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【ニュース解説】全国の水道事業者の3割が赤字運営 将来、水道料金はどこまで上がる?

昨今明らかになっている介護施設の経営分析では、物価高に伴う光熱水料の上昇が経営を圧迫していることが浮き彫りになっています。この問題は介護業界に関わらず、あらゆる業界の関係者を悩ませています。こうしたことを受けて2023年1月から政府による電気ガス価格激変緩和対策事業がスタートし、国の資金で各電力会社やガス会社の料金引き下げが行われてきました。同事業が今月末で終了します。各業界とも今後は光熱水料の上昇にさらに悩まされることになります。この中で同事業の対象にはなっていない水道料についてはどうでしょう?

水道関連では今年4月に大きな変化がありました。これまで水道行政は、上水道を厚生労働省(以下、厚労省)、下水道を国土交通省(以下、国交省)、工業用水を経済産業省が所管してきましたが、このうち上水道について厚労省から施設の整備・管理を国交省、水質・衛生関連業務を環境省に移管しました。

さて今回の行政移管の背景や昨今の物価高騰は今後、水道料金にも影響してきます。まず、上水道運営の最終責任は国にありますが、実際の運営は市区町村が行っていることはよく知られています。この運営コストが物価高により近年上昇しています。にもかかわらず、上水道の普及・整備と維持・管理は公衆衛生の改善という目的があったため、水道料金は低価格で抑えられてきました。一般市民が水道料の高さゆえに清潔な水を利用できないのでは本末転倒だからです。

しかし、結果として現在、全国の水道事業者(ほとんどが市区町村)の約3割が赤字運営であることが明らかになっています。昨今の少子高齢化は結果として人口減少をもたらし、そのことがさらに水道事業の収益性低下にもつながっています。

こうした現状なども踏まえ、老朽水道管更新などを加速化させるため、2018年の水道法改正では水道事業への民間参入を解禁しています。収益性の重視や顧客ファーストの実現、さらには将来的には現在の電気やガスのように各地域で複数業者が競合し合うことで、より効率的で持続可能性が高く、それでもなお低価格な水道事業へと舵を切り始めているのです。もっともこのことは一歩間違えば、水道料金の高騰にもつながりかねません。

人口減少時代の水道料金はどうなるのか?

こうした将来の水道料金の値上げについて、一般社団法人・水の安全保障戦略機構と世界4大会計事務所の1つアーンスト・アンド・ヤングの日本のメンバーファームでコンサルティング事業などを行うEY Japanは、このほど共同研究「人口減少時代の水道料金はどうなるのか?(2024年版)」の結果を公表しました。

研究は日本水道協会の「水道統計」の令和3年度版、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(令和5年推計)」を使用し、2046年時点で現行の国内の水道事業体が赤字経営とならないために必要な水道料金の値上げの率と値上げ時期を推定しています。

2046年度までに水道料金の値上げが必要とされる事業体は、分析対象となった1,243の水道事業体の96%に相当する1,199事業体となり、その値上げ率は全体平均で48%と推計されました。また、推計によると2046年度までに値上げが予想される1,199事業体の約6割を占める762事業体で30%以上の値上げが必要と見込まれています。

一般社団法人 水の安全保障戦略機構「人口減少時代の水道料金はどうなるのか?(2024 版)」 より

水道料金に関しては事業体間の料金単価に格差があることが知られています。これは水道事業の収益性が自治体の人口規模などに左右されるため、人口が少ない自治体ほど割高になるためです。現在の料金単価の格差は最大8.0倍ですが、今回の推計では2046年度にこれが20.4倍まで拡大すると予想しています。 

一般社団法人 水の安全保障戦略機構「人口減少時代の水道料金はどうなるのか?(2024 版)」 より

また、今後値上げが必要な1,199事業体の約4割を占める503事業体では、2026年度までの今後3年以内に料金値上げが必要と考えられるとしています。今回の推計自体が2046年度を最終地点に置いているため、推計値の冒頭ではやや実感が湧かなかったかもしれませんが、割と直近に値上がりが予想されている事業体も少なくないのが現実です。

