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閣議に影響力をもつ「全世代型社会保障構築本部」とは

厚生労働省見出し

政府は11月24日に「全世代型社会保障構築本部」を開催し、岸田文雄首相は加藤勝信厚生労働相に対して、介護人材の確保に向けた総合的な政策パッケージを年内にまとめるよう指示を出しました。介護業界にとって人手不足の解消は長年の懸案ですが、「年内」という期限ですから、残された時間はあと1か月もありません。過去20年来、業界を悩ませ続けてきた問題に対してわずか1か月で妙案が出るのかと不思議に思っている方も少なくないでしょう。そこで今回は改めて、「全世代型社会保障構築本部」の正体と関連した政府の政策決定のプロセスを中心に解説したいと思います。

政策を提言する「全世代型社会保障構築本部」とは?

先進国有数の少子高齢化社会が進行する日本では、かつてはよく「現役世代〇人で高齢者1人を支える」という表現が良く使われていたことを覚えている人も少なくないと思います。第二次世界大戦敗戦から10年後の1955年頃から1973年頃まで、日本は実質経済成長率が年率10%前後の「高度経済成長期」を迎えました。これにより戦後復興を果たすのですが、現在の社会保障制度はこの時期に形成されました。具体的には1958年に制定された国民健康保険法に基づき、1961年に国民健康保険事業が開始されたことで医療での国民皆保険が実現するとともに、同じ1961年には国民年金制度が施行され、国民皆年金体制がスタートしました。

当時の人口構成は若年層が多く、高齢者層が少ない、いわゆるピラミッド型人口構成で、かつ経済成長が著しかったため、若年勤労層が支払う税金と保険料で高齢者が受ける医療や年金を支えることが可能でした。つまりこの時期は、高齢者は一方的な社会保障の受益者で、「現役世代〇人で高齢者1人を支える」が成立しえた時代でした。しかし、1980年代後半に始まったバブル経済の崩壊とその後も続く経済成長低迷と医療技術の進歩による長寿化、さらには家庭観の多様化が生み出した少子化により、このモデルの継続が難しくなりました。そこで出てきたのが「全世代型社会保障」という考えです。

この言葉が最初に登場したのは実は旧民主党政権時代、野田佳彦内閣時代の社会保障制度改革国民会議の報告書です。同国民会議の報告書には「給付・負担の両面で世代間・世代内の公平が確保された制度」と記述されていましたが、当時は子育て支援などの若年層への「給付」の横展開が中心で、「負担」の横展開、すなわち高齢者の一部への税や社会保険料の応分負担についてはあまり触れていませんでした。その後自民党の政権復帰により成立した第二次安倍晋三内閣の下、これを受け継いで社会保障制度改革プログラム法が成立。それに基づく「社会保障制度改革推進会議」が内閣に設置され、この全世代型社会保障の具体論が詰められてきました。今回の全世代型社会保障構築本部は同推進会議の後継組織として岸田文雄内閣の閣議決定で成立し、引き続き全世代型社会保障の具体策を詰めています。

介護人材の給与水準については論点に含まれず

構築本部で現在介護に関して挙げられている主なものは以下の2点です。

・地域包括ケアシステムの更なる深化・推進のため、例えば、地域の拠点となる在宅サービス基盤の整備や、地域包括支援センターの体制整備等を推進

・介護職員の働く環境の改善に向けた取組の検討(介護サービス事業者の経営の見える化や優良事例の横展開、ICT・ロボットの活用等による現場の生産性向上、行政手続のデジタル化等による業務効率化、経営の協働化・大規模化等による人材や資源の有効活用)

これに対して厚労省が現状で行っている対策は▽介護に関する入門的研修実施▽人材育成等に取り組む介護事業者の認証評価制度▽介護現場における多様な働き方導入モデル事業▽介護の仕事の魅力発信などによる普及啓発、などいずれも失礼ながら実効性・即効性に乏しいものが目立ちます。

また、介護の人材確保を困難にしている理由の1つは待遇面、ズバリ言えば給与水準の低さですが、今回の構築本部の論点には含まれていません。これはすでに岸田首相が指示に基づく処遇改善加算などが実現していることが背景にあるとも言えそうです。もっともそれをしてもまだ介護職員の給与水準は低い方に位置します。ただ、2024年の診療報酬・介護報酬などの同時改定を控え、かつコロナ禍の影響で医療機関の経営も困難を極めている中で、介護のみ報酬アップの新たな予算を確保するのはかなり難しいと言えるでしょう。

提言は「骨太の方針」に反映 介護人材確保の実効性・即効性には疑問も

ここでの議論が、内閣が重要政策を決定する会議体の一つである経済財政諮問会議に送られ、毎年6月に閣議決定される「経済政策・財政政策の基本方針(通称・骨太の方針)」に反映されます。構築本部が現在出している論点、しかも厳しい言い方をすれば、いずれもこれまで言い古されている論点の枠内で多少具体策が出てくるかもしれないと考えておくのが無難です。いずれにしても年末までにはある程度の具体策は見えてくるとは思いますが、現場にとって期待できる内容になるかは疑問です。

人材確保に関する続報を追っていきながら、同時並行で職員が辞めない施設を目指し、職場環境を整備していくことが賢明といえるでしょう。

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