2040年問題は、日本が超高齢社会に直面して生じる深刻な社会問題の総称です。
2040年には高齢者の割合がピークになる一方で生産年齢人口は急減し、社会保障や経済に大きな影響を与える可能性があります。
この記事では、その背景や将来の人口予測を踏まえ、2040年問題の内容や2025年問題との違い、その対策についてわかりやすく解説します。
2040年問題とは?
国立社会保障・人口問題研究所が令和5年に発表した「日本の将来推計人口」によると、2040年の日本は65歳以上の高齢者が全人口の34.8%に達すると見られています。
逆に15歳~64歳の生産年齢人口は、2025年時の推計と比較すると1096万人も減少します。
WHO(世界保健機関)と国連は、65歳以上の人口(老年人口)が総人口の21%を超えた社会を超高齢社会と定義していますが、日本は2007年の段階で超高齢社会に突入しています。2040年の日本は、その超高齢社会をはるかに超えた高齢社会に突入すると見られています。
こうした2040年の人口構成の変化により、医療、介護、年金などの社会保障やインフラの維持が困難となるほか、労働力不足から経済が縮小するなどの問題が出て来ると予想されています。
参考:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」
2025年問題や2035年問題とは何が違う?
2040年問題について理解するには、その前に迫る2025年問題や2035年問題についても理解を深める必要があります。
ここでは各〇〇年問題の概要と、2040年問題との違いを解説します。
2025年問題とは
2025年問題は、団塊の世代が全て後期高齢者である75歳以上となり、全人口の17.8%にあたる約2,180万人に達することで顕在化する社会問題の総称です。
医療費や介護費などの社会保障費が急増するほか、高まる介護需要に対して約32万人もの介護人材が不足する見通しです。
2030年問題とは
2030年には、生産年齢人口比率が60%以下になり、労働力が約644万人不足すると試算されています。
これにより、経済の低成長や企業の活力喪失、国際競争力の低下が懸念されています。
また公務員の人手不足により、公共事業・教育機関などの運営に支障が出たり、質の低下を招く可能性が指摘されています。
2035年問題とは
2035年には、団塊世代が全て85歳以上に達し、高齢者の急激な増加と同時に現役世代の減少が進みます。
この年に介護業界に求められる人材は約297万人ですが、実際に供給できる見込みの数は約228万人にとどまり、約69万人が不足する計算です。
さらに医療・介護需要は高まり社会保障費が増加、現役世代の税負担が大きくなり過ぎれば、社会保障の仕組みそのものの持続が難しくなります。
労働力不足は介護・医療関係にとどまらず、多くの企業が厳しい採用競争を繰り広げ、労働者を獲得するために新たな働き方の模索や環境の整備が必要になります。
参考:ドクターメイト「約3人に1人が高齢者」と同様に深刻な「高齢者の高齢化」問題
高齢者人口増加の「過渡期」が2025年問題「ピーク」が2040年問題
2025年問題や2035年問題、そして2040年問題はいずれも世代人口の変化による問題ですが、2025年問題が高齢者人口の過渡期にあたるのに対し、2040年問題はそのピーク時であるという違いがあります。
問題の深刻度は増し、社会を維持するための費用の不足と同時に、持続可能性が困難になる懸念があります。
これらの問題に対処するためには、社会保障制度の抜本的な改革、健康寿命の延伸の促進、医療・介護サービスの生産性向上など包括的な施策が必要です。
2040年問題① 社会保障給付と負担の見直しの必要性
2040年には全人口が1億1千万人ほどになり、そのうち65歳以上の高齢者が35%以上に達し、さらに後期高齢者である75歳以上の人口は20%以上にまで上昇すると予測されています。
同時に、生産年齢人口(15~64歳)は2040年には53.9%まで低下する見込みで、2025年の推計と比較するとさらに約1,200万人減少します。
高齢者の増加に伴い医療・介護に関する社会保障費が増大する一方で、生産年齢人口の減少により納税者は減少し、社会保障制度に対する一人当たりの負担は増加せざるを得ないでしょう。
これに対処するためには、制度の効率の見直しや新たな財源の確保、公平な負担の分担など、包括的な改革が求められます。
対策