法人単位の水道料金が年間ベースで200~500万円増加する可能性も

ここでより現実的なデータに基づいて試算をしてみます。独立行政法人福祉医療機構が2023年4月に公表した「社会福祉法人経営動向調査」では、2022年12月時点の社会福祉法人の月額水道費は、施設定員が30~99人の場合は51万4000円、100人以上の場合は112万円となっています。

これらが仮に3年以内に前述の平均48%値上がりすると仮定すると、月額の水道費はそれぞれ76万円、166万円となります。ざっくり言えば、今後3年以内に社会福祉法人単位の水道料金が年間ベースで200~500万円増加する、かなり由々しき事態が起こるかもしれないということです。その意味では介護業界関係者にとっては、自らが所属する法人がこの3年以内に料金値上げが予想される地域に当たるか否かが気になるところでしょう。

料金の値上げ率が高くなると予想される地域は?

今回の推計では料金の値上げ率が高くなると予想される事業体について具体的な推計を示しています。結論を言うと、(1)給水人口の少ない(2)人口密度が低い(3)北海道、中国、四国に多い、となっています。

(1)について。今回の分析対象となった1,243の水道事業体の3分の2は給水人口5万人未満の小規模事業体です。このうち6割以上の事業体が30%以上の料金値上げが必要になると推計されています。さらにこれら事業体では給水人口の規模が小さくなるほど値上げ率は上昇する見込みです。水道事業の収益が人口に依存していることを考えれば、当然の帰結とも言えます。さらに給水人口5万人未満の事業体では50%以上の高率での料金値上げが必要な事業体の割合が増加します。給水人口別に50%以上の値上げが必要になる事業体の割合を示すと、1万5000人未満では40.6%、1万5000人以上3万人未満では36.1%、3万人以上5万人未満では33.5%となります。

(2)については、人口密度が5,000人/㎢未満地域内の半数以上の事業体が30%以上の値上げ率になると推計しています。人口密度別で30%以上の値上げ率になる事業体の割合は、100人/㎢未満では81.1%、100人/㎢以上500人/㎢未満では66.9%、500人/㎢以上1,000人/㎢未満では55.1%、1,000人/㎢以上5,000人/㎢未満では60.0%です。

(3)は地域ブロック別で料金値上げ率が50%以上と推計される事業体の割合が高い順に四国が53.9%、北海道が48.3%、中国が39.3%、東北が36.0%などとなっています。ちなみに最低は関東・甲信越の25.3%でした。

一般社団法人 水の安全保障戦略機構「人口減少時代の水道料金はどうなるのか?(2024 版)」 より

さてここで水道事業体≒市区町村という現実を踏まえ、(1)の人口5万人未満、(2)の人口密度が5,000人/㎢未満、(3)の北海道、中国、四国、のすべてに該当する自治体はどれだけあるかを以下に示します。

全国には現在1741の市区町村があります。このうち(1)に該当するのは1230市町村、(2)に該当するのは1642市町村、と意外に多いことがわかります。この2つをともに満たし、かつ北海道、中国、四国であるのは全部で324市町村あります。該当地域ブロック内では(1)、(2)の条件を満たさない市区町村のほうがわずかであるほどです。高知県に至っては県庁所在地の高知市以外の市町村はすべて該当してしまいます。

さてここで改めて数字を提示しますが、前述のように2026年度までの今後3年以内に水道料金値上げが必要と考えられるのは推計では503事業体。(1)~(3)に該当する324市町村よりも多いのです。つまりこれらの自治体では水道料金値上げに備えた対策に着手するのは待ったなしの状況と言っても過言ではありません。

節水のための設備などは多々ありますが、そうした投資を念頭に置いた経営計画、資金確保計画になるべく早く着手した方が良いのは確実です。

一般社団法人 水の安全保障戦略機構「人口減少時代の水道料金はどうなるのか?(2024 版)」

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