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【ニュース解説】介護業界への転職者 8割以上が転職後に資格を取得

介護業界での転職経験者の転職後の状況に関する調査結果はあまり多くはありません。そうした中で学研ホールディングスのグループ企業である株式会社ベンド(本社:東京都)が運営する「スキルアップ研究所」がこのほど行った調査から、こうした転職者は短期的・長期的労働条件のどちらを重視しても転職満足度は比較的高く、キャリアアップについても積極的であることがわかりました。今回はこの内容について解説します。

同調査は「介護業界における転職者の転職後の実態に関する調査」という名称で、介護職に転職し、現在も介護職に就いている人を対象に8月下旬にインターネットを通じて行われました。回答数は100。なお、公開された調査概要では、対象者がもともと介護業界内で転職した人か、他業種から介護業界に転職した人が含まれるかは明確にはされていません。

短期的な条件を重視する転職者が多く

「介護業界への転職を決めた一番目/二番目の理由を教えて下さい」との設問では、一番目、二番目の理由の合計で最多が「前職へのやりがいがなくなったから」でした。一番目、二番目の理由ともこれがトップです。前職での仕事への意欲や満足感の欠如が大きな動機となっていることがわかります。また、合計で2番目に多かった回答が「ライフスタイルの変化があったから」(一番目の理由で同率トップ、二番目の理由で7位)で、個人の生活環境の変化も転職の重要な契機となっていることが読み取れます。このほかで多かった理由は「ライフワークバランスに不満があったから」「会社の将来性が不安だったから」などです。

「転職時には短期的な条件と長期的な条件のバランスをどの程度考慮しましたか?」との設問では、「短期的な条件のみを重視した」が最多の37%、以下順に「短期的・長期的な条件をバランスよく考慮した」が29%、「短期的な条件をやや重視した」が19%、「長期的な条件をやや重視した」が13%、「長期的な条件のみを重視した」が2%。

概観すると、過半数が短期的な条件に重きを置いていたことになります。転職のきっかけの最多が「前職へのやりがいの欠如」というやや長期的視野も含む理由であることを考えると、矛盾しているようにも思えます。この点について研究所では「経済の不確実性や生活費の高騰により、転職者が将来の成長よりも目先の安定した収入や即時的なメリットを優先せざるを得ない状況にあることが考えられる」と分析しています。

介護業界への転職の「転職満足度」は概ね高い

一方、「介護業界への転職に対する総合的な満足度を点数で表すと何点(10点満点)になりますか?」との設問では、前述の転職での短期的あるいは長期的な条件の重視姿勢にごとに満足度が異なることが明らかになりました。

短期的な条件を重視した(「短期的な条件のみを重視した」と「短期的な条件をやや重視した」の回答者)人では、最多が10点の75.6%で、7点以上の回答が8割超にのぼりました。これに対し、長期的な条件を重視した(「長期的な条件のみを重視した」と「長期的な条件をやや重視した」の回答者)人では、最多が9点の23.0%で、それ以外では10点、8点、7点がそれぞれ15.4%で同率2位でした。「短期的・長期的な条件をバランスよく考慮した」した人では、最多が7点の34.6%、以下順に6点が24.1%、5点と8点がともに13.8%でした。

この結果について、同研究所では「短期的なメリットを重視した転職は高い満足度を得やすいが、長期的な視点を重視した転職は極度に低い満足度にはなりにくく、慎重な期待が反映された結果となっていると考えられる。また、短期的・長期的な条件をバランスよく考慮したグループは、6点から8点の間に満足度が集中しており、最も安定した満足度をもたらしていることも読み取れる」と分析しています。要は「短期的・長期的条件のどちらを重視しても満足度は比較的高い」というやや玉虫色の評価です。

もっともこの結果をさらに踏み込んで見てみると、満足度が相対的に低いと考えられる4点以下の割合は、長期的な条件重視派、短期的な条件と長期的な条件のバランス派では10%未満ですが、短期的な条件重視派では10%を超えています。あくまで推測になりますが、短期的な条件を重視した場合、転職後に条件と現実とのちょっとした落差も敏感に感じやすいのかもしれません。

転職後の満足度については、より細かなファクターごとの調査もあります。「転職後の給与や待遇に満足していますか?」という設問では、「とても満足している」が34%、「ある程度満足している」が31%、「どちらとも言えない」が23%、「あまり満足していない」が12%。

「転職後の職場環境や人間関係はどう変化しましたか?」との設問では、「とても改善した」が51%、「少し改善した」が28%、「変わらない」が18%、「少し悪化した」が3%。

「転職前に比べ、キャリアアップの機会は増えましたか?」との設問では、「とても増えた」が50%、「少し増えた」が30%、「変わらない」が17%、「少し減った」が3%で、8割がキャリアアップ機会の増加を実感していました。

概観すると、よりミクロな待遇や職場環境、人間関係、キャリアアップの面でも過半数の転職者が満足し、転職後に不満のある人はかなり少数派であることがわかります。

待遇・職場環境・キャリアアップ機会の三位一体での整備が必要

「転職後、新たに取得した資格があれば教えてください」との設問では、「介護福祉士」を取得した人が最多の44%。それ以外では「介護職員初任者研修」が16%、「介護福祉士実務者研修」が14%、「認定介護福祉士」が7%、「ケアマネジャー」が4%などでした。転職後に資格を取得した人は全体で8割以上にのぼり、前問のキャリアアップ機会に対する回答結果も重ね合わせると、転職を契機に多くの人が資格取得に積極的に取り組んでいることが伺えます。

なお、冒頭でこの調査の対象者に他業界からの転職者が含まれるかどうかは不明と書きましたが、取得した資格の二番手が「介護職員初任者研修」である事実は、他業界からの転職者が含まれている可能性があることを示唆しています。

「将来的にどのようなキャリアを目指していますか?」との設問では、「介護職として専門性を高めたい」が最多の34%。これ以外では「介護教育や研修担当としてのキャリアを築きたい」が25%、「管理職やリーダー職を目指したい」が20%、「独立して介護事業を始めたい」が15%などとなっています。

さらに「今後も介護業界でキャリアを積んでいきたいと思いますか?」との設問では、「はい」が75%、「まだ決めていない」が17%、「いいえ」が8%でした。

今回の調査結果は、「人手不足」「高い離職率」というネガティブキーワードで語られがちな介護業界では、意外なほどポジティブな結果といえます。そして調査回答者の転職後の満足度を見る限り、極めて当たり前のことですが、待遇や職場環境の良好さ、キャリアアップ機会の増加が得られれば、人材の定着率が高まる可能性を示唆しています。

もっとも管理者サイドからは「そのような理想的な職場環境整備は無理」という声もあるかもしれません。しかしながら、介護業界では以前から「他業界と比べ、待遇などが良くないのは構造的な問題」という論理で、一部で待遇や職場環境の改善を半ば放棄している事業所・法人もあることは、業界に身を置く人ならば少なからず目にしていると思います。

今回の調査結果は、人材不足を解消のために待遇・職場環境・キャリアアップ機会の三位一体での整備に取り組む当たり前の努力を決して怠ってはならないことを改めて示していると言えます。

株式会社 学研ホールディングス プレスリリース

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