2040年問題の社会保障費に関する問題に対処するために、以下の対策が重要とされています。
- 医療・福祉サービス改革
医療・介護の生産性の向上や、経営・マネジメント体制の改革を行う。 - ICTの活用
技術進化を活かし遠隔医療や介護ロボットなどの導入で効率化。 - 社会保障費の給付と負担の見直し
- 健康寿命の延伸
予防医療や健康促進を重視し、健康寿命を3年以上延伸(75歳以上)させることを目標にする。 - 雇用の改革
高齢者層や就職氷河期世代の活躍の場を確保。
参考:厚生労働省「2040年を展望した社会保障・働き方改革について」
2040年問題② 医療介護人員の不足
2035年には団塊世代が全て85歳以上になり、需要が高まる介護業界で必要な人材は約297万人と試算されています。
しかし実際に供給可能な人材は約228万人と試算されており、現状では約69万人の不足が予測されています。
これは2025年時点の介護人材不足(約32万人)を大きく上回る数字であり、介護の人手不足は急速に拡大します。
この予測を回避するには、医療介護職の処遇改善や教育研修制度の充実、労働環境の改善など、包括的な施策が求められます。
対策
2040年問題の医療介護人員不足に対処するために、以下の対策が重要視されています。
- 介護職員の処遇改善
介護・医療従事者への適正な報酬を確保し、働くモチベーションを高め、長期的な人材確保につなげる。 - 教育・研修プログラムの拡充
医療・介護職養成のためのプログラム提供を増やし、必要なスキルや知識の習得を支援する。 - 多様な働き方の導入
柔軟な勤務形態を用意し、職員のライフスタイルに合わせた働き方ができるようにする。 - 技術やITの活用
AIや情報技術を導入して、業務の効率向上や負担軽減を図り、有限な人材でより多くのサービス提供を可能にする。 - 多様な労働者の活用
年齢や国籍などバックグラウンドの異なる人材を柔軟に受け入れ職員を確保する。
2040年問題③ 公務員の不足
2040年には高齢者の急増に伴い医療・介護、福祉など公共サービスの需要が急増するほか、老朽化したインフラの整備も社会問題化すると予測されています。
しかし生産年齢層は減少しており、企業でも採用を急ぐ中で、地方自治体の職員をはじめとした公務員の確保は困難になると見られています。
公務員の不足は公共サービスやインフラの機能低下などの問題に繋がるため、持続可能な社会のためにも対策が必要です。
対策
2040年問題の公務員の不足に対処するためには、以下の対策が重要です。
- 業務の見直し
業務の民間委託や地域運営組織の活用などにより、業務の効率を改善する - 共同・広域で行政サービスを行う
他地域と共同して行政サービスを行い、限られた人材を活用する。 - 職場の魅力向上
公務員への適正な給与水準の確保や働きやすい環境の整備により、若者の採用や定着を促進する。 - デジタル化と技術の活用
システムの導入やデジタル化などDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進することにより、業務の自動化や効率向上を図る。
参考:日本総研 蜂谷勝弘「地方公務員は足りているか―地方自治体の人手不足の現状把握と課題」
2040年問題④ 労働人口の減少による経済の縮小
国内の生産年齢人口(15~64歳)は2025年の推計から2040年までに約1,200万人の減少が予測されています。
この急激な減少により労働力不足が深刻化すれば、経済全体の生産性低下を引き起こし、国内総生産(GDP)の伸びは鈍化、経済全体が縮小していく可能性が高まります。
対策
2040年問題の労働人口の減少に対処するためには、以下の対策が考えられます。
- 労働力の多様性促進
高齢者や障害者、女性などの雇用機会の拡充と職場環境の改善を図る。 - 働き方改革の推進
フレキシブルな働き方やテレワークなど、柔軟性のある労働環境を整備し、働く人々にとって魅力的な職場を提供する。 - 教育・スキルの向上
技術の進化に対応するため、生涯にわたる学びを促進し、労働者が必要なスキルを身につけやすい環境を整備する。 - AIなど最新技術の有効活用
デジタル技術の導入や業務プロセスの改善により、限られた労働力でも生産性を向上させる。 - 外国人材の活用
高度な技術や専門的なスキルを持つ外国人材を積極的に受け入れ、労働力を確保する。
2040年問題⑤ 企業の人手不足
高齢化や生産年齢人口の減少が原因となり、様々な産業や業種において労働力不足が問題になると予測されています。
