厚生労働省が7月に発表した第9期介護保険事業計画の介護サービス見込み量に基づき推計した介護職員の必要数は、2026年度で約240万人。2022年の同省による「介護サービス施設・事業所調査」で判明した介護職員実数約215万人から見ると、4年間で25万人の増員が必要となります。過去5年間で見ると、最も多い時でも年間3万人程度しか介護職員は増えておらず、推計で示された必要数を満たすことは誰の目から見ても困難なことは明らかです。
そもそも人材の採用以前に他業界に比べ離職率が高い介護業界では、人材定着策の充実が先決とも言われています。そうした中で、株式会社LIFULL senior(本社:東京都千代田区)は、介護施設運営事業者を対象に行った人材定着への取り組みについてのアンケート結果を公表しました。アンケートは7月19日~8月23日にかけてwebアンケートとして実施されました。回答者は介護施設運営事業者に勤務する 58人。
アンケートの結果からは人材の定着効果があったと感じる主な施策は「給与の引き上げ」と「勤務制度の改訂」で、最近では外国人採用が活発化している現状が浮かび上がっています。今回はこの内容を紹介します。
約9割の事業者で「人材定着に課題を感じている」
人材定着に課題を感じていると回答した介護施設運営事業者は89.7%と、約9割にのぼりました。人材の定着に関して感じている課題の具体的な中身(複数回答)については、最多は「給与」、「職場の人間関係」がともに65.5%。これに「勤務体系や休暇制度」が53.4%、「教育・研修の体制」が46.6%、「人事評価制度・キャリアアップ」が41.4%などでした。
人材定着率の向上のために実施している施策(複数回答)を尋ねたところ、最多は「給与、賞与の引き上げ」が63.8%。2番手以降は「研修の充実化」と「業務効率化、ICT導入」がともに41.4%、「通常の休暇制度の変更・創設」が32.8%、「勤務時間・勤務制度の改訂」「昇給制度の整備、改訂」がともに31.0%などとなっていました。
ご存じのように他業界と比較して賃金水準が低いと言われる介護業界では、2012年度介護報酬改定で「介護職員処遇改善加算」、2019年度改定で主に勤続年数の長い介護福祉士の処遇改善を目指す「特定処遇改善加算」、2021年度改定では介護職員の基本給引き上げを目指す「介護職員等ベースアップ等支援加算」など、国も矢継ぎ早に賃上げ対策が講じられてきました。2024年度改定では、これら複雑化した制度を一本化した「介護職員等処遇改善加算」も新設されています。
とくに2021年度改定で新設された「介護職員等ベースアップ等支援加算」については、厚生労働省が行った令和4年度介護従事者処遇状況等調査の結果から、同加算を取得した施設・事業所では、取得前と比較して1年間で介護職員の基本給が1万600円アップしたことがわかっています。
今回のアンケート結果はこうした厚生労働省側の試作とそれに基づく結果とも一致し、より多くの施設・事業所で賃上げに積極的に取り組んでいることをうかがわせます。
「週休3日制の導入」や「フレックスタイムの活用」などで定着増を狙う
一方でアンケートの結果で「給与」とともに、人材定着の課題として挙げられた「職場での人間関係」の改善に資すると思われる施策については、「メンター制度や1on1の実施」が22.4%、「チームビルディングの実施」が12.1%など、実施状況が低率であることが明らかになりました。
実施を検討しているものの実施できていない施策(複数回答)は、トップが「福利厚生の充実化」の27.6%。続いて「通常の休暇制度の変更・創設」、「研修の充実化」がともに25.9%などです。必要性を感じながらも大掛かりな制度変更が必要になるものはどうしても後回しになりがちなことがうかがえます。
そのうえで人材定着のために実施した施策の中で、効果があったもの(単一回答)を尋ねたところ、最多は「給与、賞与の引き上げ」が43.2%。次いで「勤務時間・勤務制度の改訂」が38.9%、「メンター制度や1on1などの実施」が38.5%などとなっていました。
前述のように大きな職場制度変更や人間関係に関わるものは、比較的手が付けられていないのが実態ですが、実施した施設は明確な効果を感じているようです。つまるところ介護職員等処遇改善加算といった国の支援で実施しやすい給与面の改善だけでなく、人材定着のためには、各施設の自助努力で可能な施策も求められていると解釈できます。ちなみに「勤務時間、制度の改訂」の内容としては「週休3日制の導入」や「フレックスタイムの活用」などが挙げられていたようです。
外国人やスポットワーカーに狙いを絞る事業者も
さらに人材不足への取り組みとして「離職者の再雇用」「外国人採用」「スポットワーカー活用」の取り組み状況を「積極的に取り組んでいる」「積極的ではないが一部実績がある」「取り組んでいない」「わからない」の4択(単一回答)で尋ねたところ、「積極的に取り組んでいる」の回答が最も多かったのが「外国人採用」の27.6%で、これについては「積極的ではないが一部実績がある」という回答も29.3%あり、過半数の回答者が取り組んでいました。
その一方で「スポットワーカー活用」は、「積極的に取り組んでいる」が12.1%に対して「取り組んでいない」が55.2%と過半数を占めていました。現在スポットワーク市場は、「タイミー」に代表されるアプリ活用の簡便な人材確保策として活況を呈しており、状況次第では一考に値する選択肢かもしれません。
ちなみに今回の結果を受けて同社では「介護に不向きな人を採用すると、サービス品質の低下だけでなく、既存職員のモチベーションにも影響が出る。人間関係が原因での退職が多い現状を踏まえれば、人材の適性判断が一層重要」と提言しています。
株式会社LIFULL senior プレスリリース
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