当て、戦略的な取組について検討します。

報告書では、医療・介護のニーズの多様性や急増する高齢者層に対応するため、プライマリ・ケアの充実やIT技術の活用が必要だと強調されています。

また、現役世代の減少から医療保険サービスは調整が必要であるとし、将来の医療制度の在り方について持続可能なものを検討すべきという提案がされています。

参考:厚生労働省「保健医療2035」

「こども家庭庁」出産・育児支援の拡充へ

こども家庭庁は2023年4月1日に発足した行政機関です。

少子化が深刻化する中、これまで多数の省庁にまたがり煩雑になっていた子どもに関する政策を一元化し、効率よく実施するためにできました。

具体的には、子育て支援プログラムの提供、児童虐待の予防と早期発見・対応、学校教育の充実、労働環境とワークライフバランスの整備などに注力しています。

参考:こども家庭庁

介護人材不足の解消に向けた処遇改善

厚生労働省は介護人材不足の対策のため、兼ねてから処遇改善の補助金を支給してきましたが、他業種と比較しても介護職員の賃上げ率は低く、結果として異業種への人材流出が課題になっています。

そのため、2024年2月から介護職員に月6000円の賃上げを実施するため、2023年度の補正予算案に関連経費を計上しました。

2024年6月に介護報酬が改定される間の人材流出対策として、介護事業所に補助金が支給されます。

参考:厚生労働省「令和5年度補正予算案の主要施策集」

2035年問題だけじゃない!予測される社会課題

「〇〇年問題」と呼ばれる、年ごとに顕在化する社会問題は2035年問題だけにとどまりません。

ここからは過去から未来に予測されている問題を解説します。

参考:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」

2020年問題

2020年問題は、団塊ジュニアの高齢化に伴い、人件費の上昇や教育改革、空き家増加が社会課題となりました。
65歳以上の高齢者が総人口の28.6%となり、雇用と医療費の増大が懸念されました。

2025年問題

2025年問題は、第1次・第2次ベビーブーム世代が前期高齢者になる時期で、高齢化率が約3割に達し、医療費が急増する課題があります。

政府は「令和4年版高齢社会白書」に基づき、医療保険制度の改革や新しい働き方の導入、高齢者雇用促進策などを進めています。

医療制度の見直しや技術の活用により、将来の課題に対処し、持続可能な社会の構築が目指されています。

2040年問題

2040年問題は、団塊ジュニア世代が高齢者になり、高齢化率が約35%まで上昇すると見込まれます。

これにより企業の人材不足、社会保障費の増大、老朽化したインフラの課題が深刻化する可能性があります。

政府は労働政策の見直し、再教育制度の整備、技術革新の促進、人材の流動性向上など、多岐にわたる対策を進めています。

2040年問題についてもっと詳しく>>

2035年問題に関するよくある質問

Q.2035年には正社員という働き方がなくなる?

2035年に直面する少子高齢化に伴う労働力不足により、企業は人材確保のために副業やリモートワークなど柔軟な働き方を用意し、高齢者の再雇用や女性が働きやすい環境整備など様々な働き方改革をする必要があります。
さらにAIやVRなどの技術進化による自動化、会社単位ではなくプロジェクト単位での人材招集の広がりなど、人員削減と新たな雇用形態の模索が進むと見られています。
労働者の働きやすさと生産性の両立のため、正社員雇用にこだわる企業は少なくなると見られています。

参考:厚生労働省「働き方の未来2035」

Q.2035年問題と2025年問題はどう違うの?

2025年問題とは、団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)になり、医療介護の社会保障費の急増や介護人材不足が顕在化するなどの問題があります。

2035年問題では、団塊の世代が85歳以上となり高齢化率がさらに上昇し、人口の3人に一人が高齢者になります。介護人材不足や社会保障費の負担、経済の縮小などが深刻度を増すと見られています。

まとめ

2035年問題は少子高齢化が進行する中で、日本が直面する重要な課題です。

高齢者が急増する一方で、生まれ育つ子供の数が減少し、社会保障や医療制度への負担が増大しています。
これにより、医療や介護の需要が増え、人口構造の変化が社会全体に及ぼす影響が深刻化しています。

また、働き手の減少や人口の地域格差も懸念され、経済や社会の安定に影響を及ぼす可能性があります。

2035年問題の解決には、効果的な少子化対策や社会保障制度の改革、柔軟な労働環境の整備が求められています。

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