これが進むと採用コストの上昇はもちろん、生産性の低下や業務の遅延、サービスの品質低下などが起こり、企業の競争力が低下する可能性があります。
対策
2040年問題の企業の人手不足に対処するためには、以下の対策が重要です。
- 女性や高齢者が働きやすい環境の整備
女性や高齢者が働きやすい環境づくりや制度を作り、労働力の底上げを図る - 教育・研修の強化
若年層や未経験者に対して、必要なスキルや知識を提供するための効果的な教育・研修プログラムを用意し、人材の育成を図る。 - 多様な人材の活用
年齢や性別、国籍などに関係なく多様な人材を受け入れ、労働力不足の緩和を図る。 - 働き方の柔軟性
フレキシブルな働き方やリモートワークの導入など、労働者にとって柔軟で魅力的な働き方を提供する。 - AIやロボットなどテクノロジーの導入
自動化や効率化のための最新技術の導入により、人的リソースの有効活用を図る。 - 新しい雇用契約の検討
プロジェクト単位や期間限定の雇用契約など、従業員と企業のニーズに合わせた柔軟な雇用形態を模索する。
個人が2040年に備えてとるべき対策
日本の2040年問題は少子高齢化に伴う様々な問題が折り重なっており、将来の個人の生活にも大きく影響を与えかねない深刻なものです。
2040年問題の対処のために行政や企業が改革を行うことはもちろんですが、個人レベルでできる備えや対策を実行することも大切です。
個人でできる対策としては次のものがあります。
- 資産形成と老後の備え
老後の生活費や医療費に備えるため、年金だけに頼らず、積立投資や個人の資産形成をしておくと安心です。 - 健康の維持
健康な体を維持することは、医療費の削減や生活の質の向上につながります。定期的な健康診断や適切な食生活、運動習慣を心がけましょう。 - スキルの向上とキャリアプランニング
テクノロジーが進化する中で、自身のスキルを向上させ、柔軟性を持つことが重要です。転職や副業、スキルアップなどを検討し、キャリアプランを見直しておくと良いでしょう。 - 住まいや生活環境の見直し
老後の住まいや生活環境について検討し、自宅のリフォームや移住など、将来の生活設計を考えることが大切です。 - コミュニティ参加と人間関係
地域社会や趣味のコミュニティなどに参加し、人間関係を構築しておきましょう。リタイア後の孤独感の軽減や生きがいにつながります。
これらの対策は、2040年問題への備えとしても、また個人の将来の安定を考える上での基本的なアプローチとしても有効です。
2040年問題に対して、行政がどういった政策をとるのかを注視しつつ、個人でできる範囲の備えをしていきましょう。
2040年問題に関するよくある質問
Q.日本は既に超高齢化社会に突入しているのに、2040年に何が問題となるのですか?
A.2040年には高齢者の比率が一層増加し、そのピークを迎えることが予測されています。
高齢者の数が急増するのと同時に、少子化のために生産年齢人口が減少し続けているため、医療・介護保険制度や年金制度などの維持が困難になったり、経済が縮小し国際競争力が低下するなどの影響が出ると予想されています。
Q.海外でも2040年問題のような問題は起きているのでしょうか?
A.少子高齢化は日本以外にも多くの国で社会問題になっています。特に先進国では、出生率の低下や高齢者率の増加が進み、これによって経済、医療、社会保障などの様々な分野で課題が生じています。
特に中国、韓国、ドイツなどは少子高齢化による社会的・経済的な問題に対応するための政策が模索されています。
まとめ
2040年問題は、高齢者急増と同時に生産年齢人口の減少に伴い、健全な社会の維持や経済成長に打撃を与えかねない課題です。
高齢者率の上昇に伴い医療・介護費の増大が見込まれる中、生産年齢人口の減少により納税者が減少し、社会保障制度への負担は増加することが懸念されています。
これに対処するためには医療・介護保険や年金制度の見直し、新たな財源の確保、ICTの活用、労働力の確保のための働き方改革など、包括的な施策が求められます。
また、2040年問題に備えて、個人としても資産形成や健康維持、キャリアの構築、生活環境の見直しなど、将来に備えた準備が重要です。
遠い未来の話ではなく今対策を考えなければならない問題として、一人ひとりが考え、政策の実行を注視する必要があるのではないでしょうか。
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