「高齢化社会」というキーワードの根拠としてよく使われるのが国立社会保障・人口問題研究所が国勢調査をもとに算出した日本の総人口に占める65歳以上の高齢者の割合である高齢化率です。現在判明している最新の高齢化率は令和4年(2022年)版高齢社会白書で公表されている令和3年(2021年)10月1日時点の28.9%。前述の国立社会保障・人口問題研究所が2017年の国勢調査をもとに公表した「日本の将来人口推計」の最新版は2019年に公表されていますが、当時の2021年時点の高齢化率推計値は29.1%なので、現状とほぼ同レベルの推移となっています。
これらの数字をもとに「総人口の約3人に1人が高齢者」と言われていますが、実はこの推計値を別の切り口から見ると、感じる深刻度も異なります。
2035年には85歳以上人口が1000万人を突破
その切り口とは心身機能の衰えが顕著となり、認知症患者の割合も増える85歳以上の人口です。同研究所の人口推計では、2035年に日本では85歳以上の高齢者の人口が1000万人を突破する見込みです。今現在の日本の総人口は1億2500万人強ですが、すでに人口減少のトレンドに入り、2035年の人口は1億1500万人強と推計されています。つまりその時点では日本人の約10人に1人が85歳以上の高齢者となります。
さらに、65歳以上の高齢者では、「高齢者の高齢化」というさらに特異な状況が発生します。これは65歳以上の高齢者を65歳~74歳の前期高齢者、75~84歳の若年後期高齢者というべき層、85歳以上の3区分に分けると、人口の絶対数は前期高齢者が最多にもかかわらず、2035年にかけては前期高齢者、若年後期高齢者の人口は減少トレンドに入りますが、85歳以上は10%台後半から20%前後の伸び率を示す現象を指します。すでに65歳未満の人口そのものが減少していますので、2035年までは社会保障制度による濃密な支援が必要な層だけが右肩上がりで増加するという事態が起こります。
大都市圏で「高齢者の高齢化」が進む
ニッセイ基礎研究所のレポートによると、2021~2035年にかけての85歳以上の高齢者の都道府県別伸び率は、トップが埼玉県の91.4%、以下順に千葉県が84.3%、神奈川県が77.0%、愛知県が76.1%、大阪府が73.4%など、大都市圏が上位を占めています。その一方、すでに高齢化率や人口減少率が高い東北、中国、四国、九州では20~30%台にとどまっています。結局、日本全国を俯瞰した場合、今後の高齢者医療・介護の主戦場は、もともとの人口密集地帯である首都圏、近畿圏、中京圏となるわけです。
労働人口減少時代に介護業界はどう立ち向かうべきか
もちろん介護でも今後サービス需要は増加していくわけですが、だからと言って介護業界にとってはプラスとはとても言い切れないのが現状ではないでしょうか。そもそも従来から繰り返し言われているように介護業界は慢性的な人手不足です。厚生労働省が公表している第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数で見れば、2019年実績値よりも2025年度では約32万人、2040年度では約69万人に介護職員増が必要になります。2035年の数字は示されていませんが、低く見積もっても直近より約50万人以上の介護職員増が必要になるでしょう。過去の実績を見る限り、この必要性を満たせる可能性は絶望的なほどありません。
しかも、今後は若年労働者人口は減少し続けます。15~64歳の人口は2020~2035年にかけて900万人以上、率にして12.3%も減少します。そして高齢者の中でもより労働可能な前期高齢者人口も前述のようにこの間減少していきます。いずれにせよ介護業界は、サービス需要量の増加が確実であっても、サービス提供側が対応しきれない、もどかしい状態に陥ります。
今回取り上げた2035年は「約10年先じゃないか」と思う人もいるかもしれませんが、決して遠い未来の話ではありません。今からこの状況に備える必要があります。だからといってすぐに大枚の採用コストを払って人材確保に走るのは下策です。なぜならこれは介護業界の最大の課題である「既存職員が定着せず、慢性的に人手不足」の原因改善を棚上げにしているからです。では、なぜ既存職員が定着しないかといえば「業務がハードな割に給与水準が低い」と統計データからは出ています。
とはいえ介護事業者にとっては公的介護報酬が主たる収入源である以上、事業所ごとに収入上限はおのずと決まってしまいます。また、公的介護事業である以上、昨今のような物価高によるコスト上昇分を利用者に転嫁もできません。少なくとも現状では既存職員の給与水準アップはかなり至難の業といえます。
また、給与面だけでなく、そのほかの離職理由も挙げられていることから給与だけの対策では、定着を促し切ることは難しいと考えられます。その上で当面対応可能な方策は「ハードな業務負荷の軽減」の一択となります。この場合は泥臭いかもしれませんが、まず取り組むべきは事業所に関わる業務とその役割分担の再検討を通じて業務上のボトルネックを発見することです。
発見したボトルネックはソフト面の工夫で改善できるもの、IT活用や外部業務委託などハードの導入で改善可能なものに分類します。このうち後者は初期費用が掛かることが少なくないことや現場業務そのものを良くも悪くも大きく変える可能性があるため、導入に二の足を踏むケースが少なくありません。
しかし、人材不足が解消される見込みのない現下の情勢では懸念事項のみにとらわれて足踏みしてしまうのも考え物です。まずはトライ・アンド・エラーを前提に一歩踏み出してみることも必要です。
そしてこの業務負荷改善で何らかの実りが得られれば、職員の意欲向上やそれに伴う定着率アップに希望が持てるようになります。このことはどうしても必要な人材確保のための採用活動時のアピールポイントにもなり得えることも念頭に置いておくべきでしょう。
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